東京・渋谷で2023年8月に華々しく開業したドン・キホーテ道玄坂通の「ドミセ」が2024年4月5日に突如「4月7日24時」をもって閉店する方針を発表。閉店からわずか半日ほどで「キラキラドンキ」として「4月23日10時」に新装オープンする方針とした。

 ドンキが「おドろきの結末」と称したドミセの閉店とキラキラドンキの開店の裏側には、異例と当然が入り混じっていた。今回はドミセがなぜ、渋谷という地で誕生し1年未満という早さで終焉を迎えたのか、同社のプロモーション戦略や国内外新業態の現状を交えて背景を明らかにしていきたい。

◆異例の店舗が1年未満で閉店、おドろきの結末?

「ドミセ 渋谷道玄坂通ドードー店」は、ドンキの親会社であるパン・パシフィック・インターナショナルHD(PPIH)が、2017年5月に閉店した旧ドンキ渋谷店跡地一帯を再開発するかたちで2023年8月に開業した高級商業施設「道玄坂通」の核店舗として開店したものであった。

 ドミセではコンセプトに「おドろき専門店」を掲げ、ドンキの自社PB商品「情熱価格」を中心に、担当者の反省文・言い訳を掲示するアウトレットコーナー「ドすべり」やランキング形式で商品を月替りで発信するコーナー「ドップ10」、量り売りコーナー「ド試し」などユニークなフロアを展開。

 看板商品「焼き芋」を同社史上最大となる8種類取揃えるなど、ドンキと情熱価格のブランドショールームとしての役割を担っていた。

◆差別化が困難だった?

 ドミセは開店からわずか3か月後となる2023年11月にリニューアルを実施。渋谷という立地特性を活かした深夜営業の開始や訪日外国人観光客によるインバウンド需要の回復を受けた土産・旅行関連商材の取扱い拡大を打ち出すなど、時流を意識した方針転換を図った。一方、ドンキが“進化型旗艦店”と位置づける「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」がドミセの至近距離、道を挟んで対面に営業するなど自社競合が生じていた

 ドンキ自身も報道発表において「渋谷本店でもPB商品は販売しており、かつ、多くのメーカー品も取り揃えている」「渋谷という街でお買い物をされるお客様の足が渋谷本店で留まる状況」といった課題を挙げており、インバウンド需要に特化した業態としても、情熱価格に特化した業態としても差別化が困難だったことが明らかとなっている。

◆来店客から「やっぱり…」との声も

 道玄坂通はドンキの親会社が手掛けるものの、 IHGホテル&リゾーツ運営受託によるライフスタイルブティックホテル「ホテルインディゴ東京渋谷」を始め、米国シアトル創業・日本初上陸のハンバーガーショップ「Lil Woody’s」やイタリア王室御用達ジェラートショップ「Giolitti」、東京恵比寿創業のスペシャリティコーヒーショップ「猿田彦珈琲」といった国内外の著名ブランドが中心であり、ドンキ系企業も旧ユニー系弁当惣菜大手のカネ美食品によるデパ地下向け洋風惣菜新業態「eashion fun SHIBUYA」や稲荷寿司新業態「こしらへ」が入居するなど、ドンキが従来訴求してきた“驚安”とは一線を画す空間であった。

 道玄坂通の開発事業に幹線道路沿いの数棟が参加しなかった関係もあり、建物は歪な形状となったが、それを逆手にとった24時間通行可能な館内通路や高感度なブランド誘致が功を奏し、入居する飲食店に限ればいずれも活況を呈していた。同年1月に惜しまれつつ閉店した「東急百貨店渋谷・本店」に近いこともあり、渋谷を本拠とする東急グループが新たに開発した施設と言われれば信じてしまう客も一定数はいるだろう。

 一方、道玄坂通の核となるドミセ自身の客入りは芳しくなく、閉店案内に気付いた来店客から「やっぱり……」との声も聞かれるなど、相乗効果があるとは到底おもえないような状況だった。そもそもなぜ、ドンキは道玄坂通という高級商業施設に自社PB中心のドミセを出店するという判断に至ったのだろうか?

