■キヨスクで買い物中に瓶で頭を殴られる

4月30日の夜、ノートライン=ヴェストファーレン州のパダボーンのキヨスク買い物をしようとした30歳の男性が、突然、瓶で頭を殴られ、気を失って倒れた。

その上、さらに頭を踏みつけられ、3日後に病院で死亡。防犯カメラに映っていた犯人について数多くの情報が寄せられ、まもなく18歳のチュニジア人と16歳モロッコ人が特定された。5月6日にこの2人は自首。しかし、3人目の仲間については黙秘しているという。なお、被害者の国籍や、加害者と面識があったかどうかについては発表されていない。

5月3日の夜には、やはり同州のジーゲンで、29歳のアフガン人が、27歳の同国人にナイフで刺され瀕死の重傷。実は、その1時間前に両者の間で諍(いさか)いがあり、やられた男が仲間と共に戻ってきて復讐したとみられる。

ドイツでは、暴力犯罪の容疑者が外国人であるケースが増加している。すでに数年も前から難民による婦女暴行が増え、それどころか通学途中の小学生の女の子がナイフで殺害されるなどという事件も起こっていた。

■移民が増加するにつれ、犯罪件数も増えている

アラブや旧ユーゴスラビアでは、自衛の感情が発達しているのか、日本人がハンカチを持っているように、ナイフを携行している男性が多い。それもあり、ドイツでは22年、ナイフを使った犯罪が約2万件。あまりに多いので、子供が殺されたりすれば別だが、傷害ぐらいではニュースにさえならない。

一昨年と昨年の夏には、ベルリンの公共プールでも何度も暴力沙汰があり、今年は警備の強化が発表されたばかりだ。今ではドイツの首都のプールには、身分証明書がなくては入れないらしい。

早くからこの状況を警告していた唯一の党がAfD(ドイツのための選択肢)だったが、彼らは外国人敵視、あるいは外国人排斥主義などと叩かれるのが常だった。一方、政府や野党は、あたかも外国人犯罪などないかのように振る舞ってきた。

ところが、23年11月に連邦検察庁が発表した統計によれば、殺人も含む暴力的犯罪の摘発の数が前年に比べて17%も増加。しかも、容疑者が外国人であるケースが23%増と高い割合を占めていた(ドイツ人の犯行は8%増)。この増加率は外国人の増加率にほぼ比例しているという。また、公共の場での犯罪が14%増。つまり、公共の治安が急激に悪化している。

■帰化にかかる年数を8年→5年に短縮

ノートライン=ヴェストファーレンは、ベルリンと並んで外国人の割合が多い。しかも、マフィアのように血縁で結ばれた組織的犯罪グループが多数存在し、同州で23年に摘発された容疑者は34.9%が外国人だった。2022年、同州の全人口に占める外国人の割合は15.6%だったから、外国人犯罪のパーセンテージの異常な高さがわかる(23年分の外国人数はまだ発表されていない)。

しかも、実際の外国人の犯罪率はさらに高いと思われる。というのも、ドイツでは容疑者が二重国籍を持つ場合、ドイツ人としてカウントされるからだ。

現在、ドイツの外国人は約1200万人だが、社民党政権は、できるだけ多くの外国人にドイツ国籍を配ることを旨としており、最近、市民権法を改正し、これまでは、帰化には8年間、法を犯さず、経済的に自立して暮らした実績が必要だったのを、5年に短縮した。それどころか模範的な外国人は、3年でドイツ国籍が得られる。

この新しい市民権法は今年の6月26日から効力を持つので、近い将来、数百万人が新たにドイツ国籍を取得するとみられている。

■国民の不安に反し、移民をどんどん受け入れる政府

なお、新しい法律では、全員、元の国籍を所持したままでよいし、二重国籍どころか、何重国籍でも認められる。また、ドイツで生まれれば、親が外国人でも自動的にドイツ国籍を得られるので、その場合も辞退しない限り二重国籍となる。ドイツには、あまりドイツ人らしくない風貌の、ドイツ語が得意でないドイツ人が結構いるが、今後はそれがさらに増えるだろう。

一方、国民は当然、ドイツの治安が悪くなっていることに不安を感じており、さすがの政府も、外国人犯罪の実態を隠すことはできなくなった。そこで、この不都合な事実をどのようにやんわりと国民に知らせたものかと考えあぐねた結果、最近になって突然、手のひらを返したように決然と、「違法行為は許せない!」と言いだした。

しかし、問題は、政府与党である社民党も緑の党も、不法滞在者や暴力に手を染める外国人と、そうでない外国人を区別しようとしないことだ。しかも、口では「国境検査の厳格化」とか、「不法滞在者の強制送還」などと言いつつ、いっこうに実行に移す気配はない。それどころか、難民はいまだにほぼ無制限に受け入れており、入国後は他のEU国に比べると破格の好待遇だ。

実際に難民を引き受けている州や自治体はとっくの昔に悲鳴をあげているが、政府は「人手不足のおり、われわれは技術者や熟練労働者が必要だ」として、寛大な受け入れを正当化している。

