ラーメンといえば、今や日本の国民食。毎年のように新たな“トレンド麺”が登場する一方で、原点回帰して昔ながらの中華そばやご当地ラーメンが注目されたりと、日本のラーメン文化の幅広さ、奥深さを改めて感じます。

 そして今回ご紹介したいのは、ご当地ラーメンの中でも特に限られた地域で愛されている“地域密着型”の唯一無二のラーメンたちです。

埼玉県スタミナラーメン
千葉県アリランラーメン」
・東京・八王子「オートボイルラーメン」

 というわけで、東京から日帰りでサクッと食べにいけるお店を3軒、厳選してご紹介します。

埼玉県『漫々亭』の「スタミナラーメン」

『漫々亭』の「スタミナラーメン」
『漫々亭』の「スタミナラーメン

 埼玉県ソウルフードスタミナラーメン」をご存知でしょうか。関東圏に住んでいても、なんなら埼玉県に住んでいても、実は食べたことがないという人も多いこのラーメン。一体どんなラーメンなのでしょうか。

 スタミナラーメンを看板メニューとして出しているのは、主に『娘娘(ニャンニャン)』と『漫々亭(マンマンテイ)』という2軒の老舗中華料理店(姉妹店)。さいたま市周辺に9店舗あるそうです。

 ちなみに「スタミナラーメン」とは、ひき肉やニラ、豆板醤で作るピリ辛の餡(スタミナ餡)を醤油ラーメンにかけたもの。担々麺台湾ラーメンなどと似ていそうなイメージですよね。

埼玉県さいたま市西区にある『漫々亭』
埼玉県さいたま市西区にある『漫々亭』

 訪れたのは、JR指扇駅から徒歩25分の、やや辺鄙なロードサイドにある『漫々亭』さん。赤い庇に、「一口食べたら頬が落ち、二口食べたら首が落ちちゃう旨さ。漫々依存症、特効薬ありません」と手書きで書かれていて驚かされます。中に入ると、昭和の町中華らしいゆる〜い空気が漂っています。

 さっそくお目当ての「スタミナラーメン」を注文。5〜6分ほどで登場した「スタミナラーメン」は、ひき肉餡が丼の中央に鎮座し、周りに生の刻みニラが浮かんだ一杯。ひと口スープをすすると、とろみ強めで、やや甘めの肉餡。ひと口目は甘さを感じますが、一拍おいてピリリッと辛さが現れ、さらに生姜のジンジンとした風味も押し寄せてきます。

つややかな麺。口当たりの滑りよくてツルツルと食べやすい
つややかな麺。口当たりの滑りよくてツルツルと食べやすい

 とろみのある肉餡とスープがからまった中太ちぢれ麺をすすり上げれば、醤油スープの滋味深い味と、肉餡の甘辛味が絶妙なバランスで口中に拡散されます。台湾ラーメン担々麺とは違い、基本的には昔ながらの醤油ラーメンの優しい味わいで、塩味や辛味、甘みに偏りがなく、全体的にバランスが取れていて非常におだやかな味わいです。

 さらに、ここでは「スタミナラーメン」だけでなく、ぜひ一緒に食べて欲しいものがあります。それは、ラーメン餃子セットにさらに付いてくる「半バラ丼」(バラ丼の半分の量)です。

こちらは定番セットの「半バラ丼」。ちなみに定番セットは「スタミナラーメン」と餃子3個付きのセット
こちらは定番セットの「半バラ丼」。ちなみに定番セットは「スタミナラーメン」と餃子3個付きのセット

 そもそもバラ丼とは何かというと、スタミナ餡(辛挽肉餡)の肉を、ひき肉ではなく豚バラに変え、その餡をご飯にかけた丼のこと。これがめちゃくちゃ美味しい。甘辛くて、肉の旨みも染み出しており、ごはんとの相性が抜群! まさに飲むように食べられます。

●SHOP INFO

店名:漫々亭

住:埼玉県さいたま市西区西遊馬343

千葉県『らーめん八平』の「アリランラーメン」

アリランチャーシューメン1300円
アリランチャーシューメン1300円

 千葉県ソウルフードラーメンといえば、「勝浦タンタンメン」が有名ですよね。勝浦に行けば色々なお店で食べられますし、全国的な知名度も高いです。

 しかし、千葉には竹岡式ラーメンを始め、他にも有名なラーメンがあります。その一つが「アリランラーメン」。
アリランラーメンは、1975年千葉県の長生郡長柄町山根にある『八平の食堂』(本店)で発祥し、今でも、それが食べられるのは、本店『八平の食堂』と親族が経営する『らーめん八平』、それに市原市にある『味覚』の計3軒しかありません。まさに地域密着型ラーメンです。

