「どうせムリ」「私にはできない」……。ついついネガティブワードが口をついてしまう、そんな劣等感に悩む人に知ってほしいのが、心理学三大巨頭の一人・アドラーの言葉だ。劣等感は「悪」なのか。「劣等コンプレックス」とは何が違うのか。長年、アドラー心理学を研究・普及してきた岩井俊憲氏が、アドラーの言葉をわかりやすく「超訳」してお伝えする。

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(*)本稿は『超訳 アドラーの言葉』(アルフレッド・アドラー著、岩井俊憲編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・再編集したものです。

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人間は劣等だからこそ発達した

 自然界にあまたいる生物のなかで、人間は「劣等」な生き物だ。体も大きくなければ、強い角も牙もない。圧倒的に速く走れるわけでもない。そして「劣等」であるがゆえに、「不足している」「安全ではない」という意識を人間は常にもっている。

 その意識が常にあるからこそ、環境に適応し、安全に生きる状況を作り出すために、外敵に備えておくことや対策をしておく方法などを考えだしたのだ。

 この人間を環境に適応させ、安全な場所をつくる能力をもちえたのは、人間の「精神」という器官が発達したからである。

『人間知の心理学

人間の社会文化のすべては劣等感から生まれた

「劣等感」は、異常ではない。むしろ、人間が進化していくにあたって、重要な要素だ。

 例えば、科学の進歩は人間が「未知のことを知りたい」「将来が不安だから備えておきたい」という願望があるからこそ成り立つ。

 この欲望があり、科学の進歩があるからこそ、種としての人間の運命を改善してきているのだ。だから、人間の社会、文化のすべては、劣等感から生まれるともいえる。

『人生の意味の心理学 上』

劣等感があるから向上心をもつ

 劣等感を抱き、「不完全である」「弱い」「安全ではない」からこそ、人は目標を設定するものだ。

 生まれてすぐの頃であっても、主張し、親の注目を自分に向けようとし、親からのケアを強いる傾向がある。赤ん坊のこの行為は、人の「認められようと努力する」という行為の最初の兆候ともいえる。

 人は、劣等感に刺激されて向上心をもつ。成長したいと願い、そしてそのために努力しようとする。

『人間知の心理学

劣等感は健康の証

 劣等感があることは、病気ではない。あなたが今日あるのは、劣等感のおかげだといってもいい。

 むしろ劣等感をもつのは健康で健全であることの証でもある。あなたが努力を重ねて今日まで成長できた刺激になっていたことに気づいてほしい。

『生きるために大切なこと』

劣等感が問題になるとき

 誰もが劣等感をもっている。だから劣等感自体には問題はない。むしろ健全で建設的な向上心につながるきっかけになるものだ。

 劣等感が問題とされるのは、劣等感から生まれた無力感があまりに大きすぎる場合だ。大きすぎて向上心まで殺してしまうと病的なものになる。

『生きるために大切なこと』

理想に向かって向上する

「理想の状態になりたい」「向上したい」と願うこと。これこそが、人間の行動のすべての動機づけの源になっている。

 この願いが、人間が生きるうえでの一本の太い線になっていて、下から上へ、マイナスからプラスへ、敗北から勝利へと導かれるように行動することになる。

 そして、「理想の状態になりたい」「向上したい」という願いを、「他の人も幸せにする」「他の人も豊かにする」という方法で行動する人こそが、最も人生の課題を真の意味で克服できるといえる。

『人生の意味の心理学 上』

劣等感が強すぎると劣等コンプレックスになる

 劣等コンプレックスや優越コンプレックスについている「コンプレックス」という言葉は、「極端に強い」という意味にすぎない。

 劣等感が強すぎるときに「劣等コンプレックス」になり、「もっと向上したい」「人より優れた状態にいたい」という気持ちがあまりに強いときに「優越コンプレックス」になる。

 そうとらえると、「劣等コンプレックス」と「優越コンプレックス」という相反するかのような二つの感覚が、一人の人間の中に存在するのも理解できるだろう。

『生きるために大切なこと』

劣等コンプレックスの定義とは

 劣等コンプレックスには、はっきりとした定義がある。

 劣等コンプレックスとは、その人がいまいる環境にうまく適応できていないとき、あるいは、解決する準備のできていない問題がふりかかってきたときに表れるものだ。

 そして、「私には解決できない」という確信を強調するものだ。

『人生の意味の心理学 上』

人生における非建設的な感情

 劣等コンプレックスと優越コンプレックスには、共通点がある。

 どちらも、人生において非建設的な感情なのだ。

『生きるために大切なこと』

見栄や自惚れの正体

 優越コンプレックスとは、ただの見栄や自惚れ、思い上がりだ。人生において非建設的な方向に向かわせる原因となる。

 優越コンプレックスで得られるのは、偽物の満足感であり、偽物の成功だ。

『生きるために大切なこと』

劣等感を克服するには

 劣等感は、社会で生きるための教育やトレーニングを受けてこなかったことと強い関連がある。社会に適応できないことから劣等感は生まれる。

 だから劣等感を克服するには、社会で生きる教育やトレーニングを受ける必要があるのだ。

『生きるために大切なこと』 

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