1990年代中盤から2000年代初頭に生まれた世代のことを指す「Z世代」。今年度はそのZ世代のなかでも四年制大学の場合、新型コロナの始まりとともに大学に入学した年次である「新型コロナ一期生」が入職する年です。世代間でデジタルに対する姿勢やコミュニケーションにおいてギャップを感じる場面がしばしばあるでしょう。本記事では医療機関やヘルスケア業界で活躍する人材の育成に携わる立場から、東京医療保健大学医療保健学部教授の瀬戸僚馬氏が、GW明けに5月病退職を増やさないための「Z世代と同じ職場で働くためのポイント」について解説します。

医療系大学で垣間見えるZ世代の「普通」

まずイメージしていただきたいのですが、大学内にはグループチャットがいくつかあり、そのシステムのなかで筆者のゼミ生に連絡したり、1人ひとりに向けて電子メールを発信したりしています。

こうした日常的なやりとりのなかで、たとえば電子メールなのにチャットのようなカジュアルな言葉づかいだったり、返事を出すまでに少し時間がかかったりする学生もいます。

それなのになにか楽しみなイベントをやるときはすぐに律儀な返事が来たりすることもあるので、「ちょっと都合がよすぎるのでは」と思わず突っ込みたくなることもあるのですが、やはり自分の想いをフォーマルな言葉で表すのが苦手な学生が増えてきました。

もちろん、大学教育は医療機関や企業などで働く準備をする場という性格がありますから、さすがに実際の職場と比べると程度の差はあるかと思います。

それでも医療機関に入職したZ世代にとっての「普通」なコミュニケ―ションを目の当たりにして、戸惑いを覚えた経験を持つ先輩職員の方も多いのではないでしょうか。

だからといって、Z世代に対して「すぐに返事するように」とか、「もっと背景的なことから説明してください」と苦言を呈しても直ちによい結果につながるわけではありません。ましてや「〇〇しなさい」と命令文にするのは論外です。毎年GW明けに出てくる5月病による退職者を増やすことにもつながりかねません。

あくまで年長者として「自分の期待している内容がきちんと伝わっているかな」「どうしたらもっと早く返事をくれるかな」と自己点検するくらいのマインドセットをして、見守っていくのがよいやり方だと考えています。

改めて思うことですが、医師をポケベルで呼び出していた時代を知っている病院のマネジメント層とデジタルネイティブZ世代では、そもそものコミュニケーションのインターフェースが違い過ぎます。

特にZ世代は対面や電話でのコミュニケーションを苦手とすることが多いとも聞きますが、さまざまな場面でZ世代ならではのITリテラシーの高さに助けられることもあるはずです。

まずはZ世代の得手不得手を時代の変化として受け入れて、よりよいチーム作りを模索したほうがきっとよい結果につながるはずです。

今年度から「新型コロナ一期生」が医療機関へ

この春、新たにZ世代を迎えた医療機関にとって1つのポイントになるのが、「新型コロナ一期生」の入職でしょう。ちょうど令和6年4月に医療機関に入職した新卒者は、四年制大学の場合、新型コロナの始まりとともに大学に入学した年次となります。

あこがれのキャンパス生活の多くをオンライン環境で過ごし、ラーニングマネジメントシステムなどを通じて指導を受けた彼らは、おそらく一般的に想像されるよりもはるかにデジタル化された空間のなかで学生時代を過ごしています。

そのため、どんなに設備のよく整った病院であっても、多かれ少なかれ「アナログ」にみえてしまうことが予想されます。

新卒者がスムーズに職場に入っていけるように指導する立場の上司や先輩職員の方は、こうしたデジタルに対する世代間の違いを意識したうえで、特に「アナログ」な業務でのサポートができるとよいでしょう。

まだペーパーレス化が行われていない業務では思わぬところでつまずいたり、ストレスを感じたりするケースもあるようです。

デジタルに対する世代間の違い

筆者の感覚値ではありますが、現時点におけるマネジメント層以上の看護師のなかで、「電子カルテしか経験のない方」はまだ1割程度だと思われます。

多くの方が従来の紙カルテから電子カルテへの移行を職場内で経験しているはずで、もともとアナログだったものがデジタル化するインパクトを実体験として持っています。

一方、Z世代からすると、タブレットがある環境で生まれ育っていて、物心ついたときにはWi-Fiを利用する生活に親しんでいます。

多くの病院の場合、彼らが過ごしてきた日常生活やキャンパスライフよりもデジタル化していない環境にありますので、こうした体験の違いによるギャップはやはり無視できず、院内にあるオンライン化されていないもの、アナログなものへの抵抗感は強いものがあります。

これはDXそのものではありませんが、たとえば「300~400字のテキストを作成する」という場面があったとしましょう。病院の中堅・ベテラン層であれば、ノートパソコンを起動してテキストを作成しようとする人が多いのに対して、Z世代であれば、スマートフォンだけで済ませようと考えるのが多数派でしょう。

まったく同じタスクにもかかわらず、世代間によって合理的なやり方は異なりますし、こうした前提をあらかじめ認知できていれば、お互いに調整しやすい部分もあるものと思います。

このようなICT全般に対する感性の違いを受け止めながら、ときには彼らのやり方に合わせたり、あるいは彼らにとって「古い」と感じられそうな業務内容については、彼らに届く言葉で説明を尽くしたりといったサポートがかなり重要といえます。

