国内外から観光客が殺到している京都・祇園。その一角にある私道「小袖小路」は、これまで住民らの「厚意」で通り抜けが許されてきた。

ところが、あまりにもマナーの悪い観光客が増えたことを受けて、住民が要望して、地元の協議会が「通り抜け禁止」の高札を立てることにした。

祇園町南側地区協議会によると、地権者から委託を受けた協議会が道路を管理しており、高札の設置はゴールデンウイーク明けになる予定という。

違反者には「罰金1万円」を課すということだ。苦肉の策といえるだろうが、はたして法的にはどう考えられるのだろうか。瀧澤輝弁護士に聞いた。

●「通行禁止」にできる可能性はあるが「罰金」は・・・

――私道を「通行禁止」にすることはできるのでしょうか?

建築基準法上の道路や、通行権が設定されている場合などを除いて、単なる私道であれば、基本的にその所有者は通行の制限や禁止をすることができます。

私道とは、個人や企業など、国や都道府県市区町村以外が所有・管理している道路をいいます。

道の形をしていたとしても、土地は原則として、その所有者が自由に使用できるため、通行の制限や禁止をすることも自由にできることになります。

今回、通行禁止の高札を設置したのは、地元協議会とのことです。 その法的な性格(地方自治法に基づく協議会なのか、地元の住民が集まっている任意団体なのか)が不明ですが、地元協議会が「私道の所有者の同意なし」に勝手に私道の通行を禁止した場合、その効力はありません。

一方で、私道の所有者が地元協議会に観光客のマナー違反を相談しており、高札の設置も地元協議会が所有者から委託されている場合には、協議会による通行禁止も有効であると思われます。

――違反した観光客から、1万円の「罰金」を取ることはできるのでしょうか?

通行人は1万円を支払う義務はないと思われます。

そもそも「罰金」というのは、国や地方自治体が法律・条令によって定めることによって発生するものであり、地元協議会が罰金を課すことはできません。

ただ、罰金というかたちではないですが、支払い義務が発生するケースとしては、不法行為に該当する場合と、契約が成立した場合が考えられます。

通行の禁止を明示しているにもかかわらず、私道を通行することは不法行為にあたり、通行人は通行によって生じた損害を賠償しなければなりません。

しかし、特別の事情がない限り、私道を通行しただけで1万円の損害が生じることはなく、それに加えて、賠償を請求することができるのは地元協議会ではなく、私道の所有者となるでしょう。

また、仮に通行人が「通り抜け禁止。無断で通行した場合には1万円の罰金」という高札を確認したうえで無断通行した場合であっても、通行する代わりに1万円を支払うことを承諾したと考えることは難しいと思います。

そのため、地元協議会と通行人との間で、通行する代わりに1万円支払うという契約が成立したともいえず、この場合も通行人は1万円を支払う必要はありません。実際は、高札には英語表記もあるようですから、インバウンド客に対する抑止効果に留まるのではないでしょうか。

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その奥ゆかしさと裏腹に国内外からの旅行客があふれている祇園。協議会によると、今回高札を立てる小袖小路には、お茶屋と置屋、民家が混在しているという。法律解説は上記のようになるが、それとは別にマナーの問題としても、一人ひとりがわきまえる必要がありそうだ。(ニュース編集部)

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【取材協力弁護士】
瀧澤 輝(たきざわ・ひかる)弁護士
2009年中央大法学部卒、2012年弁護士登録(東京弁護士会)。大手法律事務所を経て、2017年独立。不動産案件(不動産事業者・不動産オーナー向け)を専門とし、テレビ番組でのコメント提供、セミナーの講師実績も豊富。HPにて不動産トラブルに関する情報を多く発信している。
事務所名:たきざわ法律事務所
事務所URL:https://takizawalaw.com/

インバウンド殺到、京都・祇園の私道に「通り抜け禁止」の高札…違反者は「罰金1万円」払わないといけないの?