2023年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年9月9日
15万部のベストセラー健康書の著者として知られ、テレビ番組に出演した際はその「衝撃的な見た目の若さ」でお茶の間の話題をさらった医師・池谷敏郎さん。生活習慣病、血管、心臓など内科・循環器系のエキスパートである池谷さんは「高齢化が進む日本人の最大の問題は“血管の老化”。それでも、血管の若さを保つ方法はある」という――。

※本稿は、池谷敏郎『完全版 最速で内臓脂肪を落とし、血管年齢が20歳若返る生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■血管年齢=動脈硬化度

本来、私たち人間の血管の壁はしなやかであり、内面(内膜)はなめらかで、その内腔を血液がサラサラ流れるような仕組みになっています。

ところが、加齢とともに「動脈硬化」が進むと、次第にしなやかさが失われて、内面には「プラーク」と呼ばれる瘤(こぶ)が生じるようになります。

こうして血管は加齢とともに生理的に老化していきます。そして、生活習慣病や喫煙、不眠等のストレスなどによって、老化のスピードはさらに早まってしまいます。

よく「血管年齢」といわれますが、これは、「血管が何歳相当に硬くなったか」を表す指標で、「動脈硬化度」を表しています。

血管年齢は、指先や手足に取り付けたセンサーを用いて、ドックンドックンと拍動する脈の形や、その波が血管壁を伝わる速さを分析することで推定され、健康であれば実年齢とほぼ一致します。

ところが、動脈硬化が加齢にともなう生理的範囲を超えて進行している場合、実年齢が20~30歳でも、血管年齢は50~60歳に老化してしまうことがあります。

■若いのに老けて見える人は、血管の老化の可能性…

血管の老化は、体内に37兆個あるとされる細胞への血液循環の不良を意味し、皮膚への血流の悪さは外見上の老いた印象の一因となります。

逆に、血管年齢を若く保つことができれば、見た目の若返りとともに、全身の臓器の機能も良好に維持することが可能となるのです。

また、血管の硬さ(血管年齢)は、自律神経(交感神経・副交感神経)の影響を受けています。緊張や睡眠不足、ストレスなどにさらされると、交感神経が優位に働いて血管が収縮して血圧が上昇します。

このとき血管壁は硬くなるので、血管年齢は老化していると推定されますが、末梢(まっしょう)の血管が収縮することで毛細血管の血流は減少します。

動脈硬化によって血管壁そのものが硬化した場合と同じように、交感神経の緊張に伴う血管の収縮もまた、血管年齢の老化とともに末梢の血流を悪化させる要因となります。

■日本人の健康寿命は男性72.6歳、女性75.5歳

「人生100年時代」といわれて久しい日本において、いくつになっても若々しく前向きに生きることがいっそう重要になってくると思います。そして、年齢を重ねて人生の最終章を迎えるときに大切なのは、健康的に天寿をまっとうすることです。

「健康寿命」という言葉を耳にしたことがあると思います。これは、「平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態にある期間を差し引いた期間」を指しています。つまり、元気に日常生活を送ることができる期間です。

WHO(世界保健機関)が発表した2023年版の世界保健統計(WorldHealthStatistics)によると、日本人の健康寿命は、男性が72.6歳、女性が75.5歳で、いずれも世界1位となっています。

世界1位はすばらしいことですが、この年齢を見て、「意外に若いな」と思いませんでしたか?

