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 米BroadcomがVMwareを買収し、製品ライセンスの大幅な変更(永久ライセンスの廃止とサブスクリプションモデルへの移行)、製品パッケージの変更、チャネルパートナープログラムの変更などを相次いで行ったことで、市場には大きな動揺が広がっている。場合によってはライセンスコストの大幅増になることから、VMwareの顧客企業やSIerでは、VMware環境からの“脱却”方法や移行先を模索する動きが出ている。

 これを好機ととらえるのが、他の仮想化ハイパーバイザやHCI(ハイパーコンバージドインフラ)を提供するベンダーだ。今回はNutanix CEOのラジブ・ラマスワミ氏、ニュータニックス・ジャパン社長の金古毅氏に、VMware買収による影響と今後の戦略、そしてその先に求められるITインフラのモダナイゼーションの動向を聞いた。

最新四半期は前年比23%の伸び、高い成長を促す“4つの要因”

――まずはNutanixのビジネス概況について教えてください。

ラマスワミ氏:最新四半期(FY24 Q2、2023年11月~2024年1月期)の業績は非常に好調で、すべて目標指標を上回る結果だった。目標を上回るのは7四半期連続のことであり、フォーキャストの上方修正も行った。

 Q2の収益は過去最高の5億6500万ドル(前年同期比23%増)を記録し、ARR(年間経常収益)も前年比26%の伸びとなる17億4000万ドルだった。これは、Nutanixが“サブスクリプション型のソフトウェアカンパニー”への変革を完了したことの証だと言えるだろう。

――力強いビジネス成長の背景にはどんな要因があるのでしょうか。

ラマスワミ氏:4つの要因があると考えている。1つずつ説明しよう。

 まずは、あらゆる企業がハイブリッド・マルチクラウド環境を運用するようになったという要因がある。

 とくにデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中では、アプリケーションやデータをあらゆる場所で自由に実行できる「ITインフラのモダナイズ」が必要となる。データセンター、パブリッククラウド、エッジのいずれでも実行できるIT環境が必要だ。Nutanixは、そうした(分散/多様化した)IT環境をシンプルに一元管理できるソリューションを提供している。これが1つめだ。

 2つめの要因が、IT業界全体で進む統合の動きの中で発表された、BroadcomによるVMwareの買収だ。

 わたし自身、VMwareには長年在籍した経験を持つが、VMwareという企業は非常にイノベーティブなテクノロジーカンパニーとして顧客に好まれていた。しかし、Broadcomのビジネスモデルはそれとは違う。彼らは、買収したアセットの価値を2、3年のうちに最大化しようという方針だ。そうした方針に懸念を持ち、VMware環境からの移行を検討する顧客は増えており、その“ベストな移行先”のひとつとしてNutanixが選ばれている。

 つまり、BroadcomによるVMwareの買収によって、Nutanixには今後何年にもわたる大きなビジネス機会、ビジネスチャンスが生まれたことになる。

――VMware買収の影響については、のちほどあらためて聞きたいと思います。残り2つの成長要因は何ですか。

ラマスワミ氏:3つめは、われわれが昨年(2023年9月)Ciscoと発表した戦略提携だ。これは、CiscoNutanixのプロダクトを組み合わせたハイパーコンバージドソリューションを展開していくというもので、現在は、Nutanixの製品をCiscoがグローバルでリセールしている。まだ提携をスタートしてから日が浅いものの、このパートナーシップの持つポテンシャルには大きく期待している。

 そして最後の要因が生成AIだ。長期的に見て、生成AIがモダンアプリケーション構築の動きを加速させるドライバーになると考えている。われわれは「Nutanix GPT-in-a-Box」というソリューションを昨年(2023年9月)発表しており、早期導入顧客からはとても良い反応をいただいている。

