「声が大きい人ばかりが得をしていてイヤになる」「答えづらい質問をされて、とっさにうまく対応できなかった」「やりたい企画をやらせてもらえない」……など、組織で働く限りは、仕事への不満や将来への不安を、多かれ少なかれ抱きがちだ。

 4月から新しい環境で働き始めたという人たちも、そろそろ自分の適性に不安を抱いたり、職場のマイナス面が見えてきたりする時期ではないだろうか。そんな悩めるビジネスパーソンに役立つのが、「神回答」の数々である。

 偉人研究家・名言収集家の真山知幸氏が、現代の最新名言をとりあげた『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』(小学館)では、著名人の「神回答」を8つの効能別に章分けをして解説している。そのなかから、いくつかの「神回答」を紹介しよう。

◆「神回答」には8つの効果がある

 これまで偉人や名言の本を数多く書いてきたが、あるときから、「名言には2種類ある」ということを考えるようになった。

 一つは、「一人の思考から生み出された言葉」。そして、もう一つが「会話のやりとりから発せられた言葉」である。ネットなどでたびたび「神回答!」と話題になるのは、後者のタイプの名言ということになる。

「神回答」はその場で、即興で発せられた言葉がゆえに、物事の本質を鋭く突くこともあれば、相手に優しく寄り添ったり、また、勇気を奮い立たせたりすることもある。

 神回答には8つの効能があると私は考えているが、この記事では、そのうち「視野が広がる神回答」「人間関係を円滑にする神回答」や「心が奮い立つ神回答」を、それぞれ一人ずつ挙げて、解説していきたい。

◆「怒れない」という悩みへの「神回答」(お笑い芸人/カズレーザー

「怒りっぽい性格に憧れる」という人は少ないだろう。すぐに怒るような感情的な人は、仕事でもプライベートでも周囲から距離を置かれてしまうだけだからだ。

 それでも「ときには怒ったほうがよいのではないか?」「自分は言われた通りに従いすぎているのでは?」と考え込んでしまうときもある。自分が軽んじられて、いつもやっかいごとを押しつけられてしまう。そう感じるときは、特にそうだ。

 お笑いタレントカズレーザーのもとにも、そんな相談が寄せられている。「ちゃんと怒れるようになりたい」という相談に対して、カズレーザーは「怒んなくてもいいんじゃないかなと思いますけど……怒らない人っていうのは重宝される」と返答。続けて「感情的なもの(物言い)」について、次のような見解を述べた。

どんな感情であれ、どんな正義があれ、不愉快なんですよね。その表現自体が」*1

「怒れない」という悩みを持ってしまうときは、怒っている人が何かその場をコントロールしているように錯覚しがちだ。

 しかし実のところ、周囲がひたすら気を遣い、内心はしぶしぶ対応しているに過ぎず、見かけほど怒れる人の思い通りにはなっていない。

 怒りっぽい人のなかには「感情のコントロールができない」と苦しんでいる人もいる。そんな人からすれば「がんばっても怒れない」という人は、うらやましくて仕方がないだろう。落ち込むときほど、自分のよいところを見誤らないことだ。

神回答ポイント
自分に自信がなくなると、かけ離れたタイプの人のことを、うらやましく思いがち。だが、自分が抱えている内面の問題が、大切な個性でもあることを忘れずに。

◆「即答しづらい質問」にどう対応するべきか?(俳優/ティモシー・シャラメ

 もし、志を同じくしてともに働いた仲間に、不祥事の疑惑がささやかれたら、どんな態度をとるべきだろうか。

 アメリカの俳優ティモシー・シャラメは、そんな難しい立場に立たされていた。

 シャラメにとって、2021年3月にレイプ疑惑で女性から告発されたアーミー・ハマーは、2017年の映画「君の名前で僕を呼んで」で共演した仲間である。

 続編も予定されていたが、ハマーの疑惑が持ち上がったために、撮影は頓挫してしまっている。

「タイム」誌のインタビューで、ハマーの疑惑について聞かれたシャラメ。ハマー自身は、すべての不正行為を否定して「関係は合意の上だった」と主張している。だが、多数のプロジェクトから外されて、所属事務所からも解雇されている状態だ。

