国立循環器病研究センター(国循)は5月7日、国際的に使用される肥満度の指標である「BMI」が、18.5未満の低体重は脳卒中後の転帰(疾患・怪我などの治療における症状の経過や結果)不良に関連しており、同値が23~25の過体重では転帰良好に関連することを確認したと発表した。

同成果は、国循 脳血管内科の三輪佳織医長、同・吉村壮平医長、同・古賀政利部長らの研究チームによるもの。詳細は、脳卒中に関する全般を扱う学術誌「International Journal of Stroke」に掲載された。

肥満度の高い人は、そうでない人に比べて、糖尿病などの生活習慣病や心血管病などの発症リスクが高いことは良く知られている。しかし、実は心血管病が発症してしまった後の機能回復の点では、むしろ肥満度が低い人よりも高い人の方が良好であることが報告されており、「obesity paradox(肥満のパラドックス)」と呼ばれている。

一方、脳卒中に関しては状況が異なる。脳卒中においても肥満が発症リスク因子の1つである点は同じだが、発症後の転帰に関しては、これまでのところ研究成果ごとの矛盾があったという。たとえば、欧米で行われた複数の先行研究によれば、脳梗塞ではBMIが18.5未満の低体重の人の方が転帰不良であると報告されているが、obesity paradoxの関連は明らかではないとする。また、脳出血くも膜下出血、さらに脳梗塞でも病型によって肥満度が転帰に関連があるのかどうかは解明されていないという。

日本は超高齢社会であり、さらに欧米ほどの肥満度の高い人は少ないことから、日本人集団に関する独自の検証が必要だったとする。そこで研究チームは今回、多施設国内共同レジストリ研究から、BMIが脳卒中病型ごとの転帰に及ぼす影響を検証することにしたという。

今回の研究では、2006年から2022年までに国循の「日本脳卒中データバンク」に登録された急性期脳卒中5万6230例のうち、入院時にBMIが確認されている症例が対象とされた。BMIについては、世界保健機構が推奨するアジア人における定義に基づき、18.5未満が低体重、18.5~23未満が正常体重、23.0~25.0未満が過体重、25.0~30.0未満がI度肥満、30以上がII度肥満と分類された。

また脳卒中は、脳梗塞脳出血くも膜下出血に分類し、脳梗塞病型を国際的に汎用されるTOAST分類を用いて、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、そのほかの脳梗塞原因不明脳梗塞に分類。評価項目である退院時の転帰(患者自立度)は、国際標準尺度である修正ランキン尺度(0[後遺障害なし]~6[死亡]の7段階の評価法)が用いられ、同尺度の5~6が転帰不良、0~2が転帰良好と定義された。

今回の研究における急性期脳卒中の内訳は、脳梗塞(4万3668例、平均年齢74±12歳、男性61%)、脳出血(9741例、平均年齢69±14歳、男性56%)、くも膜下出血(2821例、平均年齢63±15歳、男性33%)とされ、以下の4点が明らかになったという。

BMI18.5未満(低体重)は、脳梗塞と各病型(心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞)や脳出血における転帰不良のリスクを約1.4~2.3倍に高めた。
アテローム血栓性脳梗塞では、BMIと転帰不良にU字型の関連が認められ、低体重と肥満はいずれも、転帰不良のリスクを高めた。
低体重は、特に重症の脳梗塞や再灌流療法後における転帰不良と関連していた。
BMI23.0~25.0(過体重)や80歳以上の高齢者におけるBMI25.0~30.0(I度肥満)のグループは、脳梗塞後の転帰不良のリスクが9~17%低下し、obesity paradoxが認められたとした。

高齢者の低体重は、低栄養やフレイルおよびサルコペニアといった全身状態や心身の脆弱性、身体的機能低下を反映することが多い。急性期脳卒中発症後の消耗に対して予備能が乏しいことが、転帰不良のメカニズムに挙げられるという。フレイルやサルコペニアなどの影響が考えられる、高齢者の体重減少を抑制することは、脳卒中診療においても重要と考えられるとした。

また、低体重だけでなく、BMI30以上の肥満はアテローム血栓性脳梗塞後の転帰不良の危険因子であることも確認された。今回の研究結果から、高齢者の体重管理の目標値としてBMI25を基準にすることが適切かもしれないとしている。

BMIは簡単な計算式で導け、身長と体重のバランスを誰でも容易に確認できる指標のため、同値に基づく体重管理は、脳卒中の発症予防および重症化予防の実現可能な対策といえるという。今後の脳卒中医療の啓発に、今回の研究結果は参考になるものとしている。
(波留久泉)

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