■まじめに暮らしている外国人はいたたまれない

ただ、現在、技術者や熟練労働者として働いている外国人は、留学生と同じく、ドイツの国境を越える前に滞在許可を取得しており、不法入国をする必要などない。言い換えれば、不法入国者が技術者や熟練労働者となる確率はかなり低いはずだ。なお、当然のことながら、不法滞在者が増えれば増えるほど、本当に庇護を必要としている難民の受け入れが妨げられる。

そもそも、現在、ドイツにいる1200万の外国人のうち、犯罪者は61万2000人(22年)だから、1140万人近い外国人は真面目に暮らしているわけだ。例えば、トルコ人は移民の歴史も長く、すでにドイツ国籍を取っているトルコ系移民も含めれば、その数は300万人近い。しかし犯罪率は、シリアアフガニスタン、北アフリカの人たちと比べると圧倒的に少ない。つまり、一緒くたにされて迷惑しているのは彼らだ。

なお、私もドイツでは外国人の一員だが、もし、同じアジア人の顔をした犯罪者が増え、ドイツ人がアジア人全般を排斥するようになれば、おそらく居た堪れなくなるだろうから、“その他の外国人”の気持ちはよくわかる。

■外国人には強く出られないドイツの苦い記憶

さて、治安回復のために、現在の社民党政府がどんな解決策を挙げているかというと、なぜか移民の統合政策の改善の話ばかりだ。ただ、統合は口で言うほど容易ではない。特に宗教が絡むと難しい。

外国人の中にはドイツに対して悪意を抱く人も多く、特にイスラム教徒は、悪気はないのかもしれないが、ドイツの法律よりもイスラムの聖典を重視しているケースが少なくない。本来なら、ドイツの法に従う気のない人たちには滞在許可を出してはいけない。

また、罪を犯した者には、即刻、出ていってもらうことが筋だ。ちなみに、強制送還実施のためには、二重国籍はかえって都合が良い。ドイツ国籍だけを持つドイツ人を追放することは不可能だが、多重国籍者からはドイツ国籍の剥奪が可能だ。

ドイツ人には今なおホロコーストトラウマがあり、政治家も、外国人に対して何か要求すると厄災が降ってくるかもしれないと考えるのか、「触らぬ神に祟りなし」で、何十年もの間、外国人にはしたい放題をさせてきた。そのせいか、今ではドイツ全土に2800の回教徒の祈祷のための集会所があり、その中の約300は尖塔を備えた立派な回教寺院で、そこで、アラブの国から派遣されてきたイマームが熱い説教をしている(Statistaによる調査)。

■ドイツで「イスラム帝国樹立」が叫ばれる異様さ

特に現在、彼らは、ドイツイスラエル無条件で支援していることに大きな不満を持っており、パレスチナ支援活動が激化している。5月3日、ガザ攻撃停止を求めて行われたはずのハンブルクのデモでは、そのタガが外れ、数千人がドイツにおけるイスラム帝国樹立を熱狂的に叫び始めたため、ドイツ人は驚愕した。

これは、ドイツの国体の崩壊を目指す主張だ。当然、なぜ、このようなデモを認めたのかと、政府に対する批判の声が高くなった。

ただ、禁止したらしたで、彼らの怒りはさらにエスカレートし、イスラムテロなどにつながりかねず、政府も無闇に手をつけられない。こんなことになったのも、ドイツが50年もかかって、膨大な数のイスラム教徒を入れてきた結果だ。今やドイツユダヤ人にとっても危険な国になってしまった。

それどころか、今後、事態が緊迫し、究極の選択を迫られれば、これまで平和に暮らしてきたアラブ人トルコ人、そしてその3世や4世も、心がイスラムに傾いていくかもしれない。帰属意識というものは、それほど簡単に変わるものではないからだ。そうなると、ドイツ人のジレンマはますます大きくなるだろう。

■電車や郵便がきっちり動くドイツの秩序はもうない

ドイツでは、今や国民の間にさまざまな分断が存在している。外国人とドイツ人の間に流れる不協和音もそうだし、アラブ人ユダヤ人の間の緊張もあれば、国民の貧富の格差も広がっている。また、社民党・緑の党といったグローバリズムを目指す党と、AfDなどドイツの伝統や文化を守ろうとする党の支持者の対立も、不穏なレベルに達している。

私がドイツに渡ったのは40年以上前だが、当時、治安は極めて良く、危ないのは大都会の中央駅の周辺など限られた場所だけだった。当時、私はシュトゥットガルトに住んでいたが、どこで麻薬が取引され、どこに娼婦が立つかなどということは皆が知っていて、近づかなかった。

ついでに言えば、40年前、電車は時刻通り走り、郵便はドイツ国内なら必ず翌日に着いた。しかし今日、麻薬の取引と売春は拡大したが、電車と郵便は、どちらももう、昔のようには機能していない。

音楽会の後、人通りのない暗い道を一人で歩くのが怖い。長い人生、そんな気持ちを持ったことがあまりなかったので、自分でも戸惑う。しかし、変わったのは私ではなく、ドイツだ。もう、元には戻らないのかと思うと、少し悲しい。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年ドイツシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。

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ドイツ・ベルリンで行われた親パレスチナデモ=2023年11月4日 - 写真=時事通信フォト