ここは「デジタルカメラ」のレビューをするコーナーなのであるが……今回は最高にアナログなカメラ。徹頭徹尾アナログで、そこまでアナログで無理やり実装するか、というむちゃっぷりが面白くてしょうがないチェキである。富士フイルムの「instax mini 99」だ。
今までチェキは何度もレビューしたけれども、それらはデジタルカメラと、インスタントフィルムプリンターが合体した「ハイブリッドインスタントカメラ」だった。「instax mini Evo」はその代表で、撮影はデジタルで、それに対してエフェクトをかけたものを、「instax mini」フィルムにプリントできるという、デジタルならではの面白さとプリントできる楽しさを組み合わせたヒット作だ。
今回の「instax mini 99」はその真逆。完全にアナログのチェキなのだが、強引なアナログ的手法でいろんなエフェクトをかけた写真を撮れるのである。
エフェクトをかけたらどうなるか。モニターで確認できないので撮ってみないと分からない。実に非効率的であるが、それが面白いのである。
●6種類の特殊エフェクトを実現した仕組みに注目
実際に撮りながら試してみよう。
バッテリーはリチウムイオン充電池。USB端子はないので、付属する充電器を使って充電する。
そしてフィルムをセットして撮影。
レンズの鏡筒部が電源スイッチ兼用。これをぐるっと回すとレンズがせり出てきてスイッチが入る。フォーカス位置は0.3-0.6mm、0.6-3m、3m-∞の3パターン。まあこれはアバウトでOk。手を伸ばせば届きそうな距離なら0.6-3m、全身を入れるなら3m以上って感じでいいかと思う。
チェキなのであとはシャッターを押すだけである。
シャッターボタンは2カ所。1つは正面でチェキっぽい位置。もう1つは側面。横位置で写真を撮りたいときに使う。
縦と横で撮りくらべてみたガスタンク。プリントをフラットベッドスキャナでデジタル化したものだ。
さてここからがinstax mini 99の真骨頂である。
レンズをみると、なんかスイッチが1つ、付いてる。
これをオンにすると丸い枠が現れる。これは何か。
スイッチの脇には「VINETTE」と書いてある。写真にビネットを作るスイッチなのだ。
ビネットは、レンズの周辺光量が落ちて中央に比べて周辺部の画質が落ちてしまう現象を指すんだけど、今のデジタルカメラは「周辺光量補正」が働いてそれをデジタル的に補正するのがポピュラー。ただ、ビネットがあるとレトロな雰囲気を出せるということで、多くの画像処理ソフトはわざとビネットを追加する機能を持ってる。
それを強引にアナログ的にやっちゃうのが「instax mini 99」なのである。面白すぎる。
この機能を使わなくても周辺の光量落ちは発声するのだけど(ガスタンクの写真を見ると四隅が少し暗くなってるのが分かる)、さらに強く出すのがこの機能なのだ。
効果はこんな感じ。
背景が空だと効果が派手にですぎるけど、通常の撮影だといい感じに周辺が暗くなってくれるので、この先の作例は基本的にビネットオンで撮ってます。
次のエフェクトは露出補正。横一様シャッタボタンの周りにL(Light)やD(Dark)でそれぞれ2段階ずつ用意されている。
そんなに極端な差はでなくて、露出オーバーにしてもアンダーにしてもそれなりにいい感じで撮れるので気分でダイヤルを回しちゃっていい……たぶん。
明るい背景に暗い被写体の時は明るく、逆の時は暗くセットしてとるくらいでいいかと思う。
そして極め付きはこれだ。
これがもう、どっからそういう発想になったのかよく分からない面白い代物なのである。
フィルムカメラの画質って基本的に「レンズ」と「フィルム」の関係で決まる。なんらかの調整を加えたいときはレンズにフィルターをつけてコントロールするんだけど、それ、気軽に撮りたいチェキには向かないよね。
で、富士フイルムはどうしたか。
なんと、カメラ内の4カ所にLEDを仕込んで、撮影の瞬間にそれを光らせることでその色を写真に無理やりかぶらせることにしたのである。発想が普通じゃない。わざわざフィルムに余計な光を当てるんだから。
フィルム交換時にちょっとだけ光って見せてくれるのでどうぞ。こんな感じに仕込まれてるのだ。
そしてLEDの色や光らせ方で6つのバリエーションを作ったのである。カメラには英字2文字で書かれてるけど、それだけ見てもわかりづらいのでリストアップ。
FGはフェーデッドグリーン。ちょっと緑かぶり。
WTはウォームトーンで暖色系。
LBはライトブルーでクール系。
SMはソフトマゼンダでマゼンダがちょっとかぶったレトロな感じになる。
SPはセピアなんだけど、いわゆるセピアカラーではなく少し黄色がかぶった古い写真の感じ。
LLはライトリーク。隙間から光が漏れてしまう感じ。
