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 数年前、インドネシアの熱帯雨林保護地域で暮らす野生のオスのオランウータンが、他のオスとケンカをして右目の下に傷を負った。すると驚いたことに、そのオスは傷口に薬草を塗り始めたのだ。

 その植物は、鎮痛効果のほか、抗菌・抗炎症・抗真菌・抗酸化作用といった薬効成分があり、インドネシアの人々が昔から薬草として使用していたものだ。

 オランウータンはその薬草を繰り返し傷口に塗っていたため、意図的に薬草を使って傷の治療をしていたと考えられる。その傷は薬草効果もあってか完治した。

 これは、野生動物が薬を使って治療した世界初の事例になるという。

【画像】 喧嘩で負った顔の傷に薬草をかみ砕いて塗り付けるオランウータン

 アジアの熱帯のみに生息するオランウータンはヒト科オランウータン属に分類され、現在ボルネオオランウータンスマトラオランウータン、タパヌリオランウータンの3種が確認されている。

 今回、興味深い行動が観察されたオスは、インドネシアの熱帯雨林保護地域スアック・バリンビン(Suaq Balimbing)調査地で暮らすスマトラオランウータンのオス、「ラクス」だ。

 ラクスは、は他のオスと喧嘩し、顔に傷を負った。

 すると南アジア原産の「アカール・クニン(学名 Fibraurea tinctoria)」という植物の葉を噛んで液体を出し、その汁を右目の下にできた傷口に繰り返し塗っていたのだ。

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植物の葉を噛んで液体を出し、ラクスはそれを傷口に繰り返し塗りつけ、噛んだ植物の材料を傷口に直接当てていた。これは医師が傷口に貼る絆創膏によく似ているという。

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左: アカール・クニンの葉。葉の長さは15~17cm程度。右: アカール・クニンの葉を噛んで治療に使うオランウータンのラクス / image credit:Saidi Agam / Suaq Project

野生動物が薬草を使って傷を治療する初の事例

 アカール・クニンは、「ベルベリン」という抗菌・抗炎症・中枢抑制・血圧降下効果があるアルカロイドが含まれていることから、インドネシアの伝統医療で使われてきた薬草だ。

 またラクスはこの植物を食べもした。周辺には150頭のオランウータンが生息しているが、彼らがこの植物を食べることは滅多にないので、それ自体がとても珍しい行動だ。

 マックス・プランク動物行動研究所のキャロライン・シュプリ氏は、「私たちが知る限り、野生動物が薬効のある植物で積極的に傷の治療を行った事例は、これが初めて」と語る。

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ラクスの顔の傷(左)2か月後に完全に治癒した(右) / image credit:Armas/Safruddin

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 ラクスは1989年生まれのこの地域では支配的なオスの1頭で、顔の両側に大きな頬パッド(オスの第二次性徴)がある。

 研究チームは、あえて傷口に塗っていたことや繰り返し行われたことから、ラクスの行動はたまたまではなく、意図的なものと考えている。こうした行動は、ほかの仲間から学んだものである可能性も考えられる。

 なお薬草が塗られた傷口は、感染症を起こすこともなく、5日以内にはふさがり、2か月後にはほぼ傷口が消えたという。

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ラクスの傷の変化がわかる比較写真 / image credit:Laumer et al/Scientific Reports

オランウータンと人間の共通祖先から受け継いだ能力なのか?

 こうした行動からは、薬草で傷を治すという行動のベースにある認知能力が、オランウータンとヒトの共通祖先にまで遡れる可能性がうかがわれる。

そうした認知能力が具体的にどのようなものなのかは、まだ調べられていません。

今回の観察は、オランウータンが植物で傷を治療できることを示していますが、彼らがそのプロセスをどの程度理解しているかは不明です(シュプリ氏)

 オランウータンとヒトの最後の共通祖先が生きていたのは、およそ1300万年前のことだと考えられている。

 オランウータンは、チンパンジー、ボノボ、ゴリラをはじめとする類人猿の仲間で、私たち人間に一番近い親戚だ。

 オランウータンはそうした親戚の中では私たちの一番の遠縁にあたるが、それでもDNAの97%が共通している。

 インドネシアマレーシアなど、アジアの熱帯に生息するオランウータンは、マレー語で「森の人」を意味し、その名の通り、樹の上の暮らしに適応した世界最大の樹上性哺乳類だ。

 ハンモックを作ったり、人の服を脱がせたりと、非常に知能が高く、優れた問題解決能力があることで知られている。

 また仲間を観察することで学び、そうした知識や技能を世代から世代へと受け継いでいる。

 この研究は『Scientific Reports』(2024年5月2日付)で報告された。

References:First report of wound treatment by a wild animal using a pain-relieving plant / Wounded orangutan seen using plant as medicine / written by hiroching / edited by / parumo

 
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野生のオランウータンが薬草を使って傷を治療する様子が世界で初めて観察される