 企業が本格的に生成AIを活用していくうえでは、モデルのファインチューニングやRAGも必要になる。ここでのポイントは「データがある場所でそれらを実行しなければならない」ということだ。企業のデータは、パブリッククラウドだけでなくオンプレミスにもある。そこで、こうしたソリューションを提供するわけだ。

VMware依存からの脱却”を求める企業の声、アーキテクチャ移行を支援

――VMware買収が市場に与える影響については、読者の関心も高いと思います。あなたの見解をもう少し詳しく教えてください。「今後のVMwareの方針を懸念する顧客も増えている」という話でしたが。

ラマスワミ氏:Broadcomは、VMwareのソフトウェアの価格体系やパッケージングの変更、さらにチャネルパートナーへの処遇を大きく変え、大幅なコスト削減にも着手している。そうしたBroadcomの戦略、動きを懸念する顧客企業は多い。実際、VMwareの顧客企業からは「VMwareへの依存性をどうやったら減らすことができるか」といった内容の問い合わせや相談が多く来ている。

 VMwareの顧客企業では、レガシーの3層アーキテクチャ、すなわちVMwareハイパーバイザ(仮想マシン)としてのみ利用し、ストレージアレイと組み合わせているケースが多い。一方で、Nutanixモダンな(Software Defined Storageを含む)HCIスタックを提供しており、顧客のアーキテクチャ移行が実現できる。ストレージハードウェアの更新時期をきっかけとして、Nutanixへのマイグレーションを行う顧客もいる。

 今回の件が「長期的なビジネス機会」になるとわれわれが考えているのは、VMwareとの契約期間がまだ数年残っている顧客企業も多いからだ。さらに買収発表後、すぐにはマイグレーションができないので“時間稼ぎ”のために再契約した企業もある。したがって、Nutanixにとっては長期間にわたるオポチュニティがあり、われわれとしても長期的に取り組んでいく構えだ。

――なるほど。日本国内のVMware顧客の動向はどうでしょうか。

金古氏:グローバルの動きからは少し遅れたが、現在ではグローバルと同様のお問い合わせが多い。ニュータニックス・ジャパンとしても、VMwareからの移行を全力で支援できるよう、お話をさせていただいている。

 その中でお客様にお伝えしているのは、まだVMwareとの契約期間が2年、3年と残っていたとしても「今の時点からちゃんとVMwareへの依存性を減らすために計画をしていく必要がある」ということだ。

――チャネルパートナー向けには、今年の2月に「Nutanix Surgeプログラム」を発表しています。これはVMwareのパートナーを取り込もうという戦略でしょうか。

ラマスワミ氏:VMwareの)パートナーにとっての大きな課題は、BroadcomがVMwareのパートナープログラムを変更したことだ。Broadcomは、大規模な顧客に対してはパートナーを介さずに、直販のかたちを取りたいと考えている。これは、チャネルパートナーにとっては良くない動きだろう。

 また、パートナーは常に顧客企業の満足度が高まることとは何かを考えている。(Broadcomによる戦略転換で)顧客が満足できない状況になってきたのであれば、顧客が満足できるような(新しい)ことをするというのが、パートナーの責務だ。

 VMwareのチャネルパートナーの多くは、すでにNutanixのチャネルパートナーでもある。しかし、まだNutanixのパートナーではない企業もあるので、現在はそうしたパートナーへのリクルーティングを進めている。新たなパートナーに対しては、技術トレーニングの提供や、Nutanix Surgeプログラムのようなインセンティブプログラムを展開している。

――ぶしつけな質問ですが、NutanixもやがてVMwareのように買収される可能性はゼロではない……と懸念する顧客がいるかもしれません。それに対する回答はありますか。

ラマスワミ氏:そもそもVMwareNutanixとでは、企業の成熟段階がまったく違うと考えている。VMwareはすでに成熟した企業だが、Nutanixはまだまだ成長段階にある。現在は20億ドル規模の収益を上げており、FY27には30億ドル規模に成長できる見込みだ。Nutanixは、これからも独立企業として拡大を続けていく方針だ。

