企業・団体が出題するテーマに対して、高校生チームが課題解決に挑むアイデアコンテスト『第10回マイナビキャリア甲子園』が今年も開催された。今大会には、過去最多となる1万人以上が参加。Innovation部門のファイナリストに残ったセコム代表の『無所属部所属』チーム(志学館高等部)も、決勝大会で健闘した。

ところで企業の担当者は、どのような思いで高校生たちの活躍を見守ったのだろうか? 『第10回マイナビキャリア甲子園』の協賛企業のひとつ、セコムの担当者に、コンテストの裏側について聞いてみた。

○■コンテストに参画した理由とは

話を聞いたのは、本社オープンイノベーション推進担当 代表・リーダーの沙魚川(はぜかわ)久史さん。セコムグループのオープンイノベーションを担っているチームで、普段は社外のパートナーと共に、新しい価値の探索から新商品開発まで手掛けている。次世代教育という観点では、次世代の起業家育成を目指して2024年に開校した「神山まるごと高専」でもスカラーシップパートナーとしてプログラムを担ってきた。

マイナビキャリア甲子園においては、動画審査以降、沙魚川さんのチームで予選選考や準決勝大会の審査を担当。エントリーチームへのフィードバック、決勝チームのメンタリングなどもチーム全体でサポートした。

――『第10回マイナビキャリア甲子園』に参画した理由について教えてください。

社会の不確実性が高まるなかで「安全・安心」は、ますます必要不可欠なものとなっています。社会の変化にあわせたサービス開発も必要になってきました。セコムでは、そうした変化に対して技術を使って「新しい当たり前」を作り続けています。たとえば、センサーによるセキュリティ、自律AI制御のロボットやドローン、AEDがどこにでもある世界、などです。

特に私たちは、オープンイノベーションチームとして新商品開発、新施策企画の視点から、社会のなかで多様化する1人ひとりの価値観に関心があります。今を生きる若い世代の等身大の価値観、その分散や拡がりを探索することを1つの目的として、2020年度までは大学生版のマイナビキャリアインカレに参画し、2022年度からは高校生を対象にしたマイナビキャリア甲子園に参画しています。若い世代が与えられたテーマを“自分ごと”として捉え、遊び心をもってセコムグループを活用するアイデアに、毎回刺激を受けています。
○■テーマに込めた想い

――今年、セコムが設定したテーマは『セコムグループのサービスを変革して、若い世代の“ほっと”を生み出す、あなたの新しい推しサービスを提案せよ』でした。このテーマには、どんな想いを込めていましたか?

若い世代が“ほっと”という感情をどう描くのか、そして自分自身が「推したい! 推せる!」サービスはどういうものなのか、そのあたりを聞きたいと思いました。

背景には、高校生のみなさんに「大人や審査員に忖度せず、自分ごととして考えてほしい」という想いがありました。すでに顕在化している問題、社会課題を提起する優等生的な意見ではなくて、できるだけ高校生のみなさんに根付いた、ニッチであってもエッジの効いた課題やアイデアを聞きたかったんです。実際、高校生のみなさんはテーマの背後にあるこちらの意図に気づいてくれた。そしてユーザーの視点から「新しい時代に新しい当たり前を生み出す」という気持ちでアイデアを提案してくれました。

――マイナビキャリア甲子園、そして高校生に期待していたことは?

参加者には「大人に寄せない、等身大の問題発見力」を期待していました。大人の目でみて、一見たいしたことないように見えても、若い当事者からすると(今後に根をはる)大きな問題であることもあります。そうした大人では気づけない、今を生きる高校生だからこそ気づけることをいかに発掘して「提案」として可視化するか、という点を楽しみにしていました。

――実際に参画してみて、どう感じましたか?

ビジネスプランそのものは経験値やビジネス知識、技術的な知識も必要です。そこは伸びしろを感じるチームが多かったのも事実ですが、ただ各チームとも「課題設定」と「アイデア」が“自分ごと化”されていて、そこに私たちも驚かされました。ニッチに思える課題であっても、エモーショナルにストーリーを紡いで説明してくれた。参加されたみなさんの情熱、想いの強さには目を見張るものがありました。コンセプトビデオを制作したり、プロトタイプを作ったりと、ビデオ審査におけるプレゼン手法は年々、進化しているのを感じます。

また、私たちがマイナビキャリア甲子園に参画することの副次的な目的として、高校生がセコムについてどう調べ、テーマをどう料理するか、そのあたりも楽しみにしています。
セコム代表の決勝進出チーム『無所属部所属』は、私たちが実際に出資しているスタートアップまで調べ、そう遠くない将来に実用化されるであろう、現在実証中の技術を含めた提案をしてきました。これは、これまでになかったアプローチです。彼女たちのテーマは『青春の時間』だったんですが、等身大の課題に対してリアルな未来技術を持ってきた。この構想力に驚きましたし、純粋にうれしかったですね。
○■いかにサポートするか

――高校生とは、どのようにアイデアをブラッシュアップしていきましたか?

アイデア自体を大人の知識で変えてしまうのはよくないと思っていました。そこで、どうやったら参加者が自分たちで考えたアイデア・想いが伝わるか、第三者の理解・共感を得られるか、そのあたりをフィードバックさせていただいたつもりです。

たとえば、スライドの見た目はしっかりしていても「人に伝える」という大事な部分がどうしても弱いケースがあります。提案の本質は何か、そして理解・共感を生むための手段や流れについて、たくさん議論しました。表現技法よりも、伝えたい本質をいかに分かりやすく伝えるか、そのあたりがポイントになりました。決勝大会の前日になり、内容を大幅に変えたいと言われたときはさすがにびっくりしましたが、主役は高校生たちですから、私たちも最大限のフォローをさせていただきました

高校生たちが生み出したアイデアは、どうやったら世の中の共感を得られるか――。発信の仕方をうまくサポートする、そこが大人の腕の見せどころだと思っています。

――高校生とのやり取りの中で、印象的だったエピソードがあれば教えてください。

彼女たちは決勝大会の当日、舞台のリハーサルでカメラ、照明、客席などの雰囲気に飲まれてしまい、緊張で立つこともできない、などとナーバスになる局面がありました。でも控え室で鼓舞して、一緒に立ち稽古をして声を出して、本番直前までイメージトレーニングを重ねて……。その結果、不安や緊張を乗り越えることができました。本番では、聞いている人の心を揺さぶるような、堂々としたプレゼンテーションを披露してくれました。

決勝大会の終了後には『無所属部所属』の慰労として、セコムのヘリコプターに乗って上空から東京を周遊しました。空から社会を捉え、俯瞰することで更にアイデアが出てくる、そんなこともありました。自分たちが面白いと思えるかどうかを大切に、楽しみながら発想するという視点は、私たち社内のメンバーにとっても大きな刺激となったようです。

○■若い世代の力をリスペクト

――コンテストを終えて今、どのように総評しますか。

将来の当たり前をつくるのは、今の若い世代の発想や想いだと思っています。この情熱は、5年後10年後の社会を変えていくポテンシャルを持っている。自らメッセージを発信して、その想いを紡ごうとしている高校生たちを本当にリスペクトしています。

私たち大人が「ビジネスをつくる専門家」だとするならば、高校生たちは「等身大の課題を発掘する専門家」です。大人と高校生が互いに刺激しあって、社会に新しい可能性を発信していくというのは、とても意義のあることだと感じています。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら
(近藤謙太郎)

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