野望のために卑劣な手段で邪魔者を排除しながら生きる父によって、不幸のどん底に突き落とされた娘の愛と復讐を描く『復讐の渦~因縁の父娘~』。本作は、マクチャンドラマ空前のヒット作『福寿草』の脚本家が手がけた実に8年ぶりの新作ドラマだ。定番要素を盛り込みつつも、普通のマクチャンドラマとは一味違う愛憎復讐劇の見どころを紹介していきたい。

【写真】若手イケメン俳優が泥沼の四角関係に! チン・ジュヒョン×ソ・ハンギョル

■実の娘を陥れる非道な父親への復讐劇

 近年、世界的な話題作が次々生み出されている韓国で、マクチャンドラマは衰えない人気を保っている。主人公が悪人に陥れられ、大事な人や財産を奪われて復讐を果たす、その過程で出生の秘密や記憶喪失、別人への成り済ましといった、現実ではおよそあり得ない、これ以上先がない行き止まり(=マクチャン)の状況が描かれるのがこのジャンルの常道だ。刺激的で荒唐無稽な部分が多く、それが時として批判の対象ともなるが、悪が裁かれる姿を見て溜飲が下がるのは人間の本能と言っていいかもしれない。

 本作も非道な敵役カン・チファンが、ヒロインのユン・ソルによって追いつめられていく様子が大きな見どころとなる。貧しい家の出のチファンは財閥会長の娘チョン・ミガンとの結婚という、人生逆転のチャンスを手にして、自分の子どもを宿した恋人を人に命じて始末させる。序盤のこの所業だけでも十分ひどいのだが、これはほんの一端に過ぎない。死んだと思われていた子どもはチファンの秘書ナ・ジョンイムによって助けられ、イ・ヘインと名付けられて養護施設で成長する。8年後、ミガンと結婚し娘セナを授かったチファンの前にヘインが現れる。

 この段階では当然2人は互いに実の父娘だとは知る由もない。だが、あることから疑念を抱いたチファンは秘密裏にDNA鑑定を行う。子供のすり替えや、血縁のない親子などが描かれることの多いマクチャンドラマではDNA鑑定は“あるある”とも言える要素。この場合、普通は第三者によって鑑定結果がねつ造されたりして、真実がすぐに明かされないケースが多い。実の親子だとなかなかわからないため、互いに傷つけ合い、後々真実が明らかになって後悔するのが定番のパターンで、視聴者はそれを見てやきもきする。ところが、チファンの場合は早々にヘインが実の娘だということを知り、再び娘の殺害を目論む。

■一筋縄ではいかない複雑な人間模様にも注目

 ここで、本作はよくあるマクチャンドラマとはやや違う、ということに気づかされる。もちろん、チファンの魔手から逃れ、ユン・ソルと名を変えて大人になったヘインがその後も何度となく陥れられた末に、真実を知って実父に復讐を誓う、という王道の展開はあるものの、出生の秘密というカードで物語を引っ張ることはしない。チファンの娘セナの本当の父親が、ソルの育ての親となったユン・イチャンだという、もう一つの出生にまつわる秘密も意外にあっさり描かれるのが新鮮だ。ソルを敵視するセナにしても悪女としての役割を担ってはいるが、ただ毒々しい悪女というわけではない。実の父と知らないままイチャンの存在に癒される様子を見ていると、少し気の毒にも思えてしまう。

 セナに一途な想いを抱いて、道を踏み外していく検事ムン・ドヒョンも、ソルの側からすれば敵なのだが、野心と愛情の犠牲者と見ることもできる。ほかにも立場によって悪人にも善人にも思える人物が多数登場。それぞれ事情を抱えた彼らの複雑な人間模様が物語に奥行きを与えた。何があってもソルを信じて愛し抜く、誠実なハ・ジヌの存在も見逃せない。

 そして、極悪人チファンの末路はどうなるのか……。脚本家の前作『鳴かない鳥』では陥れられる側の役を演じたキム・ユソク。この時とは正反対のチファン役で見せた、彼の迫真の演技に最後まで釘付けにさせられる。

 『復讐の渦~因縁の父娘(おやこ)~』は、DVDリリース中。U‐NEXTで独占先行配信中。

(左から)ソル(ヘイン)役のチョン・ヘヨン、セナ役のチョン・ウヨン (c)2023MBC