組織において、個人が不安や恐れを感じずに自身の考えを表現できる状態を指す「心理的安全性」。前回の記事「企業風土は『会議』に表れる 本音を話せるミーティングをつくるためのルール」では、心理的安全性を高めるための職場ミーティングの運営方法について紹介しました。

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 今回は、心理的安全性を確保するために重要な、相手の「ひととなり」を知る方法に焦点を当ててみたいと思います。

 職場では誰しも「仮面」をかぶり、素の自分を隠して仕事をしています。もちろん、それが普通であり、悪いことではありません。しかし、もしそんな仮面を少し外して、お互いのひととなりをより深く知り合えたら、相互理解と信頼感の醸成につながるかもしれません。では、どのようにして、ひととなりを知り合えばいいのでしょうか。

●「ひととなり」を知り合うことの意味

 心理的安全性のベースとして最も大切なことの一つが「互いのことをよく知っている」こと。つまり、相互理解が重要です。ここでいう相互理解とは、学歴や職歴、得意なスキルなどの表面的な属性だけではなく、その人の価値観や考え方、性格などのより深い部分に対して、互いによく理解し合うことです。

 知らない人と話すときに、相手がどんな人か分からないと、つい相手を警戒してしまいがちです。しかし、相手のことを理解できたと実感した瞬間に、警戒心が解けて、親近感が一気に高まるような経験をしたことはないでしょうか。このように心理的安全性のベースとして、相互理解はとても重要なのです。

●「みんな違って」も安心感があるチーム

 誰かと話している途中で、実は出身地や趣味などに共通点があることが分かり、急に相手に対する親近感が増すような経験をしたことがある方も多いでしょう。相手と自分の共通点をたくさん見つけて、親近感を高めることは確かに効果的です。しかし、本当に心理的安全性が高いチームをつくるためには、相手と自分の「違い」をよく理解することを通して、相手に対する親近感を高めていくことが必要です。

 誰しも自分と違う個性を持った他者に対しては、少し警戒してしまうものです。「なんであの人は、こんなことを言うのだろう」「自分だったら、絶対にこんなことしないのに」「こんなことをするなんて、あの人は間違っている」など、分からないからこそ、不安になったり、怒りの感情がこみあげてくることもあります。

 しかし、相手は相手で、自分自身の価値観や考え方、性格などにもとづいて行動しているのです。相手を知ることで、相手がなぜそういう行動をするのかが理解できるようになります。さらには、相手の自分と異なったところを「強み」として認識できると、チームのために積極的にその強みを発揮してもらおうという関わり方をすることができます。

 よく、お互いの異なる部分を否定し合ってしまうことがあります。これは、相互理解という面でもマイナスですし、チームとしても相手の強みを生かせないため、とてももったいないことですね。

●「ジブンガタリ」がもたらす効果とは?

 スコラ・コンサルトでは、メンバー同士の相互理解と信頼関係の醸成をとても重視しています。例えば、新規にメンバーが入社したときは、他のメンバー全て(約40人)と「全員面談」という対話の場を持ちます。

 これは1対1で90分~2時間くらいの時間をかけて行う相互理解のための話し合いです。互いのひととなりを知るためのこの対話を、スコラ・コンサルトでは「ジブンガタリ」と名付け、手法を確立しています。ジブンガタリでは、自分の生い立ちや、子どものころの夢、趣味やプライベートライフ、これからやりたいことなどを聴き合って相互理解と信頼感を深めていきます。

 中でも、特にパワフルな話題が「人生の転機」です。このテーマについて質問し合うことで、その人の「ひととなり」がどのように形成されてきたのか、その根っこに触れることができます。つまり、その人がどのような困難や挫折を経験し、何を考え、どう乗り越えてきたのかということから、その人の価値観や考え方、ものの見方を知ることができるのです。少し時間のかかる方法ですが、ジブンガタリをぜひ実践してみてください。

《ジブンガタリで話すこと》

・生い立ち、子どものころの夢

 →「どのような環境で育ってきたのか」が分かる

・趣味やプライベートライフ

 →「どんなことが好きなのか」が分かる

・人生の転機

 →「挫折などを経てどのように現在の価値観・仕事観が形成されたか」が分かる

●まずは自分から人生の転機を話題にしてみよう

 2時間かけたジブンガタリを実施することができれば、大変強力な信頼関係が構築できます。ただし、そこまで時間をかけて深く対話することは難しいかもしれません。そんなに時間をかけなくても、日常の会話の中で、さりげなく人生の転機などを話題にしてみるくらいでもいいのです。それでも十分に効果的です。まずは自分から、さりげなく自分の転機についてさらっと話してみてはいかがでしょうか。

《転機について話すときの流れ》

(1)「実は以前にこんな困ったことがあって、それは自分にとって大きな悩みだった」

(2)「そのときに、ある人に相談して、こんなアドバイスをもらった」

(3)「それは自分にとって、まったく新しい視点だったので、なるほどと思い、試してみると、とてもうまくいった」

(4)「それ以来、わたしは仕事において、こんな考え方を大切にしている」

 相手はおそらく興味を持って聞いてくれると思います。あなたという人間についても、より理解と共感を持って接してくるようになるでしょう。またあなたの話に触発されて、自分自身の転機について、話してくれるかもしれません。

ひととなりを知り合うために必要なことは?