「笑えよ、ベジータ」と言われて、とっさに作ったその笑顔。

何となく表情がこわばっていて、ぎこちない。

笑顔を無理に作ろうとした場合、ベジータに限らず、誰もがあまり上手く行きません。

しかしどうして意識的に作った笑顔は、心の底から溢れ出た笑顔のように自然な表情にならないのでしょうか?

今回はその脳科学的な原因について、笑顔を作り出すときの神経回路の違いから見ていきます。

目次

  • 「本物の笑顔」と「作った笑顔」は何が違うのか?
  • 笑顔にはどんな神経回路が使われているのか?

「本物の笑顔」と「作った笑顔」は何が違うのか?

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Credit: canva

笑顔は他者との円滑なコミュニケーションを進める上で、最も重要な表情の一つです。

私たちは心の底から喜びを感じているときに笑顔になりますが、それと同時に、社交辞令で作り笑いを用いることも多々あります。

両者の笑顔はまずもって「感情面」に根本的な違いがあります。

本物の笑顔は喜びや楽しみの感情から自然と湧き出るものですが、作り笑いはとりあえず表情だけを取りつくろったものです。

こうした違いに着目し真の笑顔が何であるかを科学的に特定したのが19世紀フランスの解剖学者B.デュシェンヌです。この功績から喜びから生じた本物の笑顔は彼の名にちなみ「デュシェンヌ・スマイル」と呼ばれたりします。

デュシュンヌは顔の2つの筋肉の動きに注目し、これが同時に動く笑顔こそ、喜びや幸福の感情を自然に表す真の笑顔だと述べました。

その筋肉の1つが口の両端から頬を走る「大頬骨筋(だいきょうこつきん)」です。

大頬骨筋は顔の表層にある筋肉の一つで、口角を引き上げる働きをしています。

大頬骨筋の位置(赤色)
大頬骨筋の位置(赤色) / Credit: ja.wikipedia

2つ目が目の周りをぐるりと囲む「眼輪筋(がんりんきん) 」です。

こちらも顔の表層を構成する筋肉の一つで、笑ったときの目の小じわを形作る働きをしています。

そして、眼輪筋の内側の繊維が自然な喜びの感情から生じた笑顔でのみ活性化することを発見したのです。

対して感情のこもっていない作り笑いの場合、眼輪筋の繊維が活性化することがありませんでした。

ただ、さすが19世紀の解剖学者と言うべきか、デュシェンヌはこの事実を証明するために、実際に電気刺激でターゲットの筋肉を動かし、その様子を写真に記録する実験を行いました。

デュシェンヌの行った電気刺激で無理やり真の笑顔を作る実験。真の笑顔とは…
デュシェンヌの行った電気刺激で無理やり真の笑顔を作る実験。真の笑顔とは… / Credit:commons.wikimedia

こうして真の笑顔(デュシェンヌスマイル)とは、口角を上げる筋肉(大頬骨筋)と目の周りの筋肉(眼輪筋)が同時に動く笑顔であり、口角だけが上がる偽の笑顔(非デュシェンヌスマイル)は、必ずしも本当の喜びを示していないことが示されたのです。

ちょっとマッドサイエンティストなイメージもあるデュシェンヌですが、彼の研究は、顔の表情と感情の関係を科学的に解明するための基礎を築いたと言えます。

なので本物の笑顔と作り笑顔は、目の周りに笑い小じわがたくさん出来ているかどうかで見分けられるといいます。よく嘘の笑顔について「目が笑っていない」という表現を聞きますが、それも真の笑顔についてこうした背景があるためでしょう。

では、訓練した役者ならともかく、一般の人が意識的に笑顔を作ろうとしても、口角が上がるだけで眼輪筋が活性化しないのはなぜなのでしょうか?

その原因は脳が笑顔を作るために使う”神経回路の違い”にあることがわかっています。

笑顔にはどんな神経回路が使われているのか?

私たちの脳はさまざまな表情を作り出す上で、異なる神経回路を使っています。

例えば、感情から発した本物の笑顔は「扁桃体(へんとうたい)」「視床下部(ししょうかぶ)」を含む大脳辺縁系にルーツがあります。

扁桃体は感情反応の処理において主要な役割を果たし、視床下部も情動に関連する行動を調節する働きをします。

つまり、喜びや楽しみのポジティブ感情の発生が最初に扁桃体や視床下部を活性化させるのです。

そうした感情反応は次いで「錐体外路(すいたいがいろ)」で処理されます。

この脳領域は、私たちの意思とは無関係に発生する不随意運動を調節して、表情に変換する場所です。

要するに、最初に発生したポジティブ感情が無意識的で自然な笑顔を作り出すのです。

これが本物の笑顔が生じる脳の神経回路のルートとなります。

作り笑顔に使われる神経回路は?
作り笑顔に使われる神経回路は? / Credit: canva

その一方で、意識的な作り笑いはポジティブ感情に端を発するものではないので、このような大脳辺縁系や錐体外路は使われません。

その代わりに、大脳皮質の一部で、体の筋肉収縮を制御する「運動皮質」から始まり、先とは真逆の、意識的な身体運動(=随意運動)をつかさどる「錐体路」を活性化させます。

こうした神経回路を通ることで表面的な表情を作ることはできますが、そこで作り出された笑顔に真の感情反応がこもることはありません。

作り笑顔は単なる自発的な運動でしかなく、脳の感情中枢が関わることはないのです。

このような神経回路の違いが、先に見た「本物の笑顔」と「作り笑顔」に使用される筋肉の違いへとつながることになります。

以上のプロセスが、カメラの前で笑顔がぎこちなくなってしまう脳科学的なメカニズムです。

また研究者らはもう一つ、作り笑顔がぎこちなくなってしまう別の要因として「自意識の高まり」も挙げています。

これは例えば、「髪型が変になっていないか」「メイクが崩れてないか」「写りが良くなる角度になっているか」などと、自分の外見を過度に意識してしまうことです。

これにより不安やストレスが高まってしまい、それが表情のこわばりや笑顔のぎこちなさにつながってしまうのです。

このように様々な要因が重なることで、カメラに自然な笑顔を向けることが難しくなるのでしょう。

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参考文献

Why Is It Hard To Smile Naturally In Photographs?
https://www.scienceabc.com/humans/why-is-it-so-hard-to-smile-naturally-in-photographs.html

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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