三菱UFJ信託銀行から子会社の三菱UFJ代行ビジネスに出向していた上司からセクハラを受けたとして、元社員の30代女性が勤務先の代行ビジネス、親会社の信託銀、元上司の男性らを相手取り、計約1000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審が東京高裁で始まった。

1審・東京地裁は、食事に誘うメールを繰り返し送るなどした元上司の行為を人格権侵害と認めて、男性と代行ビジネスに計約220万円の支払いを命じた。

しかし、原告女性は、セクハラを相談した事後の対応を問題視し、1審で認められなかった出向元の信託銀や人事担当者らの責任も改めて問おうとしている。

女性は5月9日、第1回口頭弁論が開かれる前に記者会見して、「MUFGフィナンシャルグループという大組織の中で、弱い立場の女性や新入社員が同じ目にあわないようにしたい」とうったえた。

信託銀と代行ビジネスは、弁護士ドットコムニュースの取材に「被害者の方へ心からお詫び申し上げます」と謝罪のコメントを寄せた。

●「2人で海外旅行に行きたい」「こんな気持ち初めて」最寄り駅で待ち伏せ

女性は2016年4月、三菱UFJ代行ビジネスに入社し、三菱UFJ信託銀行の証券代行業務に従事していた。

当時20代だった2018年1月から7月ころまで、所属部署の直属上司にあたる男性から「2人で海外旅行に行きたい」といったメールを送られたり、しつこく食事に誘われたりするなどして、精神疾患(重度ストレス反応)を発症した。

女性側によると、男性からのメールは十数通で、「こんな気持ちは家内と出会ってから初めて」などとも記載されていた。また、自宅最寄り駅で誕生日プレゼントを渡されることもあったという。

立川労働基準監督署が2019年2月に労災認定しており、報道によって「身体接触のないセクハラで労災認定」と注目された。

女性側によると、被害を相談して、男性の異動を会社側に求めたところ、会社側は女性を異動させようとするなど、適切に対応しなかったという(その後、女性は休職し、2020年11月に退職)。

また、被害を当初相談した人事担当者も信託銀から出向していたことから、女性は2021年4月、セクハラ行為に及んだ男性だけでなく、信託銀、代行ビジネス、人事担当者らを相手取って損害賠償を求める裁判を起こした。

2023年12月25日の1審・東京地裁判決は、拒否する部下の女性にメールを送りつけるなどの行為を「自らの恋愛感情に基づく欲求を一方的に吐露して、女性を困惑させた」として、女性に対する人格権侵害を認めた。

男性の不法行為と代行ビジネスの使用者責任を認定し、両者に計約223万円の支払いを命じている。

一方で、人事担当者らの不法行為や信託銀の使用者責任・安全配慮義務違反は認められず、それを不服として、女性が控訴していた。

●三菱UFJ側「判決を重く受け止め、被害者にお詫び」とコメント

5月9日の記者会見で、女性は「相談後の不適切な対応も問題視して訴訟を起こした」と説明した。

代行ビジネスを退社する前に、信託銀にもハラスメント被害を訴えて助けを求めたというが、適切な対応はなかったと主張している。

三菱UFJ信託銀行と三菱UFJ代行ビジネスは弁護士ドットコムニュースの取材に次のようにコメントした。

子会社従業員と子会社に損害賠償を命じる判決が出されたことを重く受け止め、被害者の方へ心からお詫び申し上げます。今後、再発防止に向け全力で取り組んでまいります」(三菱UFJ信託銀行

「当社従業員の不法行為責任と当社の使用者責任が認められたことを重く受け止め、被害者の方へ心からお詫び申し上げます。今後、再発防止に向け全力で取り組んでまいります」(三菱UFJ代行ビジネス)

「2人で海外いきたい」出向中の上司からセクハラ、元社員の女性が「親会社」の責任も問う訴訟の控訴審はじまる