みなさんはプロ野球をどういった視点で観戦しているだろう。ただなんとなく観ているという人も多いに違いない。しかし、当たり前のことではあるが、プロ野球選手ともなると我々には気づかないような視点から野球を観ている。そこで、そのプロ野球の中でも屈指の理論派と知られた古田敦也が書いた「古田式・ワンランク上のプロ野球観戦術」(著:古田敦也/朝日新書)から野球の見方を紹介していこう。

【良い投手の条件】


「良い投手とは」と聞かれると、球が速い、コントロールがいいという技術的なことだったり、最多勝を獲得したなどという成績のことだったりを言いがちだ。
だが、古田は良い投手の条件を「プロ野球の世界においては、先発ローテーションを1シーズン通してきっちり守れる選手」であると考える。確かにプロ野球の中でも良い投球をしていても、シーズン中に何度か離脱する投手は多い。しかし、そのような選手では、チームとして1年間を考える上で計算が立たないため、安定して1年間を投げきれる投手が良いと考えるのだ。
また、古田は、その次に評価する投手として、一般的にはそこまで評価されない印象の中継ぎ投手を挙げ、その理由をいつ出番があるか分からない中でしっかり準備をするという献身的な部分と語る。実は中継ぎ投手はチームに多大な貢献をしているのだと語れたらワンランク上の見方をしていると思われるだろう。

【球速が遅くても打ち取れる理由】


140キロほどの球しか投げないのになかなか打たれないという投手がいる。そのいくつかの理由を古田が本書内で明らかにしている。
まず一つ目は「タイミング」。普通の投手とは投げるタイミングが違う投手だ。例えば、一般の投手は足を地面に踏み込んだと同時にその動きを利用して腕を振るが、元横浜ベイスターズ川村丈夫は足が地面についてから明らかにもう1テンポあったらしい。そのため、打者はタイミングが取れずに打ちにくいというものだ。
次に「腕の振り」。これは腕の振りのわりに球が速いという投手だ。特に現役だと巨人の杉内俊哉が顕著だが、ゆったりとした、まるでキャッチボールのようなフォームから想像以上に速いボールが来る。よって打者は差し込まれてしまい、凡退してしまう。
そして「球の出処」。かつてオリックスで活躍した星野伸之、現カブス和田毅がそれに当たる。テイクバックが小さく、腕が体に隠れて出てくるのだ。そのため、ボールが出てきる場所も見にくく、打者はスピードガン以上にボールが速いと感じてしまうのだ。

これらの点を意識すれば、あの打者はなんでこんな球を打てないのだろうという疑問が解けるのではないか。

【怖い打者の要素】


捕手としても1流の実績を持つ古田は打者についてはどのような考えを持っているのだろう。古田は長打力がある打者ほど嫌なものだと語っている。
つまり、打率4割を打ってもほとんどがシングルヒットである打者と、打率2割でも40本のホームランを打てる打者では明らかに後者のほうが脅威であるのだ。
これは野球がマスを1つずつ進んで4つ目のマスで1点というゲームであると考えると、一気に2~4つ進んでしまう長打がいかに嫌なものかわかるだろう。
そのため、野球を観ていて相手チームの長打力がある4番打者にシングルヒットを打たれたとき、「打たれたが、今のはシングルヒットで良かった」と語ることができると玄人であると思われるだろう。

【守備が上手い選手とは】


守備の上手い選手を考えるとき、どうしても印象的なファインプレーであったり、エラーの少なさだったりを挙げがちだ。
だが、古田は選手の「位置」に注目する。内野手外野手問わず、上手い選手は相手打者や配球によって1球ごと守っている位置を変える。その位置というのは、1、2歩程度で、なかなかテレビを見ているだけでは気づかないほどの動きだ。しかし、現役を引退した宮本慎也新庄剛志など守備に定評の会った選手たちはみな同様の動きをしていたらしい。
皆さんも野球を球場で生観戦する機会に恵まれたら、ぜひ選手たちの「位置」に注目してみると面白いだろう。

【 2番打者に送りバントをさせるか否か】


2番打者というと、バントができて小技が上手い、悪い言うと非力な打者を思い浮かべる。事実、現在のプロ野球のチームを見てもそのような打者を2番打者に置き、初回から送りバントランナーを進めるというケースが多い。
しかし、古田はこれに真っ向から異を唱える。古田いわく、序盤の1点は大したダメージではなく、本当に怖いのは序盤からの大量点だ。そのため、2番打者には長打を打てるような強打者を置いた方が良いというのだ。事実、監督時代の古田は39本塁打を放ったリグスを2番に起用した。(リグスは「バントをしない2番打者」と呼ばれた)
古田のように、野球界で"定石"となっていることを疑う姿勢は野球を観る上でも重要だろう。

さて、もうすぐシーズンが開幕する。みなさんも今シーズン、野球を観るときはこれらを意識して野球の奥深さをより感じてみてはいかかだろうか。
(さのゆう)