新入社員が今年もやってきました。そこで「すぐ辞めた新入社員」の記事の中から、反響の大きかったトップ10を発表。今回は惜しくも次点だった記事を紹介!(初公開2022年5月10日 集計期間は2018年4月~2023年12月まで 記事は取材時の状況)
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 多くの企業が新入社員を迎え入れる春。新卒はもちろん、転職してきた人たちで職場の空気は一変する。だが、なかにはすぐに辞めてしまう新入社員もいるのだ。その理由は、いったい何なのか——。

 業務内容に対する向き・不向きとは関係のない部分が原因で辞めてしまう人も少なからずいる。今回は、そんな新入社員と出会った2人のエピソードを紹介する。

◆体がぼろぼろになりながらも飲み続ける酒乱

 日本料理の板前になって20年以上になる本田直人さん(仮名・50代)は、“酒”が原因ですぐに辞めていった新入社員Aについて話してくれた。

 Aは、30代前半の痩せ型で色黒な男性だった。会話の受け答えに覇気が感じられず、病気を疑ったという。

「あまりにも元気がないので『体調が悪いんですか?』と聞くと、入社する直前まで1ヵ月も入院していたと言うんです」

 本田さんは、深く突っ込んで聞くのも失礼と思ったのだが、Aが自ら状況を話し始めたそうだ。どうやら、お酒の飲み過ぎで体を壊していたとのこと。

「1ヵ月ですから、なかなかの病状。詳しく聞くと、すい臓を手術したそうです。術後の経過も良くないようで、医者からは禁酒しろと言われているそうでした」

◆具合が悪いのは一目瞭然だった

 どのくらい飲んでいたのか尋ねると、予想以上だったようだ。

 Aによると、仕事の片づけをしながら日本酒を飲み、帰宅途中で缶ビールをあける。そして家に帰ってお風呂に入ったのちは飲みに出かけ、だいたい深夜か朝まで飲み続けていたということだ。

「それがほぼ毎日だったそうです。その生活を3年間続けていたら2度倒れたと言っていました。Aは『前回入院したときは、かなりヤバくて鼻からチューブ入れてました。家族も呼ばれて最悪の場合を覚悟してくださいって言われちゃいましたよ』なんて、生死にもかかわる事態だったことを平然と話すんです。

 Aは酒をやめる気はないようでした。具合が悪いのは仕事ぶりを見れば一目瞭然。動きが鈍く、すぐ息を切らしてしまう状態だったので……」

◆開口一番「今日で辞めます」

 そんな状態ではまともに働けないだろうと心配していた本田さん。

「年末はおせち料理の予約が入るため忙しく、準備と盛り付けは深夜までかかる。周りのみんなも『こいつ大丈夫か?』『まともに仕事できないんじゃないか』と不安になっていきました」

 なんとかおせち料理の準備が終わったのだが、Aは今にも倒れそうで「こんなんじゃ、一緒に仕事なんかできないぞ」と従業員全員が思っていたそうだ。そして正月の連休が明け、新年の挨拶を交わしているなか、Aがとんでもないことを言い出した。

「上着のポケットに手を入れたまま、『今日で辞めさせてもらいます。なんだかみんなに歓迎されてないみたいなので』と言って、その場から去りました。本当に二度と出勤することはありませんでした」

 ふてぶてしい態度にア然。唐突な発言に「何が起こったのかワケがわからなかった」と本田さん。

「みんな、Aの体調を心配していましたが、それでも普通に接していました。ただ、彼としては何かが気に入らなかったのでしょう」

 Aは今頃、ちゃんと働けているのだろうか……。酒に溺れて消えていった板前を見るのは初めてだったと本田さんは振り返った。

◆警察沙汰になってもおかしくない、盗み癖のある新入社員

 大手製薬会社に勤めている森田真奈さん(仮名・20代)は、入社半年で辞めた同期Sについて話してくれた。

 大手だけに森田さんの同期は50人ほどいるが、自己紹介のプレゼンひとつとっても各々が個性的で優秀な人ばかりだったそうだ。

「そのなかでもSは目立っていました。帰国子女で英語が堪能、容姿端麗なモデル並みのスタイルで、みんなの目が釘付けになりました。研修期間はホテル住まいだったので、私はすぐに仲良くなったんです」

◆研修期間中に盗難事件が多発

 しかし、完璧なSにも欠点があったという。

「朝が弱かったんです。寝坊も多く、ホテルから研修場所へ向かうバスに乗り遅れることもしばしば」

 そんなある日、事件が起こる。

「ホテルに戻ると、同じフロアの部屋から化粧品がなくなっていたんです。それもブランドの高価なものばかり」

 最初は盗まれた人の勘違いか、どこかで落としたのかと、みんなが思っていたようだ。しかし、その日以降も……。

「また同じフロアの部屋からポーチや財布がなくなっていきました。私のエルメスのスカーフもなくなりました」

 当然、研修場所では騒ぎとなり、アンケート調査が行われることになった。だが、犯人は見つからず、そのまま数日が過ぎていった。そして、ホテル以外でも被害者が出ることになる。

「その日は、研修終了後に何人かで飲みに行ったんです。Sと私も含め8人のメンバーは2次会のカラオケに行きました。私は酔ってしまい外に出て休んでいたのですが……」

◆「あいつにカネを取られた!」と訴える同期

 そこへ、同期の男性がやってきてとんでもない言葉を言い放つ。

「Sの隣で飲んでいた同期が『あいつにカネを取られた!』と言ったんです」

 その現場には、被害者本人だけではなく、何名かがSが盗んでいるところを目撃していたというのだ。Sは「私はやってないのにみんなが私のせいにする」と泣きながら弁明していたとのこと。

「その日以降、ものやお金が消えることはなくなり、そのまま研修も終了しました。私たちは配属先の全国各地へと異動することになったので、事件の真相はわからないままです」

 その後、Sが辞めることを知ったのは人事発令の張り紙を偶然目にしたときだった。Sは配属後、営業に同行していた先輩社員の財布から現金を抜き取ったことがバレたようだ。

「Sは最後まで非を認めなかったのですが、結局は自ら退職することになりました。警察沙汰にはならなかったけど、犯罪でしたね……。仕事は真面目で能力は高かったので、もったいなかった」

 今回紹介した2人のケースは、仕事以前の問題だったようだ。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

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