「ITインフラのモダナイズ」がこれから確実に進行するいくつかの理由

――成長要因の中でも触れられた「ITインフラのモダナイズ」の必要性についてお聞きします。企業におけるインフラモダナイゼーションの実情はどうなのでしょうか。

ラマスワミ氏:Nutanixでは、企業におけるクラウドの採用状況を調査する「Enterprise Cloud Indexレポート(ECIレポート)」を継続的に実施しており、今年4月には第6回のレポートを発表した。グローバルでおよそ1500名のITDM(IT意思決定者)を調査している。

 今回の調査では、90%の回答者が“クラウドスマートなアプローチ”(データセンター/パブリッククラウド/エッジといった実行環境から、アプリケーションそれぞれに適した環境を選択する考え方)を採用していた。アプリケーションとデータを管理するうえでは「ハイブリッドIT環境がベストである」という回答も80%に達している。

 また、企業がアプリケーションに対して持続的なイノベーションを求めていることも明らかになった。より良いパフォーマンス、より良いイノベーション、より良いセキュリティを目的として、企業はマイグレーションを進めている。調査では「過去1年間に、これまでとは異なる環境にアプリケーションをマイグレーションした」という回答が95%に及んだ。

 もうひとつ、現在の企業が優先事項としているサステナビリティの取り組みについても、興味深い結果が出ている。サステナビリティ目標を達成する重要な手段のひとつとして、より良い電力効率を実現する「ITインフラのモダナイズ」を挙げる企業が多かったのだ。

 そして、AI、モダンアプリケーション、データといったものに対する取り組みも拡大していることが確認された。ここでももちろん、ITインフラのモダナイズが必須になっている。特に「AI投資を強化する」予定だとした企業は多い。

Kubernetes/コンテナプラットフォームの提供にも注力

――あらゆる側面で、ITインフラのモダナイズが進む兆候が表れているわけですね。一方で、アプリケーションをモダナイズしていくうえでは、従来の仮想マシン環境からコンテナ/Kubernetes環境への移行も重要になると思います。

ラマスワミ氏:そのとおりだ。コンテナ化されたアプリケーションに対して、Nutanixでは4つの機能を用意している。

 まず、Nutanix Cloud PlatformにNutanixのランタイムエンジンを組み込んだ「Nutanix Kubernetes Engine」がある。また、今年1月にはKubernetes管理プラットフォームである「D2iQ Kubernetes Platform(DKP)」(旧称:Mesosphere)を買収した。これらによって、オンプレミス環境でもAWSやAzureといったクラウド環境でも、Kubernetesクラスターを実行し、管理できるようになった。

 また、昨年の(Nutanixの年次イベントである)「.NEXTカンファレンス」において、われわれは「Nutanix Data Services for Kubernetes(NDK)」を発表した。これは、クラウドネイティブなKubernetesアプリケーション向けの機能を提供するデータサービス群だ。ブロック/ファイル/オブジェクトのストレージ、さらにスナップショットやDRといった機能も備える。

 それから昨年は「Project Beacon」も発表している。これは(上述したような)NutanixのKubernetes環境に、プラットフォームデータサービスを追加することで、完全にポータブルな(可搬性のある)モダンアプリケーションを開発可能にしていくという取り組みだ。

――Kubernetes、コンテナ環境についても順次対応を進めているわけですね。

ラマスワミ氏:もっとも、Nutanixでは顧客企業に柔軟な選択肢を提供することを重視している。Nutanix Cloud Platform上に、たとえば「Red Hat OpenShift」や「Rancher」といった、サードパーティ製のKubernetesプラットフォームを展開することも可能だ。OpenShiftに関しては、2021年からRed Hatとパートナーシップを結んでおり、Nutanixが提供する環境を選ぶかOpenShiftにするかは、顧客企業自身で選ぶことができる。

Nutanix CEOが語る「VMware買収の影響」、この先の「ITモダナイズ」