同じ場所で6パターン撮り比べて並べたのがこれだ。同じレンズ、同じフィルムでこれだけのエフェクト違いを作れるのである。発想も面白いし、うまく調整されてると思う。
LLは光の漏れ感を表現してるので下方向に色がかぶってるが他は全体の色を変えてるのが分かると思う。
カメラは光を画にするものであり(だから、PhotoGraphだ)、光の色が変われば撮れる画の色も変わるのである。
でもこれ、インスタントカメラの運用を考えると、かなり無茶な発想で、例えば、とりあえず「LB」で撮ってみて、どんな風雨に撮れてるかな……と感じるまでに1分は待たねばならないのだ。
チェキなのでうにーっとフィルムが出てきて、そこに画が浮かび上がるのをじっと待つ。
それを見ながら、「あ、いい感じに撮れた」「うーむ、ちょっと違うなあ、撮り直そう」となるわけで、フィルムと時間の消費がはんぱない。タイパも悪い。エフェクトがあれこれかけられる分、余計、結果が気になってじっと待っちゃう。
でも、使ってみるとそれがいいのである。デジタルカメラとは違う時間が流れる感じ。
上の作例はとりあえず6枚撮ったあとでベンチに座ってふたりでじーっと画が定着するのを待って、ちゃんと撮れてるかを観て、「どれがいい?」とかやってたのである。
ちなみに彼女は「WT」が良いそうである。
●撮った写真はスマホで
とまあ、昨今はデジタルでやっちゃうようなエフェクトをアナログでやるのがユニークすぎるカメラだった、しかもインスタントフィルムなので1枚限りである。
そこにインスタントフィルムの真骨頂が詰まってるのだ。
その代わり、チェキプリントを撮影して保存するアプリ「intax UP!」が用意されている。
プリントをテーブルの上などにおいて、それをスキャンしてスマホにためていくのだが作業はすごく簡単だ。スキャンモードでアプリを向けると自動的にプリントを見つけてくれるので、「scan」ボタンをタップしたあとは全自動だ。
自動的に枠を見つけてまっすぐになるよう補正して撮影してくれるので、SNSでシェアしたり相手のスマホに撮ったものを送りたいときにいい。
プリントを机の上にばらまいたように見せてくれるのもチェキっぽい(もちろん普通のサムネイル表示もできる)。
ここから先の作例はすべてこれでスキャンしたものだ。
まずは普通にポートレート。横位置で、背景が暗い色だったので顔がトバないよう1段暗くして撮影なり。
次は店頭に立ってた黄色い消火栓(もちろん本物じゃない……はず)。
フォーカスを近距離に合わせて。
もう1つ、近距離から顔のアップ。ちょっと暗いとフラッシュはほぼオートで光ります。
ここからはエフェクトものを。
FGは屋外がにあうかなというところで2枚。
WTは人を撮るときにいい。モデルしてくれる長谷川未紗さんに6つのエフェクトを見せたらWTが一番気に入ったということで。
わたしはクールな感じになるLBがけっこう気に入ったかな。
SMはけっこう分かりやすくレトロっぽくなる。
室内でフラッシュをオフにして粗く撮ってみた。ざらついて荒れた感じがよりフィルムっぽい。
意外に使いどころが難しかったのはSPかな。
目立つのでつい使っちゃうのがLL。効果が分かりやすいしね。
ぶらぶら歩いていて出会ったガイコツ。整骨院の前に飾られていたのだけど、このシュールな感じをより不気味にするならライトリークだよなってことで撮ってみたらやはり似合う。
LLは面白いけれども、効果が大きいので乱用は禁物だ。
かくして、デジタルにどっぷり使った身には実に新鮮なカメラで、チェキのメインユーザーと思われる最初に使ったカメラがスマホカメラだったという年代の人たちにとっても、すごく新鮮なんだろなと思う。不便だからこその面白さと、アナログだからこその味わいのミックスという感じか。
撮った写真が世界に1枚きりで(これがハイブリッドチェキとの違いだ)、シャッターを切ったあとにじわっと出てくるのを一緒に待つ楽しさはチェキならではで、そこにカメラ内にLEDを埋め込んでエフェクトかけるなんて技をつけたおかげで、より面白さが際立ったヘンなカメラなのである。
難点があるとすれば、ダイヤルが軽くてバッグとの出し入れや首から提げてるときのちょっとした接触で回っちゃうことかな。いつの間にか「D-」になってて撮ってから気づいたってことが何度かあったので。いやそれもまた偶然面白い写真が撮れる原因になると思えばいいのかも。
最後にチェキならではっぽい1枚を残そうってことで、サインしてもらいました。
いやあ、フィルムをいっぱい浪費しそうで怖いけれども(しかも、今はチェキのフィルムが不足しているという)、面白いカメラでしたわ(モデル:長谷川未紗)。
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