さて、電王戦もいよいよファイナルである。どうやら今の形の団体戦形式でやるのは最後ということらしい。都合三期にわたったわけだが、棋士側の感覚は期ごとにかなり違ったように思う。

一期の時は、かは負けるんだろうが、自分がババを引くのだけは嫌だ、という感じであった。二期は、皆はじまる前から暗かった。一局菅井敗して暗さに拍がかかった。あの対局の二日後に及川君と上田さんの結婚式があったのだが、わんさか集った棋士は皆ひそひそではなした。「駄だこりゃ」

そして三期である。もう駄かと若手にくと、今期はかなりやれるんじゃという。メンバーもさることながら、棋士コンピュータの対策に長けてきたのではないかというのだ。

たしかにこれまでは、対策といっても何をどうしていいのかがつかみにくかった。やっと、そのあたりの微妙な感覚が分かってきたのではないだろうかというのである。もうひとつ良いのは、もう負けて当然という空気があることである。そりゃやるからには全を尽くす。でも負けても棋士仲間からの評価が下がることも後ろをさされることもない。つまりはプレッシャーがないわけで、勝負にとってこれは大きなアドバンテージである。

ここ三年とそれにしても盛り上がったものだ。それも雰囲気がよく盛り上がった。これは、ひとえにドワンゴさんの演出の上手さによるところがおおきいが、棋士コンピュータ及び開発者に対して敵愾心を持たなかったことが良かった。もうひとつ、開発者の人に棋士及び将棋界にリスペクトを頂いたのがおおきかった。なにより、大企業が予算をたくさん使って、というのではなく、個人でコツコツと開発したいうのが素敵ではないか。この場を持って皆様に、めて敬意を表したいと思う。

私は三日前に大阪で対局があったので、そのまま京都に入った。前日は棋士一同でささやかな食事会をしたのだが、斎藤君はかなりリラックスした感じであった。隣に抱絶倒トークの福崎さんがいたのが良かったかな。当日の表情は勝つ棋士の顔だった。私はいけると思い、心の底から援を送ったのだった。

序盤、Aperyは一手一手慎重に考える。どうもそういうスペックになっているらしい。ゆったりとした進行なので、私は片上大輔君と豆腐料理のうまい店に食を食べに行った。絶品の豆乳を食べてのんびり帰ると1図Apery6五と出たところだった。

私は、そんなな、と叫んだ。一でこれは先手がやれると分るのだ。斎藤君はここまであまり時間を使っていない。はっきりと、研究の跡が覗える。このあたりが、対策のコツを棋士側がつかんだ成果なのである。

この手では、7七2二飛とするくらいのものだろう。しかし、それでは後手が不満である。だからその前の4五歩がまずく、6六に出たをさっと引いたのがうまかったのだ。

棋士が集まり検討が進む。皆、2一飛成には7二とする。が勝手に動く。しかしどうもよくならない。ところが、そのうちにかが「取らせて7二と打ったら」と言い出した。人間同士の将棋ならば、私はアホかと言ったろう。プロは本的にを取られるのを嫌がる。ざっくりいえばを取られる倍くらい嫌がる。まして美濃囲いの6一のである。

ところがこれよりないのであった。さすがコンピュータと言いたいところだが、その前に4四5五同歩の4手は入れない方が良かったように思う。

なぜならば、本譜のように進んで2図になった時に、5四と出る手があるからである。ここのところはとしか言いようがない。2図5七とではつらく、先手大優勢である。

ところが斎藤5七とに大長考をする。当然である6五を取る手をなかなかさない。私はイヤな予感を覚えた。

斎藤4四歩と打って一気に寄せに行く手を考えているのである。将棋は優勢になるとく勝ちたい。相手が長期戦に強いコンピュータならばなおさらである。しかし、それには当然ながらリスクをともなう。実際、4四歩以下は危ないと棋士達の検討では意見が一致した。

イヤな予感というのには意味がある。6五ノータイムで取れるところで4四歩以下の手を読むと、読めば読むほどそうしたくなってしまうのである。なぜならば、考えた末に6五では、4四歩を読んだ膨大な時間が駄になってしまうから。ここに人間の心理のアヤがある。だから、ベテラン棋士ならば、歩では危いと感じたらさっとを取る。そして相手の次の手を見るのである。勝負に勝つコツがここにはあって、プロ将棋はそういったところものうちなのである。

そのまま夕食休憩に入った。そして再開後、斎藤はすぐにを取った。控室の棋士一同に安堵のが上がった。

5六と打ち、6四6六歩6五歩は手筋。これしかない。先手も7七の一手である。この7七の形がプロ的に違和感があるので斎藤は長考したのだ。しかし、私はいった。7七のはたしかに嫌な配置だ。だがこの駒がなら好形ではないか。も同じようなものである。

この発想はコロンブスの卵のようなもので、気がつけば「なあんだ」だが、気がつくのが難しいのである。ここにはたしかに人間の弱さがある。

この後のAperyの手順にはりがなかった。3図2二飛には2三歩同飛3九ドンピシャリである。2二飛ではまだしも2七成としそうなものである。もう一手、を4五に引かれると先手も嫌なことになる。ここの手順をコンピュータ将棋に詳しいある若手はいった。「終盤は最強ですけど、その手前がりを欠くところがありますからね」これは高度に感覚的な言葉で、その感覚的なことをつかんだのがプロ棋士の対コンピュータ戦における強みなのである。

4図4五4六歩が決め手。以下は大差になるばかりである。

5図8九7九玉とした局面、ここで人間ならば投了。奇麗な投了図である。ここからのAperyし手には様々な意見を持たれる方もいるだろう。たしかにをそぐという一面はある。古くからの将棋ファンとっては特にそうした思いがあるはずである。しかし、私はこれはこれでコンピュータ対人間という香りがして、非常に楽しめた。精密機械が壊れるのを見るのも楽しいではないか(壊れたわけではないのだが)。もちろん嫌だ、という方を否定するつもりもない。将棋には様々な楽しみ方があっていい。いや、様々な楽しみ方をしてくださるからこそ、プロ棋士が食べていけるのである。

Aperyは本局では自分から転んだ形で、開発者の平岡さんにとっては念だったろう。ともあれ昨年の逆、プロスタートである。さあここからだ。優秀な、そしてコツをつかんだ後輩諸君!来年もこの形式でやろうじゃないか。コンピュータリベンジを挑ませようではないか。棋士の強さを見せてやってくれ!

関連サイト
・◎ 1図=286五
http://p.news.nimg.jp/photo/701/1322701l.jpg
・◎ 2図=456四
http://p.news.nimg.jp/photo/702/1322702l.jpg
・◎ 3図=542二飛
http://p.news.nimg.jp/photo/703/1322703l.jpg
・◎ 4図=594六歩
http://p.news.nimg.jp/photo/704/1322704l.jpg
・◎ 5図=81手7九玉
http://p.news.nimg.jp/photo/705/1322705l.jpg
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