◆情熱価格自体は意外と好調?

 ドミセが1年未満で閉店に至った結果から自社PB商品「情熱価格」に問題がみえそうだが、意外と好調だ。

 ドン・キホーテは2009年10月に取扱開始した情熱価格の立ち位置を2021年2月に「ピープルブランド」として全面刷新して以来、「『驚きのニュース』がない商品は、発売しない」を志として掲げ、競合他社で取扱実績の乏しいニッチ商品を拡大し顧客からの「ダメ出し」を活かした商品開発を積極的に打ち出すなど、価格訴求一辺倒からの脱却を図った。

 取組みの一環として発売した国内家電大手では取扱いが難しいとされるチューナーレステレビのようなワリキリ家電や2023年には最長318文字を記録したPB商品名はSNSでの注目度も高く、同年6月期 のPB/OEM売上構成比は通期 17.3%(前期比+3.1%)に拡大するなど好調に推移している。同年11月にはカネ美食品との業務提携を活かし新PB商品「偏愛めし」を共同開発するなど、惣菜部門においても同様の取組みを本格化。2025年6月期の売上構成比25%という目標の実現に近付きつつある。

◆海外ドンキでも看板商品に

 また、ドンキは2017年12月より中華圏・東南アジア圏を中心に日本商品特化型業態「DONDON DONKI」や情熱価格特化型業態「JONETZ」を展開しており、国外においても情熱価格はグループの看板として役割を担っている

 両業態では国内販路向け商品に加えて、前面に「日本の魅力発見 DISCOVER CHARMS OF JAPAN」「日本製 MADE IN JAPAN」「DESIGND IN JAPAN」を打ち出した海外販路向け商品や店内厨房製造による弁当・惣菜を情熱価格を冠し展開。あわせて、現地企業や現地銘店との協業により、国内販路同等のグレードの高い商品を展開するなど、既存日系流通企業や日本商品専門店との差別化に寄与している

 なかでも台湾各店では強烈なインパクトを与える画風を得意とする漫画家「漫☆画太郎」とのコラボによるスナック菓子、台湾1号店の西門店では台北市西門徒歩区街区発展促進会の西門動漫大使「林默娘」とのコラボによるポップコーンを販売するなど、地域法人単位にとどまらず店舗単位で独自商品を取扱っている。

◆訪日外国人には違和感ない組み合わせ?

 これらの取組みもあり、筆者による現地在住者への取材では「2022年1月に台北西門町に1号店がオープンしたときに知った」「深夜営業や日本から輸入した商品、売れ筋ランキングや人気商品を宣伝する看板(POP)のイメージ」(新竹市在住)、「ドンキは行ったことないが高校時代(2017年ごろ)に知った。

「地元嘉義市にあるDAISO百貨(ダイソー)とイメージが似ている」(台南市在住)とドンキ非出店地域での認知度も一定数あり、夜貓族(夜型人間)が多い現地の生活様式との相性も相まって店舗網は一貫して拡大を続けている。

 ドンキの海外業態「DONDON DONKI」は現地の高級商業施設や日式・日系百貨店(旧高雄大立伊勢丹バンコクMBK東急百貨店跡など)の中核店舗として出店しており、道玄坂通の施設イメージとも重なる点は多い。訪日外国人観光客にとって道玄坂通とドミセの組合せは決して違和感のない、普通の組合せだったのだ
 
◆小型店も得意だが新業態は明暗も?

 また、ドンキがドミセ同様に手掛ける狭小店舗に関しても、2001年6月のスモーフォーマット1号店「ピカソ伊勢佐木店」(299.499㎡)は開店当初より、ドンキが本来得意としてきた形態の店舗であり、圧縮陳列や商品構成の最適化により店舗フォーマットは年々洗練されたものとなっている

