―[シリーズ・駅]―


 3月下旬、仕事で九州に行く用事があった筆者は、せっかくだから鉄道を乗り継いで北海道まで帰ろうと計画。時刻表で調べたところ、新幹線や特急もアリという条件だと1日(始発~終電)で移動可能な距離の限界は、山川駅(JR枕崎線・鹿児島県指宿市)から旭川駅北海道旭川市)の2813.9km。そこで今回はこのルートで戻ってみることにした。

◆出発は日本最南端の有人駅

 出発地の山川駅は北緯31度12分に位置し、切り立った崖下にあり、目の前は海というロケーション。だが、着いたのは朝5時過ぎだったこともあり、辺りは真っ暗で何も見えない。おまけにあいにくの雨だ。

 この駅の2つ隣には、JR日本最南端駅で有名な西大山駅があるが、同駅が開業する1960年3月までその称号を持っていたのは山川駅。現在は“JR日本最南端の有人駅”で、駅前には記念碑もある。

 5時26分発の始発の鹿児島中央駅行き普通列車は、国鉄時代に製造されたキハ47系の4両編成。早朝のローカル線にはやっぱりこういうレトロな車両がよく似合う。

 しかし、空が白み始めてもどんよりとした雨雲に覆われ、晴れる気配は一向にない。天気が良ければ車窓から見えるはずの桜島もまったく見えず、6時46分に鹿児島中央駅に到着。途中下車は可能だったが次の新幹線さくら542号の出発までは10分しかなく、そのまま新幹線のホームへ。ただし、時間がまだ早いせいか乗客の数もまばらだ。

博多駅で下車したことを後悔…

 筆者が乗車したさくらに加え、みずほつばめ九州新幹線普通車は2-2列。東海道・山陽新幹線や東北・北海道新幹線など多くの新幹線で採用されている3-2列より1席分少ない。

 そのため、シートがゆったりしており、座り心地も抜群だ。こんなことなら博多駅で下車せず、終点の新大阪駅で乗り継ぐべきだったと今更ながら後悔しまった。

 しかも、鹿児島中央―博多、博多―東京の2区間分の特急券を1枚の切符で発券してもらったため、これだと博多駅で下車することができない。そのことをうっかり忘れており、気づいた時は後の祭り。駅の外観を撮影しようと思った程度なので改札から出られなくても大きな影響はなかったが、鹿児島中央駅に続いて2駅連続で駅構内で過ごすハメになってしまった。

◆休日で混雑しており、トイレに行きたかったが我慢…

 それでも博多駅での乗り継ぎはわずか15分。すでにホームには東京行きののぞみ14号が停まっていたため、すぐに乗り込むことに。

 でも、春休み期間中の週末だったこともあり、岡山を出発した頃には車内もほぼ満席。3列席の窓側席だったため、トイレに行きたかったが隣に座る女性は眠っていたので声をかけずらい。結局、東京駅まで我慢し、到着後にトイレに駆け込んだのは言うまでもない。

 その東京駅では昨年9月で車内ワゴン販売を終了した東海道新幹線の名物の通称『シンカンセンスゴイカタイアイス』の自販機を発見。次の新幹線に乗る前に買えばいいやと思っていたが、東北・上越・北陸新幹線のホームに自販機は設置されていないのか発見できず。自業自得といえばそれまでだが、心なしか出発してから小さな不運が重なってる気がする。

◆隣に座るアメリカ人旅行者と仲良くなった

 東京駅では次の新幹線まで50分近い時間があり、特急券もここから先は別の切符になっていたのでこの旅初めての途中下車。駅周辺や構内の商業施設などを散策しただけだが、いい気分転換になった。

 そして、14時20分発のはやぶさ27号で新函館北斗駅を目指して北上。だが、仙台まではこちらもほぼ満席。しかしながら隣に座るアメリカ人旅行者と仲良くなり、日本のオススメスポットについて聞かれたので、拙い英語と翻訳アプリを交えて教えてあげたり、旅行談義で大盛り上がり。おかげで4時間弱の乗車時間が思った以上に短く感じたのでこちらとしても助かった。

◆雪がまだ残る3月下旬の北海道は寒かった

 新函館北斗駅に着いた時は、すでに現地は真っ暗。ここでは次の列車まで約30分の待ち時間があり、途中下車可能だったので駅の外に出ることに。

 駅前の温度計を見ると、プラス7.8℃。3月下旬の日没後の北海道にしては比較的暖かいが、出発地の山川駅のある指宿市の同日朝5時の気温を調べると20.5℃。13℃近い温度差があり、さすがに寒い。雪はほとんど溶けていたが、所々にまだ残っていた。

 そんな新函館北斗駅には、駅に併設される地元自治体の北斗市観光交流センターに“ある名物”が存在する。それは『北斗の拳』のケンシロウ像。『明日への秘孔』と名付けられた高さ190㎝(※台座を含む)の像は、作品と同名の北斗市の住民有志たちが熱望したことで実現。正直、この時点で出発から13時間以上が経ち、すでにヘロヘロだったがケンシロウ像を前に気合いを入れ直し、札幌行き最終の19時1分発の特急北斗21号に乗車。とはいえ、すぐに寝落ちしてしまい、道中の大半を寝て過ごして22時41分に終点の札幌駅に到着した。

 筆者の自宅は札幌市内にあるため、本来ならここがゴールなのだが1日で移動できる限界に挑戦するのが今回の目的。食料の購入と駅の外観撮影のために改札の外に出たかったが、筆者の乗車券では札幌駅での途中下車はできない。函館方面から特急を乗り継いで旭川方面に向かう場合、途中の札幌―白石間を二度通過することになり、そうした区間では下車するとそこから先の乗車券が無効になってしまうためだ。

2813.9kmの移動にかかった所要時間は「19時間4分」。

 仕方なく旭川行き最終の特急カムイ47号に乗車し、予定通りの23時5分に出発。JRグループでもっとも遅い時間に出発する特急列車は、日中と違って車内は途中の岩見沢駅を過ぎると乗客もまばら。車内で日付をまたぎ、旭川駅には深夜0時30分に着いた。

 2つある改札口の1つはすでに閉鎖されており、空いているほうの改札から出たがすぐに閉まってしまうので駅の外へ。すると、駅南口は歩道以外の部分がまだ雪で覆われている。鹿児島とは完全に別世界だ。

 なお、この日の2813.9kmの移動にかかった所要時間は19時間4分。運賃と各指定席特急券の合計額も6万270円と決して安くないが、乗り鉄的にはいろんな景色を堪能でき、日本の南北の気候の違いも実感できたので大満足だ。

 移動時間がかかりすぎるのであまりオススメできないが鉄道でもこれだけの距離を1日で移動できることが証明できたはず。旅行の計画などを立てる際の参考にしていただければ幸いだ。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

―[シリーズ・駅]―


東京駅に入線した新函館北斗行きのはやぶさ27号