特に「アナログ」要素の残るものについては、「こういうものですからやってください」といった押し付けではなく、業務の目的やゴールイメージ、現状のおかれた状況(as is)と今後の方向性(to be)なども交えて説明すると、「共感」とまではいかなくとも、「理解」したうえで期待どおりの動きをしてくれます。

高い自己肯定感、低い自己効力感

Z世代の特徴を端的に表す言葉として、「自己肯定感が高く、自己効力感が低い」というものがあります。

これはあくまで一般論ですが、自己肯定感が高ければ、「自分のありのままを尊重しよう」という気持ちが強く、ブレない自己を持つことにつながりますが、自分自身のことを見つめ直して内省するのが苦手な面もあります。自己肯定感が高いがために、「環境がよくない」「ルールがよくない」といった外在的な理由探しに終始しがちになるのです。

もう1つの自己効力感は、たとえば仕事上での「やれる」「できる」といった感覚です。職場のなかで困難なことに向き合う場面は誰しもが経験することですが、そのときに「なんとか自分もできるようになろう」という気持ちに向かうのではなく、「こんな大変な仕事で削られたくない」「仕事はそこそこにして、プライベートを充実させたい」といった方向性に行く傾向にあります。つまり、自己効力感が低い状態からなかなか抜け出せないままということが多いのです。

よく新卒者のあいだで使われる言い回しのなかに「配属ガチャ」や「上司ガチャ」というものがあります。ソーシャルゲームの概念である「ガチャ」、もしくはカプセルに入った「ガチャガチャ」のように、新卒者の配属先や自分の上司などが運の要素で決まるといった意味合いですが、実は自己効力感の低いZ世代の心情をうまく表したものなのかもしれません。

学生「なにをしたらいいのかわからない」

実際に20歳前後の学生と接していて、「自分はなにをしたらいいのかわからない」といった悩みを聞くことは多いですし、それは今も昔もあまり変わりません。

東京医療保健大学の場合、医療保健学部は医療機関で活躍する人材を送り出すことを前提としていますが、筆者の本務とします医療情報学科の場合は病院のシステム部門だけでなく、ヘルステック分野などのIT企業に入ってプログラマーをしたり、あるいは技術営業をしたりする道も開かれています。

看護師などの国家資格の取得とその職種での就業を前提とする学科と比べると、レールが敷かれていないなかで自身のキャリア形成と向き合う要素が大きいといえます。

「面白そう」と「できそう」のマッチング

そこで筆者がキャリア指導を行うときには、学生を大きく2つのパターンにわけながら、「面白そう」を見つけさせています。それは「人間の相手をしたい人」と「コンピュータの相手をしたい人」という分類です。

人間を相手にすると、どうしても想定どおりにならないことがあります。この想定どおりにならないことが単純に「面白い」と感じる場合はよいのですが、ここにストレスを感じてしまう学生もいます。

一方で、コンピュータは正しく定義しないと動きませんが、正しく設定すれば指示どおりの動きを繰り返してくれます。こうした世界観に楽しさを感じたり、高い適性を示したりする場合もあるわけです。

こうしたパターンわけを手がかりにしながら、筆者も含めて「面白そう」を見つけていくサポートをしていますが、こればかりはあくまで主観の領域なので、本人の自主性や感性に任せています。

「面白そう」に加えて、もう1つ大事なのは「できそう」と感じてもらうことです。

「できそう」という気持ちは、さきほどのZ世代の低い自己効力感にも通じることなのですが、たとえば「〇〇さんはプログラミングに関心があるみたいだから、〇〇あたりの資格取得から始めてみては」「〇〇さんならすぐにビジネス会話ができるはず。ソリューションの提案・販売などが向いているのでは」といった言葉をかけます。

このように大学教員としてのキャリア指導の役割は、「面白そう」と「できそう」という気持ちのマッチングに尽きるのではないかと考えています。

中堅・ベテラン層がすべき「Z世代」への働きかけの在り方

まとめましょう。病院の中堅・ベテラン層からみると、Z世代とのコミュニケーションに独特の難しさを感じたり、彼らのキャリア形成を見ていて、どこか歯がゆく思ったりしてしまう面もあるかもしれません。

しかしながら、多くの場合においてZ世代はキャリア形成に対して真摯な態度で向き合っていますし、自己成長に対して強い関心を持っていることは大学教員の実体験としても感じています。

終身雇用が崩壊しつつあるリアルを知る彼らは、実は上の世代よりも、2年後や3年後の自分を思い描きながら成長することに積極的な一面もあるのです。

そこで大切になるのは、Z世代に属する年齢層の医療従事者に対して明確な複数のキャリアパスを提示し、デジタルイミグラントである私たちの古い価値観を押し付けずに、スキルアップや専門知識の拡大につながる成長機会を提供することでしょう。

こうした病院における中堅・ベテラン層の働きかけや教育の仕組み化がZ世代の職場定着や動機付けに大きく作用することは確かであり、その際にもやはり「面白そう」と「できそう」という気持ちのマッチングが重要な役割を果たすのではないでしょうか。

瀬戸 僚馬

東京医療保健大学

教授

(※写真はイメージです/PIXTA)