 どんな答え方をしても、誰かを傷つけてしまいそうななか、シャラメが答えたのがこの言葉である。

あなたがそれを尋ねる理由はよくわかる。でも、もっと長く話すべきことだし、今ここで部分的に答えることはしたくない」*2

 実質的には「ノーコメント」なのだが、ここまで丁寧かつ誠実に心情を表現されると、腹にストンと落ちる。

 ことの重大さを伝えつつ、被害者にも不快感を与えることはない。25歳にして見事な回答だといえるだろう。

神回答ポイント
結論がまだ出しにくいことを聞かれたら、その場で無理に即答することはない。気持ちが揺れ動いているならば、その胸中も伝えてしまおう。

◆やりたい企画ができないときにはどう考える?(ミュージシャン/矢野顕子

「超個性派シンガーソングライター」と表現されることもある、ミュージシャンの矢野顕子

 独創的な歌声で優しい世界観を創り上げる――そんな矢野ワールドに魅せられた一人が、アーティストで俳優の「のん」だ。矢野への憧れをこう語っている。

「歌声、曲、ピアノの演奏だけでなく女王様のような存在感も、矢野さんの全部が好きでどうしてもお会いしたかった」
 
 その願いは、2017年に刊行したフォトブック『創作あーちすとNON』(太田出版)の企画で実現する。

「どうやったら、やりたいことを貫いている矢野さんのようになれるのですか?」と尋ねたときに、矢野から返ってきたのが、次の言葉である。

好きなことをやり続けたら、まわりがあきらめてくれるのよ」*3

 自分にやりたいことがあり、誰かに認めてもらう必要があるとき、人はどうしても相手を説得しようとする。しかし、価値観は人それぞれで、意見を変えさせるのは簡単ではない。説得を重ねているうちに、つい苛立ちを覚えてしまうことも……。

「説得する」のではなく「やり続けてあきらめてもらう」という矢野の「神回答」は、まさに発想の転換だ。のんもこう感服している。

「こんな言葉は矢野さんからしか聞いたことがない。かっこいいなと思いましたね。余計なことを考えずに、シンプルにやりたいことをやろうと思うようになりました」

 説得せずとも許される範囲で、まずは小さな一歩を踏み出そう。相手の意見を変えることよりも、自分の「やりたい」という気持ちをより高めていこうではないか。

神回答ポイント
偉人のナイチンゲールは、裕福な家に生まれたため、看護師になることを猛反対されたが、病院見学を積み重ねて、両親をまさに「あきらめさせた」。まずは小さな行動から。

◆さまざまな効果を持つ「神回答」を日々に取り入れよう

 この記事では、「視野が広がる神回答」「人間関係を円滑にする神回答」「心が奮い立つ神回答」を一つずつ、ご紹介した。

「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』では、そのほかに「心がスッと楽になる」「相手に寄り添う」「雰囲気を解きほぐす」「切り返しで相手を圧倒する」「相手のイメージを膨らませる」といった効果別に分類して、神回答を収載している。言葉一つで、物事のとらえ方が変わり、人生の風景が変わることがある。本書を活用して、どんな状況も受け入れながら、前向きに生きる術を身につけてもらえればうれしく思う。

*1:「『生きてること』と『最後は死ぬこと』はあまり関係ない【カズレーザーコメント返し】」(ユーチューブチャンネル カズレーザー50点塾、2022年9月10日
*2:「ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマーのスキャンダルに言及『長く話すべきこと』」(倉若太一著、Real Sound、2021年10月12日
*3:「のんさんがどうしても矢野顕子さんに聞いてみたかったこと」(斉藤勝寿著、朝日新聞、2022年10月30日

<文/真山知幸>

【真山知幸】
伝記作家、偉人研究家、名言収集家。1979年兵庫県生まれ。同志社大学卒。業界誌編集長を経て、2020年に独立して執筆業に専念。『偉人名言迷言事典』『逃げまくった文豪たち』『10分で世界が広がる 15人の偉人のおはなし』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など著作多数。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は累計20万部を突破し、ベストセラーとなっている。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などで講師活動も行う。最新刊は『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』。

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