 ドンキは2015年10月にはエキナカ業態1号店「エキドンキ エキマルシェ大阪店」(399.9㎡)、2016年6月には空港内1号店「ソラドンキ羽田空港店」(107.2㎡)、 2021年5月には特定ジャンル特化型新業態1号店「お菓子ドンキ・お酒ドンキ」(169㎡)、2022年5月にはZ世代向け新業態1号店「キラキラドンキダイバーシティ東京プラザ店」(287.04㎡)を開店するなど、「◯◯ドンキ」として立地特性に応じた取扱商品や業態の細分化を進めている。

 なかでも、キラキラドンキは 10代~20代の「Z世代」が主導となり立ち上げた業態として、既存業態とは一線を画す店舗デザインやワッフル・オリジナル美酢ドリンクといった食物販要素を訴求。三井不動産やイオン系商業施設、近鉄百貨店への出店実績もあるなど多店舗化に成功している。

 一方、イオン所沢店跡に2020年9月に開店した「コスメドンキ・お菓子ドンキ所沢トコトコスクエア店」を2023年9月に閉店するなど、業態間では明暗も分かれている。所沢の場合は施設内に「オーケー」「ミスターマックス」といった大型ディスカウントが営業するなど特殊事情も重なるが、各業態は依然として実験店としての側面が色濃いのも実情だ。

 ドンキはドミセ渋谷道玄坂通ドードー店とは別に、2023年9月にはセブン&アイHD系商業施設に「ドミセアリオ八尾店」を開店しているが、アリオ八尾店も度重なるリニューアルを経て、当初のコンセプトからの逸脱がみられており、店名こそドミセであるが、実質的に普通のドンキ小型店として営業している。

◆ドミセ閉店と似たような騒動は前にも?

 今回のドミセ閉店騒動はドンペン引退騒動にも重なる。

 ドン・キホーテは2022年12月16日に公式Twitter(現x)アカウントにて、公式キャラクターを「ドンペン」から情熱価格のロゴマークを意識した「ド情ちゃん」に変更する方針を発表。ドンキドンペンのファンを中心に賛否を呼び、ドンペン引退は即日撤回となるが、Twitterではトレンド1位になるなど情熱価格のプロモーションに結びついた

 ドン・キホーテは都内でも2017年2月開店の神保町靖国通り店を約8か月後となる同年10月に閉店、2018年5月開店の赤坂見附店を約9か月後となる2019年2月に閉店するなど、以前より短期間での開店閉店を繰り返しているが、今回のドミセ閉店のように大々的に報道発表を打ち出すことは極めて稀であった。

◆渋谷道玄坂通でキラキラできる?

 報道発表ではキラキラと輝く笑顔になれる店づくりに挑戦」「閉店後の同店区画の活用につきましては、改めてお知らせいたします」といった表記があったこと、ドミセ閉店決定時点で店頭や壁面にキラキラドンキ仕様のPOPや張り紙、ただ今店内改装中といった掲示があったこと、現場レベルで営業継続の周知があったことからキラキラドンキへの業態転換は既定路線であり、プロモーション戦略の一環だったといえる。

 ドンキは2024年4月23日時点において、三井不動産系の「ダイバーシティ東京プラザ」やイオンモール系の「横浜ワールドポーターズ」、近鉄百貨店系の「近鉄パッセ」、北海道地場再開発ビルの「モユクサッポロ」など幅広い地域や立地にキラキラドンキを展開しているが、東京都心繁華街への出店はドミセ跡が初となる。ドミセ跡への開店にあわせ、キラキラドンキ各店ではWEGOや人気アニメ・ゲームキャラクターとコラボした限定商品を発売するなど、既存業態との違いを明確に打ち出すプロモーションを仕掛ける。

 相次ぐ再開発により洗練された大人も楽しめる街として変貌しつつある渋谷であるが、今もなお訪日外国人観光客にとって渋谷は「若者の街」「ハチ公」「スクランブル交差点」としてキラキラと輝き続けている。変わりゆくドンキが変わりゆく渋谷という街で「ミセ」を超えた「キラキラ」を実現できるだろうか? 冒険者であるドンキの実験の行く末に期待したい。

<取材・文・撮影/淡川雄太(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】
都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitter:@toshouken

閉店当日4月7日のドミセ渋谷道玄坂通ドードー店(写真:淡川雄太)