■老後に約10年の介護状態が待っている現実…

厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳となっています。

平均寿命は「0歳における平均余命」を意味しますが、一般的にはこちらの年齢のほうが馴染み深いため、「人生まだまだ長い」と思っている方も少なくないかもしれません。

でも、平均寿命は、決して人生を謳歌(おうか)できる年齢ではありません。

実際に、平均寿命と健康寿命には男性で約9年(8.87年)、女性は約12年(12.07年)もの開きがあります。この間は、なんらかの制限を受けながら日常生活を送ることを強いられる、ということなのです。

この期間を短くすることが、私たちが次に目指すべき目標といえるでしょう。健康寿命を延ばし、平均寿命との差を縮めるためのカギを握るのは、血管の若さです。

■血管の若さが健康度を示す

私はこれまで、「見た目」や「若返り」の重要性をみなさんにお伝えしてきましたが、それは、「見た目」が体内の「血管」の状態を映しているからです。

私たち人間の体の中には、全身にわたって血管が張りめぐらされています。全身の血管の様子は、桜の木を思い浮かべるとイメージしやすいと思います。

人間の体の中心には、桜の木の幹に相当する太い「大動脈」が縦に走っています。そして、桜の木の枝が大きく広がって伸びるように、手足へと枝分かれしているのが末梢の「中・小動脈」、末端の花や葉の部分に相当するのが「毛細血管」です。これらの血管はすべて、一本でつながっています。

血管の中の血液の流れは、主に血管の収縮と拡張によって調節されています。

大動脈は心臓から送り込まれた血液をしなやかに広がって受け止めたあと、今度は収縮しながら血液を中・小の末梢の血管へ押し流していく働きをしています。これによって、食事で摂った栄養や呼吸で取り入れた酸素が血液に乗って体の隅々まで送られ、私たちは健康で見た目も若々しくいられます。

■「若々しい血管」「老化した血管」を分けるもの

では、年をとっても若々しい血管と、若くても老化が進んでしまった血管との違いはどこにあるのでしょうか。

血管は加齢とともにゆっくりと老化します。それによって動脈硬化が進むと、血管のしなやかさが失われて内腔が狭くなるため、末梢への血流が悪くなります。

また、血管の働きは、大動脈などの一部の太い血管を除いて、自律神経によって無意識のうちにコントロールされています。中・小の末梢の動脈には、自律神経が張りめぐらされているのです。

自律神経には、リラックスしたり体温が高くなったときに優位になる「副交感神経」と、ストレスがかかったり体温が低下したときに働く「交感神経」があります。副交感神経には中・小の末梢血管を拡張する働きが、交感神経には収縮させる働きがあり、状況に応じて血圧や末梢への血流を調整しています。

つまり、交感神経が優位になる環境(ストレス環境)もまた、血管を収縮させ、血流を悪くしてしまうのです。

■良い生活習慣で「血管は若返る」

ただし、「良い生活習慣」によって血管の老化を遅らせたり、自律神経を整えて末梢の血管をしなやかに開くことができれば、血管年齢を実年齢よりも若く保つことは可能です。

血管年齢を若く保ち、体の隅々まできれいな血液を流し続けることは、若々しく健康に生きるために欠かせない要素です。

これまでのご自身の生活を振り返って、「私はもう遅い……」などと嘆く必要は、まったくありません。

以前は「ひとたび動脈硬化が進めば血管はもとには戻らない」と考えられていました。しかし最近では、悪しき生活習慣を正し、副交感神経の働きを高めることで、血管の老化を抑えるだけではなく、若返らせることも可能であることがわかっています。

「血管は若返る」――まずはその事実を知ってください。

■池谷式・血管若返り術

『完全版最速で内臓脂肪を落とし、血管年齢が20歳若返る生き方』では、私のダイエット体験を基に、「内臓脂肪」を減らして動脈硬化の進行を遅らせ、血管年齢から若返るための生活習慣のポイントを紹介しています。

20年以上にわたって私自身が日々実践し、改良を加えてたどり着いた22のメソッド「池谷式・血管若返り術」です。

「無理をしない」「我慢しない」をモットーに、続けることを第一に考えたメソッドですが、やればやるだけ成果が得られ、気持ちが上向きになり、周りからの評価もアップします。しかもほとんど費用はかかりません。これをより多くの方にお伝えしたいと願っています。

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池谷 敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長、医学博士
1962年東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki