アダルトビデオ男優は影の仕事だ。青少年時代、「AV男優になりたい」などと軽はずみに口にする者は数多いれど、大多数は職業の深層を知ることもせず通り過ぎ、“一般社会”へ埋入していく。

 上條のりよし氏は、フリーランスAV男優としてこの業界で20年以上前線に居続けるベテラン。軽やかな笑顔が印象に残る男性だ。上條氏へのインタビューを通して見えてきた、アダルトビデオ男優としての仕事の真髄とは――。

◆過労での入院を経て、男優への転身を決意

――アダルトビデオ男優になるまでの経緯を教えてください。

上條のりよし(以下、上條):最初は、有名になりたかったんですよね。高校を卒業して、地元を出て、大阪で暮らしていました。地元にいたころはバンドを組んで歌っていました。バンドももちろん楽しかったし、仕事も好きでした。スーツ着て仕事をするのに憧れてたのに、配属がそうじゃなくて半年で辞めちゃったこともありましたけど、総じて楽しかったですね(笑)。

 もともと仲良くさせてもらっていた平本一穂さんの導きで、27歳のときにこの業界に入りました。平本さんは現在、AVメーカー「トップランナー」社長をしている人です。この業界に入ったのを機に、大阪を離れ、上京しました。

 もともとそれまで過労で2回ほど入院していたんです。2度目に入院したときは意識が遠のいて病院で倒れてしまったんですよ。あとから医師に「上の血圧(収縮期血圧)が40mmHgで、危ない状態だったよ」と言われました。そうした経緯もあり、AV男優に転身することを決めました。

――「有名になりたい」理由は、何かあったのでしょうか。

上條:はっきりとは分からないんですが、昔から目立ちたがり屋でしたね。育った家が結構厳しくて、父から鉄拳制裁みたいなのがよくあった印象です。だから保育園のときはお友だちの家に泊まったりとかして、逃げてました(笑)。ひとりで居たくないという思いが強くて、寂しがり屋なのかもしれません。

◆過酷ではあるが、「人に恵まれていた」

――AV男優の仕事は過酷ではないですか。

上條:何を過酷と捉えるかにもよりますが、辛いことや厳しいことも多いです。反面、非常に居心地の良い現場も多く、人に恵まれているなと思うこともありますよ。

 具体的な現場で心に残っているのは、15年以上前の話ですが、ビルの屋上での撮影ですね。コンクリートの上で裸になってプレイするわけですから、冷えるんです。想像よりかなり冷たく、きつい仕事でした。同じような時期に撮影したものとして、変わり種なのは、伐採した何本もの竹の上でプレイする作品がありました(笑)。女優さんも辛かったと思いますが、男優は膝立ちになるので、刺さるんですよね。痛かったです。

 基本的にAV男優の仕事は楽しく、多いときは月に25本くらい撮影をしていたので、よほど過酷な現場ではないかぎり忘れてしまうのですが。

◆男優が一番下の“女尊男卑”業界

――仕事をやっていて「良かった」と思えるときはどんなときですか?

上條:人の優しさに触れたときですね。アダルトビデオ業界は“女尊男卑”で有名な業界です(笑)。女優さんの意向は絶対で、偉い順に「女優さん>監督さん>技術さん>男優」となっています。

 AV男優は“勃ち待ち”と言って勃起をするまでに時間がかかったりすると撮影に影響があるので、なるべくそういうことのないように気をつけるのですが、体調や精神状態によっては必ずしもうまくいきません。私が絡んだある女優さんは、そんな様子を気遣って、「撮影のときにクルーが多いと私がいい演技ができないので、必要最小限の人数で撮影してください」と言ってくれました。気遣いのある女優さんとのお仕事はいつもに増してやりがいを感じますよね。

 他にも、チャーミングな女優さんがいて、「セリフの掛け合いがわからないんです」と言うんです。だからプレイ中に私が耳元で次のセリフを言ったりして(笑)。そういう小さな助け合いも面白いですね。

◆付き合った女性が放ったキツい一言

――プライベートで一般の女性と交際することもあると思いますが、職業が原因で諍いが起きたりはしませんか。

上條:あります。私はあとから揉めるのが嫌なので、必ず交際前に自分の仕事を明かすようにしていますが、一度は了承してもらっても、残念ながら途中から揉める経験はしましたね。

 具体的には「やっぱりAV男優を辞めて掛け持ちでアルバイトしたらいいじゃないか」と迫ってきたり、どこからか私の出演作品を視聴して「楽しそうにプレイしてましたね」と当てつけのように言われたり……なかなか仕事であることを根本から尊重してくれる女性は少ないかもしれません。もちろん、心情的には理解できますが。

 こちらも悪いことをしているわけじゃないのに、言い訳を考えてしまうんですよね。「後輩の男優さんが急遽来られなくなってさぁ」とか「引きの絵のときは俺だけど、カメラが寄ったときは他の男優さんがプレイしているんだ」とか(笑)。

 一番焦ったのは、プライベートでラブホテルに行った際、自分の出演作品が流れたことですね。瞬時にコンセントから引き抜きました(笑)。

◆長くやり続けるために必要なのは…

――長くこの仕事を続けていくコツや大切にしている矜持があれば教えてください。

上條:いわゆるピンク業界なので、意外に思われるかもしれませんが、誠実な態度で臨むことじゃないでしょうか。この仕事は性行為におけるどんな技術があっても、現場に呼ばれなくなったらAV男優ではいられなくなるシビアな側面があります。

 しかも、業界がとても狭い。どのくらい狭いかと言うと、撮影現場に向かう車の待ち合わせ場所がほとんど似た場所なほどです(笑)。私も別の車に乗りそうになったり、隣の現場に紛れそうになったりしたことがあります。当然、噂も広がりやすいですよね。

 私が駆け出しのころは熱いAV監督がたくさんいて、怒られながらも技術指導などをしていただきました。私はそれをずっと台本の裏側にメモして、何度も復唱して自分の演技に役立ててきました。年月が経過して、ある監督からオファーがあったとき、「上條さんがすごく真剣にメモしていたのを、ADだった当時見ていたんです」といわれ、「見てくれている人はいるんだな」と感じました。

 私の周囲のAV男優のなかには、職業がバレたことで昔の友人から遠ざけられて同窓会に行けない人もいるようです。幸い、私はもともと好奇心旺盛な友人が多いからか、そういうことはありません。ただ個人的には、たとえどんな職業であっても、それを長くやり続けるためには他者からの信頼を勝ち取る必要があって、それは意外と難しいことなんじゃないかと思います。

 矜持と呼べる大仰なものは持ち合わせていないけれど、現場で私が必要としてもらえているとすれば、それは気持ちよく仕事をすること、居合わせたみんなが愉しめる方法を模索しているからなのかもしれません。ここまで続けてこられた日々に感謝しています。

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 取材の最後、上條氏は「常に関わった人には楽しんでもらいたいんです」と語った。アダルトビデオ業界への認知度が以前より高まったとはいえ、偏見はなお根強い。またそこで働く者の背景にさまざまな事情があることも否定できない。だがそうした差異を超えて、共有した時間を彩ること。上條氏の屈託ない笑顔にはそれを実現する不思議な力が宿っている。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

上條のりよし氏