新卒採用や中途採用を通じて就業した人が、「職場の環境が劣悪だった」「配属先が気に入らない」などの理由で、就業してから1カ月以内に退職することがあります。こうした人たちの中には、転職活動時に短期間で退職した経歴を履歴書や職務経歴書などに書くべきか迷う人もいます。

 SNS上では「履歴書には短期間であろうと、職歴は全部書かないといけない」「職務経歴は全部書かなくてもいい」など、さまざまな声が上がっています。

 短期間で退職した後、転職活動時に履歴書や職務経歴書などにその職歴を書かなかった場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

法的責任はないが、入社後に懲戒処分のリスクも

Q.短期間で退職した人が、履歴書や職務経歴書などにその職歴を一切書かずに転職活動をしたとします。この場合、法的責任を問われる可能性はありますか。

佐藤さん「履歴書や職務経歴書に短期間で退職した会社などの職務経歴を書かなかったとしても、何らかの罪に問われることはないでしょう。また、そのことを理由に、民事上、損害賠償責任を追及されることも考えにくいです。従って、刑事、民事上の法的責任を問われる可能性はないと考えてよいでしょう。

ただ、法的責任とは別に、短期間で退職した会社などの職務経歴を一切書かないことが、転職活動に負の影響を及ぼすことが考えられます。まず、採用前に不記載の事実が発覚すれば、本来すべての職歴を書くべきところ、あえて短期間で退職したところのみ記載しなかったことについて不信感を抱かれ、不採用にされるリスクがあります」

Q.では転職活動時に短期間で退職した会社の職務経歴など、自分にとって都合が悪い情報を履歴書や職務経歴書に書かずに企業から内定をもらったとします。入社後に経歴の隠蔽(いんぺい)が判明した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「刑事、民事上の法的責任を問われる可能性はありませんが、事案によっては懲戒処分を下される可能性が考えられます。

自分にとって都合の悪い職務経歴を履歴書や職務経歴書に書かない行為は『経歴詐称』の一つですが、重大な経歴詐称が発覚した場合、最も重い懲戒処分である懲戒解雇処分になる可能性もあります。

懲戒解雇処分が許されるのは、採用段階で発覚していたとしたら採用しなかったといえるような重要な詐称で、客観的にも相当性が認められる場合に限られます。一般的には、短期間で退職した職務経歴の有無は、採用に大きな影響を及ぼさないことが多く、業務の遂行にも支障がないと考えられ、懲戒解雇になる可能性は低いです。

ただし、短期間での退職を何度も繰り返していたことを隠していた場合などは、悪質性が高いとして、会社が懲戒解雇を検討する可能性も否定できないでしょう」

Q.ちなみに、経歴詐称が違法になることはあるのでしょうか。

佐藤さん「『経歴詐称』にもいろいろあり、その内容によって違法になることがあり得ます。例えば、大学を卒業していないのに卒業していると偽った場合、『学位を詐称』したとして軽犯罪法違反になる可能性があります(軽犯罪法1条15号)。

他にも、業務上必要な資格を詐称して会社に損害を与えたというようなケースでは、民事上、損害賠償責任を負うことも考えられます」

Q.短期間で退社した会社などの職歴を履歴書や職務経歴書に書かなかったことが原因で転職先の企業から解雇された場合、解雇の取り消しを求めることは可能なのでしょうか。

佐藤さん「先述のように、経歴詐称を理由とする懲戒解雇ができる場面は限られています。短期間で退社した会社などの職務経歴を書かないことは、『軽微な詐称』として懲戒解雇が許されないケースが多いため、納得がいかなければ、懲戒解雇の無効を主張して話し合うとよいでしょう。会社が争う姿勢を示している場合には、弁護士に相談することをお勧めします」

オトナンサー編集部

短期間で退職しても、履歴書や職務経歴書などにその職歴を書かないとダメ?