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 DNAとタンパク質の素を操作することで作られたその人工細胞は、生きた細胞のように機能する。それどころか、自由にプログラムすることで自然の細胞を超えた能力を与えることもできる。新たな合成バイオ技術への扉が開いた瞬間だ。

 米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校のチームは、自然なタンパク質を使うことなく、細胞が細胞であるために重要な「細胞骨格」と、それをもつ細胞を合成することに成功。その結果を『Nature Chemistry』(2024年4月23日付)で発表した。

 この細胞骨格をもつ人工細胞は、再生医療・薬物送達システム・診断ツールなど、さまざまな分野での応用が期待されている。

【画像】 細胞を安定させる鍵は細胞骨格が握っている

 細胞はあらゆる生物を構成する基本的なブロックだ。だが、その細胞が形や内部構造を安定して維持できるのは、タンパク質によって作られた「細胞骨格」のおかげだ。

 細胞骨格はまた、さまざまな形に変化したり、周囲に対してさまざまに反応したりと、細胞に柔軟性を与えてくれてもいる。これがなければ、細胞は機能することすらできない大切なものだ。

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動物細胞の模式図 / image credit:WIKI commons

機能する細胞骨格をもつ細胞の作成に成功

 今回、米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校のチームは、プログラム可能なペプチド・DNA技術でペプチド(タンパク質の構成要素)を誘導し、遺伝物質の働きを調整している。

 そして出来上がったのが、きちんと「機能する細胞骨格をもつ細胞」だ。

 この合成プロセスでは自然のタンパク質は使われていない。それでも、完成した細胞骨格は生きた細胞と同じように働き、必要に応じて形や環境に対する反応の仕方を変える。

 論文著者のロニット・フリーマン氏はプレスリリースでこう説明する。

DNAは通常、細胞骨格には現れません。そこで私たちはDNAの塩基配列を再プログラムして、ペプチドを結合させる建築の材料として機能するようにしたのです。

このプログラムされた材料を水滴の中に入れると、構造が形作られました(ロニット・フリーマン氏)
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DNAとペプチドから細胞骨格を持つ細胞を作ることに成功 / image credit:UNC Chapel Hill

細胞を超える人工細胞

 このようにDNAをプログラムできるということは、細胞に特定の機能を与えたり、外部に対する反応を微調整できるということだ。

 今回開発された合成細胞は、生きている細胞ほど複雑ではない。だが扱いやすく、普通の細胞では耐えられないような環境でも機能するという利点がある。

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この合成細胞は50度でも安定しています。普通の人間には適さないような環境でも、驚異的な力を発揮できる細胞を作れる可能性が開けたわけです(フリーマン氏)

 この細胞をさまざまな合成細胞技術を組み合わせることで、再生医療・薬物送達システム。診断ツールなど、いろいろな用途に応用できる可能性があるという。

References:UNC-Chapel Hill researchers create artificial cells that act like living cells - UNC Research / written by hiroching / edited by / parumo

 
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生きた細胞のように機能する人工細胞の作成に成功