かわいい赤ちゃんや妊婦さんのイラストと「産休をいただきます ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします」のメッセージが描かれたクッキー

4月中旬、産休に入る女性が職場に配るものとして、X(旧ツイッター)で紹介したところ、「不妊治療中の人に配慮がない」「幸せアピールがうざい」などと、思わぬ形で"炎上"した。

「かわいい」「もらったら嬉しい」と好意的に捉える声もあったものの、そもそも産休は「権利」であるとして、このような形で断りを入れる必要もない、といった声もあった。

SNSやニュース番組でも取り上げられる騒ぎについて、販売業者はどのように受け止めているのか。製作・販売を手がける会社は「10年前からあるデザインだが、炎上はおろかクレームも一切なかった」と戸惑う。

お菓子作りの源流には、社会を震撼させた2児餓死事件を受けて、本来祝福されるべき出産や子育てにおいて、親子と社会とのつながりを取り持ちたいとの思いがあった。会社に届いた批判も真正面から受け止めたいという。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●10年前からあったが「クレームや炎上」は一切なかった

「産休クッキー」の製造・販売を手がけるのは、ドリームエクスチェンジ(本社:東京)の通販事業部「focetta」だ。

同社の代表取締役会長の瀧口信幸さんが、弁護士ドットコムニュースの取材に応じた(以下、コメントは瀧口さん)。

きっかけは、外国籍社員から「日本の『プチギフト』はユニークな慣習だ」という意見があがったこと。その後、客からの要望を受けながら、フードプリンターを活用したクッキーの製造販売を2011年頃から始めた。

かわいいイラストとメッセージを増やしながら、「現在では1000種類を超えるデザイン」から選べるという。

「今回批判の声が上がった『産休クッキー』は、2015年頃、産休を取得するお客さまからオリジナルデザインを依頼され、それがお客さまからも、受け取った方からも共に好評であったことから商品ライン化したものです」

10年近く前から存在するデザインは、炎上することもクレームを届けられることも、これまで一切なかったそうだ。

●「女性の視点がない商売だ」「幸せアピール」批判をどう受け止めているか

批判の種類は大別して、販売業者に対する批判、産休クッキーとそれを職場で配る人に対する批判に分けられるようだ。

まず、販売業者(focettaなど)に対しては、「男性が経営の中心になって、女性を利用した商売をしている」という批判がSNSでは見られるそうだが、瀧口さんは「そんなことは絶対にない」と話す。

通販事業に関わる約30人の従業員のうち、瀧口さんを含めて男性はわずかで、27人が女性。中には、出産を経験した母親もいる。今回、議論の対象になった赤ちゃんのデザインも、子どもを持つ女性デザイナーが手がけたもので「女性目線は外さないようにやってきたつもり」。

「『産休クッキー』を悪習と捉えて非難している人がいるようですが、弊社のお客さまについては知る限り、会社から何かを配るように強要された人はいません。また、産休・育休も法律で保障されている権利であり、頭を下げてお願いするものではないと考えています。

たとえば、『幸せアピール』との批判もあるようですが、産休に入る同僚がクッキーを配って、それを『幸せアピール』だと受け取る方であるならば、その同僚がクッキーを配らなくても不快に思う人なのではないでしょうか。何も伝えずに産休に入る方が大問題になるはずです。

どうしても産休や育休で職場に負担が生まれるのは仕方のない面もあります。重要な仕事を担当していた方が抜けることにより、負担の増す同僚を気遣ったり、感謝の気持ちを伝えたりするのはおかしなことではないはずです。そのような気持ちを伝える際に、弊社がお手伝いをする余地はあるのではないかと考えております」

クッキーを利用して産休に入った客からは、「挨拶で会話に繋げやすかった」とのお礼の手紙が届くそうだ。

●お菓子作りのきっかけは、社会を震撼させた「大阪2児餓死事件」

実は、会社の本業は、お菓子とはまったく関係のない「IT業界」の事業だ。しかし、社会に大きな影響を与えた事件をきっかけに、同社は菓子作りもはじめるようになった。

2010年、大阪市西区で3歳と1歳の姉弟が餓死する事件が起きた。当時23歳のシングルマザーが自宅に1カ月帰らず、ネグレクトしていた。根深い問題を包摂した事件の背景は社会に大きな影響を与え、事件を元にした映画まで作られた。

「亡くなったお子さんが住んでいたのは、当社(大阪の事業所)からもほど近い場所でした。本来、出産・子育ては喜ばしく、周りからも祝福される慶事であるはずですが、親が孤立することで、周りが手を差し伸べられないまま子どもが餓死した痛ましい事件でした。

母親を責めるのは簡単ですが、社員にも亡くなった子どもと同じくらいの年齢の子を持つ親も多く、事件の当事者である親子は孤立した環境にあり、周囲とのつながりがあったら違った結果になっていたのではないかとみんなで話し合いました」

笑顔を増やそうという理念をお菓子作りに込め、その理念が「産休クッキー」をはじめとするデザインクッキーにも残り続けているという。

●どんなデザインだったら…「クレームを届けてくれた人と一緒に考えていきたい」

今回の炎上騒ぎになってから、同社には匿名2件を含む「クレーム」が3件届いた。

どれも詳しくプロフィールが書かれているわけではないため、どんな人が書いているかは定かではないが、おそらく子どものいない女性の立場で書かれているようだという。

「具体的にはデザインに関する文句で、ハートのデザインが許せないというもので、こんなもの受け取っても嬉しくないといった内容のものが書かれていました」

SNSの議論は、「弊社からすれば、お客様とは関係のないところで議論が進んでいるように見受けられます」と指摘する。

「購入してくださったお客さまからはお気遣いいただくメールを頂戴しているところです。注文にも変動はありませんし、競合の会社さんにも影響は出ていないようです」

会社に直接届いた実名の批判は、真正面から受け止めようと考えている。記名の1人には連絡を取ろうと試みている。

「名前の見えないSNSの意見ではなくて、実名の意見にはとことん付き合っていきたいと思っています。デザインがダメだと思う方には、どうやったら喜んでもらえるのかわからない。デザインがダメだと考えるなら、一緒に考えてほしいのです。もしかしたらもっと良いものができるかもしれません」

賛否の「産休クッキー」、10年クレームなく製造業者は戸惑いも…大阪2児餓死事件が原点「どこがダメか一緒に考えたい」