人手不足が深刻化するなか、優秀な人材を確保しようと、初任給の引上げを決める企業が増えています。その結果、既存社員の給与と逆転劇という、まさかの事態に陥っている企業も。自虐に走るしかない、先輩社員についてみていきましょう。

初任給アップに歓喜の「新卒社員」の影で「既存社員」が泣いている

物価高に対応し「賃金アップ」が相次いでいますが、人材獲得競争が厳しくなっていることもあり、昨年あたりから、初任給も続々とアップしています。

初任給ではありませんが、厚生労働省の調査で「大学の新規学卒者の平均給与」をみていくと、2023年は23.7万円。2020年22.4万円→2021年22.5万円→2022年22.8万円と、少しずつ上昇していましたが、2023年には大きく上昇。2024年はさらに増えそうな勢いです。

そんな2024年の新卒社員。その多くが初任給を手にして「就職活動のときに聞いていたよりもずっと多かった」と、思わずガッツポーズをした人も多かったようです。

そこで気になるのが、初任給、どのように使うか、というもの。「自分たちが新卒社員だったころは、親へのプレゼントが定番だったけど……」、果たして、いまどきの新卒社員はどうなのでしょうか。

株式会社ジェイックが行った調査によると、「生活費以外で、初任給を何に使いますか?」の問いに対して、最多は「親/家族へのプレゼント」がトップで75.8%。やはり不動の1位のようです。続いて「趣味」が49.4%、「自分へのプレゼント」40.5%のほか、「貯蓄」38.8%、「投資(新NISAなど)」16.5%、「スキルアップ等の自己投資」13.9%。いまどきの若者、想像以上にきちんとしているようです。

そのようななか、ネットで話題になっているのが「既存社員との給与の逆転」。

――新卒社員の子の給与、入社5年目よりも多くて笑える

――まだまし。うちは入社10年目の社員を超えている

――ウチもそのパターン

――初任給だけアップして、ベースアップゼロ……本当に悲惨

――「先輩、おごってください!」って……いや、こっちが奢られたい

給与で新卒社員に華麗に追い抜かれた既存社員。自虐的に笑うしかないようです。

大卒サラリーマンの平均給与「20代前半」で月24万円、「20代後半」で月28万円…

中央労働委員会『令和5年賃金事情等総合調査』によると、令和5年の春闘で交渉が妥結した企業のうち「ベースアップの実施」したのが72.3%、「定期昇給の実施・賃金体系維持」が67.9%でした。また基本給部分の賃金表ありとする企業のうち、「ベースアップを実施」としたのは80.9%。「改定なし(据え置き)」は19.1%でした。

賃金改定なし、でも人手確保のため初任給アップ。またはベースアップはしたものの、それ以上に初任給を引上げ……そんな判断をした会社は、想像以上に多いのかもしれません。

厚生労働省令和5年賃金構造基本統計調査』によると、20代前半の平均給与は月収で24.3万円。20代後半になるとプラス4万円弱、さらに30代前半はプラス4万円強。平均給与はアップします。「初任給が25万円を超えた!」となると、入社2年目の社員を上回ってしまう可能性も。「初任給が30万円を超えた!」となると、入社7年目の社員も超えてしまう勢い。あくまでも平均値なので、前出のように「入社10年目の自分を超えてしまった」というのも冗談ではないのでしょう。

【年齢別・大卒サラリーマン(正社員)の平均給与】

20~24歳:243,200 円/3,561,800 円

25~29歳:282,700 円/4,740,000 円

30~34歳:325,600 円/5,493,600 円

35~39歳:378,500 円/6,455,400 円

40~44歳:424,100 円/7,041,500 円

45~49歳:467,400 円/7,745,000 円

50~54歳:505,700 円/8,396,500 円

55~59歳:532,300 円/8,791,200 円

60~64歳:449,100 円/6,901,400 円

※数値左より月収/年収

厚生労働省令和2年転職者実態調査』によると、転職理由のトップは「(賃金以外の)労働条件が良くなかった」で28.2%。続いて「満足のいく仕事内容でなかったから」26.0%。そして「賃金が低かったから」が23.%と、転職者4~5人に1人は給与が不満で会社を辞めていることが分かります

仕事内容と比べて給与が低い、周りと比べて給与が低い……一概に「給与が低い」といってもさまざまですが、「新卒社員よりも給与が低い」はさすがに仕事に対するモチベーションが下がり、転職する大きな理由になるでしょう。人材確保のつもりで初任給アップが、人材流出を招く……そんなまさかの事態を引き起こさないよう、既存社員の給与にも目を向けてもらいたいものです。

[参考資料]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

株式会社ジェイック『2024年度の新入社員に初任給の使い方を調査』

中央労働委員会『令和5年賃金事情等総合調査』

総務省『給与・定員等の調査結果等』