 本記事では、もっとも景色がいいと評判の『らーめん八平』をご紹介します。

茂原街道の山道を登っていくと「アリランらあめん」と書かれた赤い旗がポツンとあり、そこを曲がると、突き当りに古い茶屋のような『らーめん八平』がある
茂原街道の山道を登っていくと「アリランらあめん」と書かれた赤い旗がポツンとあり、そこを曲がると、突き当りに古い茶屋のような『らーめん八平』がある

 取材陣が訪れた日は開店時間の11時前から約20人も行列しており、入店までにかかった時間はなんと1時間! さらに着席しても着丼までにさらに20分も待つことになりました。

 ようやく登場した「アリランラーメン」は、濃い醤油色のスープ。そこに玉ネギがどっさりと入っており、すりおろしたニンニクやニラの強烈な香りもします。

アリランラーメン。濃い赤色は、自家製ラー油の色
アリランラーメン。濃い赤色は、自家製ラー油の色

 スープを飲んでみると、玉ネギの甘み、豚肉の甘み、そこにラー油のピリ辛、ガツンと強いニンニクの辛み。中太麺はこのパンチのあるスープに負けない強いコシがあり、ワッシワッシと食べていると、わかりやすくパワーがみなぎってくるような気がします。

コシのある中太麺とパンチのあるスープがよく合う
コシのある中太麺とパンチのあるスープがよく合う

 勝浦タンタンメンアリランラーメンは、ラー油や玉ネギ、ひき肉ニンニクといった具材は似ていますが、味わいの方向性は全然違います。アリランラーメンは、とろとろに煮込んだ玉ネギやニンニクの印象が強く、より素朴でワイルドな一杯です。

●SHOP INFO

店名:らーめん八平

住:千葉県長生郡長南町山内813-2

東京・八王子『竹の家』の“オートボイル式ラーメン”

八王子駅近くの『竹の家』のシンプルな「ラーメン」780円
八王子駅近くの『竹の家』のシンプルな「ラーメン」780円

八王子ラーメン」といえば、東京・八王子ご当地ラーメン。トッピングに、チャーシューやメンマだけでなく刻み玉ネギを使うのが特徴です。

 しかし、今回紹介する地域密着型ラーメンは、その八王子ラーメンの定義である刻み玉ネギは入ってないものの、八王子の住民にとっては慣れ親しんだソウルフードとも言える『竹の家』のラーメンです。

八王子駅から徒歩3分の場所にある『竹の家』
八王子駅から徒歩3分の場所にある『竹の家』

『竹の家』は、昭和29年創業の老舗。その佇まいからして貫禄を感じます。そして、ここのお店が特別なのは、ただ老舗というだけでなく、“オートボイル式”だということです。

こちらがオートボイル式の機械
こちらがオートボイル式の機械

「オートボイル式」とは何か。写真をご覧ください。このように、麺を機械で自動茹で(オートボイル)しているのです。

 ご主人がザルに生麺を入れると、この巨大な釜の中を麺が自動的に浸かって、ゆっくり回転。徐々に上昇して、上がってくれば、麺が茹で上がっているという仕組み。昭和の時代にはハイテクだったのかもしれませんが、令和の今となってはレトロで微笑ましいですよね。

『竹の家』のシンプルな「ラーメン」
『竹の家』のシンプルな「ラーメン」

 登場した「ラーメン」は、ご覧のように濃い醤油色。表面はうっすらラードが浮いており、ネギ、チャーシュー、メンマ、海苔がのっていて、昔ながらの醤油ラーメンといったビジュアル。

 煮干しの香りが漂い、スープをすすると、出汁の旨みがしっかり感じられます。麺は、中太の縮れ麺。もっちりしていて実にいい塩梅。これがオートボイル式の麺なのかと、その優秀さを噛み締めます。

オートボイル式の麺の茹で加減が、コシもあって美味
オートボイル式の麺の茹で加減が、コシもあって美味

 スルスルと食べられて、後味もあっさり。非常に軽いので、おやつのように食べられる。しかも、お店のレトロ感も心地よくて、毎日、寄り道したくなるような、そんなお店です。

●SHOP INFO

店名:ラーメン専門店 竹の家

住:東京都八王子市中町4-2

まとめ

 今回紹介したお店はみな、唯一無二の味わいのラーメンばかり。でも共通するのは、店に漂う空気の柔らかさと、ラーメンの優しい味わい。ぜひ食べに行ってみてください。

(撮影・文◎土原亜子)

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