◆恋人を束縛する謎の男

 子供の頃からの“当たり前”や“固定観念”は、無意識のうちに真実を捻じ曲げてしまうこともあるようだ。けれどキッカケさえあれば、西田博光さん(仮名・24歳)の彼女S子さん(20歳)のように真実を知り、対処できることもあるかもしれない。

 西田さんは勤務先の職場で派遣社員として働いていたS子さんと関わることが多く、だんだんと打ち解けていったのだとか。おとなしく、あまり職場の人たちとも打ち解ける様子がないS子さんだったが、西田さんに対しては違っていた。

「職場の人たちは明るく積極的な人が多いのですが、僕はそういうのが苦手なタイプ。人とのコミュニケーションが苦手という部分に親近感を抱いたようです。同じアニメや曲が好きなこともあり、すぐに付き合いはじめました」

 ただ、S子さんのスマホが頻繁に鳴るなど、付き合いはじめてすぐの頃から違和感が。また、そのLINEや電話に異常なぐらい即座に対応するS子さんに対し、違和感は積み重なるばかり。

「S子は最初から、相手は兄だと言っていました。でも最初の頃は、浮気や元カレと切れていないのかと疑ったりしていたのです。けれどある日、僕の部屋に遊びに来ていたS子がうたた寝をしてしまったとき、ふいにスマホを覗いてしまいました」

 そして、その内容に驚愕する。「最近、帰りが遅い」「帰宅が遅れるときは連絡しろ」など、どれもこれもS子さんを縛りつけるような内容。しかも、20歳を過ぎた妹へ宛てたものではなく、S子さんを女性として意識しているような文面だった。

「衝撃を受けているとS子が目を覚ましたので、正直にスマホを見てしまったことを話し、お兄さんのことについて尋ねてみたのです。すると、『頼りがいのある、やさしすぎるぐらいの兄』そして『いつものこと』だと言い、本心からそう思っている様子でした」

◆兄に恋人の存在を打ち明けられない?

 兄からのLINEを見てドン引きしましたが、S子さんが包み隠さず曝け出してくれたことで絆は深まり、その後も交際を継続。兄からの外泊禁止や夜21時までの帰宅も守りながら1年が過ぎた頃、S子さんから相談があった。

「S子は、『ヒロを家族に紹介したい。兄にはどうしてもヒロのことが言い出せず、友達と会ったり遊んだりしていることになっていた。このまま隠し続けるのは嫌なので、きちんと話したい』と言われ、レストランで食事会を開くことになったのです」

 S子さんが、兄や両親に「大切な話がある」とだけ伝えていたため、西田さんが遅れて登場したときには一同が目を丸くして驚いた。とくに兄の驚きはものすごく、グラスを持つ手が震えるなど怒りに満ちていて、食事中は常に西田さんを睨んでくるという始末。

「会話をしていても、常に揚げ足をとろうとしてくるのです。さすがにその食事会では表立っては何も言ってきませんでしたが、連絡先を聞かれました。そしてその日以降、お兄さんから昼夜問わず頻繁に電話がかかってくるようになったのです」

◆調査会社が出した結論は?

 内容は、「S子と別れろ」「お前はS子とは不釣り合い」など、それは1日に複数回にわたった。異常を感じた西田さんは、通話を録音。悩んだ挙句S子さんに聞かせたところ、驚愕して自身の母に相談したいと言いはじめた。

「僕にもついて来てほしいと言うので、いっしょにS子の実家へ。すると、S子とお兄さんは、母は同じだけれど父親が異なる“異父兄弟”で、事情によりA子が2歳のときからいっしょに暮らしはじめたことが発覚しました」

 そして、これまでS子さんに近づこうとしている男性を悪く言い、遠ざけるよう母をそそのかしていたことも発覚する。西田さんのことを「調査会社に依頼して調べてもらったら、とんでもない男だった」などと言い、兄から受け取ったという書類も母が見せてくれたのだ。

「書類に書かれていたことは、すべて事実無根。もしかしたら、お兄さんが捏造したのかもしれません。S子のお母さんも、『もしかしたら…』という違和感はあったようです。真相を確認するため入ったお兄さんの部屋では、S子の写真や下着を大量に発見しました」

 下着は、S子さんが紛失したと探していたもの。さまざまなことが発覚し、西田さんと母は家を出るよう説得し、S子さんも同意した。いまは連絡先も変更し、S子の母から助けも借りながら2人で生活している。もちろん、いまの住まいを兄は知らない。

「真実を知ってからS子は、兄のことを思い返すと気分が悪くなるようなこともあるようです。そして、『あのまま兄の行動に気づかないままだったら、どうなっていたんだろう?気づいてくれて、ありがとう』と、すごく感謝されています」

 S子さんのように、自分の中では“当たり前”や“固定観念”だったことが、実はおかしかったというケースも多々ありそうだ。ただ、真実を捻じ曲げてしまうのも身近な人間なら、そのおかしさに気づいて救うことができるのも近しい人なのかもしれない。

【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Twitter:@natukawanatumi5

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