1987年イギリスで初演され、日本でも再演を繰り返すゴシック・ホラーの傑作『ウーマン・イン・ブラック』。8度目となる今回の上演には、若い俳優役に初参加の向井理が、中年の弁護士キップス役に9年ぶり二度目となる勝村政信がキャスティングされた。舞台共演は初ながら、プライベートでは親交があるという向井と勝村。ふたり芝居という濃密な空間で、どんな新たな恐怖の世界を生み出してくれるのか。稽古初日を控えるふたりに、作品への想いを聞かせてもらった。

このふたりで、このコラボでしか出来ない俳優とキップスを

――脚本を読まれての初見の印象、作品としての魅力を教えてください。

向井 なにか不穏な空気はあるのですが、なかなかそれが見えてこないまま、どんなラストが待っているのかと期待しながら読み進めました。結果すごくゾッとするようなお話で、非常にうまく出来た戯曲だなと。まぁやる側としては大変だと思いますけど(笑)。どれだけあの世界観にお客様を引っ張り込めるか。それ次第で、作品の面白みはだいぶ変わってくるだろうなと感じました。

――その難しさ、面白みを、すでに勝村さんは9年前に体験されたかと思います。

勝村 そうですね。本当によく出来た作品で、基本的な演出はもちろん決まっていますから。お客さんも僕らも、演出家(=ロビンハーフォード)の魔法にすでにかかってしまっているというか、安心して怖がってくださいといった感じです(笑)。

――中年弁護士の身にかつて起きた恐ろしい出来事を、若い俳優が劇中劇のスタイルで演じていく本作。それぞれの役どころについて、現段階ではどのように捉えていますか?

向井 もちろん僕は若き日のキップスを演じてはいますが、俳優というのがパーソナリティとしてあるので、まずはそこから作っていこうと思っています。特に冒頭部分は、俳優である自分が弁護士のキップスに芝居を教える、いわゆる教える側と教わる側というわかりやすい関係性だと思うので。わりと上から目線と言いますか、ちょっと生意気だったり、プライドが高いところがあってもいいんじゃないかなと。実際勝村さん演じるキップスに、ちょっとイラっとするシーンもありますしね。そこから徐々にいろいろなキャラクターが見えてくる人物だと思うので、あまり最初から固めずに進めていきたいと思っています。

勝村 弁護士キップスは過去に本当に恐ろしい思いをして、傷ついて、未だトラウマでうなされている人ですよね。で、それをなんとか払拭しようと自分なりに考え、再び同じ体験をして葬ろうとしている。だから向井くん演じる俳優に、とにかくすがっていて。演じるに当たっては、前回の経験が自分の中に残っているので、それに近いものにはなっていくと思います。ただ向井くんとのコラボによってなにかが生まれたら、それはこのふたりでしか出来ないもの。前回は岡田将生くんと僕でしたが、その時も演出家から言われたんです。「このふたりでやっていただければ、それがキップスと俳優になりますよ」と。確かにその通りだと思いますし、それこそ一緒に舞台をやる楽しみだと思います。

エンターテインメントとしていかに楽しんでもらえるかを追求して

――向井さんが本作に参加されるのは今回が初です。オファーを受ける際に決め手となったことは?

向井 それはやっぱり勝村さんと芝居が出来るっていうのが一番で!(笑)

勝村 (笑)。

向井 ごめんなさい、嘘です。いや嘘じゃないですけど(笑)、これまで映像で一度くらいしか共演したことがなかった勝村さんと、ここ最近立て続けにご一緒することがあって。さらに舞台でふたり芝居なんて、これもなにかの縁だなと。あと僕にとって舞台はやらないといけないもので、中でもこれはかなりハードルの高い作品だと思うんです。初めてのふたり芝居でもありますし。ただやるからにはやはり、挑戦しがいのあるものをやりたいと思うんですよね。

――ちなみに勝村さんと向井さんは、サッカー仲間でもあると伺いました。

勝村 ええ。僕から誘ってはみたものの、向井くんがセンターバックだったってことに驚いて。もっとイケイケの点取り屋だと思っていたので。

向井 いや、全然(笑)。

勝村 昔から僕は、芝居とサッカーってほとんど同じだと思っているんです。で、バックの人ってよく周りが見えているので、芝居もうまい人が多い。まさに向井くんはそういうタイプの役者で、周りが見えているし、NGも出さないんです。

向井 勝村さんこそいつも台詞覚え完璧ですよ。

勝村 それは若いころ、泣きながら覚えたのが染みついているせい(笑)。

向井 (笑)

――ピッチからステージへと舞台を変えたおふたりが、どんなプレイを見せてくれるのか、今から非常に楽しみです。

勝村 向井くんとこんなにちゃんと舞台で共演させていただくのは初めてなので、自分でもどうなるか想像出来ません。ただこのふたりで作り上げる雰囲気みたいなものが自分でも楽しみですし、それをお客様にも楽しんでいただけたらと思います。

向井 勝村さんも僕も、お客様を楽しませたいって気持ちが結構強いタイプだと思うんです。エンターテインメントとしてどう楽しんでもらえるかっていう。稽古場ではそのためのアイデアがどんどん出てくると思うので、その空間に身を委ねてさえもらえれば、今まで見たことのない世界を味わっていただけると思います。

取材・文:野上瑠美子

<公演情報>
パルコ・プロデュース2024『ウーマン・イン・ブラック』

原作:スーザン・ヒル
脚色:スティーブン・マラトレット
翻訳小田島恒志
演出:ロビンハーフォード/アントニー・イーデン

出演:向井理 勝村政信

【東京公演】
2024年6月9日(日)~6月30日(日)
会場:PACRO劇場

【大阪公演】
2024年7月5日(金)~2024年7月8日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール

北九州公演】
2024年7月13日(土)・14日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

【愛知公演】
2024年7月19日(金)~7月21日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/wib2024/

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/wib2024

左から)向井理、勝村政信