一部のラーメン好きの心を掴んで離さない「ラーメン二郎」というラーメン店が東京・三田にある。尋常でないボリューム、脂分の多さや甘じょっぱい味わいなど、普通のラーメンにはない個性で中毒者を生み続けているのだが、本店からのれん分けした複数の支店の他に、「二郎」のラーメンを模したインスパイア系」と呼ばれる亜流店が多数存在する。

インスパイア」というなんだかカッコいい横文字で一括りにされがちなのだが、なんとなく流行にのってマネして見ただけの店から、創意工夫するうちにオリジナルな美味しさにたどり着く店まで質がさまざまあり、なんと複雑で面白い文化だろうかと常々思っている。

と、ラーメンの話から始めてしまったが、千葉県佐倉市にある「国立歴史民俗博物館」で開催中の「大ニセモノ博覧会―贋造と模倣の文化史―」の面白さには、その「二郎インスパイア系」の魅力に通ずるものがあると感じた。

「ジュラ紀から現代までにわたる、『ニセモノ』の数々一挙公開」と銘打つ本展、「ニセモノ」という言葉から受ける単純な負のイメージを覆してくれるインパクトを持っている。

まず、「プロローグ」として展示されているのが「安南陶器ニセモノ事件」と呼ばれる陶器の捏造事件に関する品々。安南(ベトナム)から室町~江戸時代に渡来した焼き物として価値のある「安南焼」のニセモノが1980年から90年ごろにかけて日本で多数出回ったという。

展示ケースの中に並んだ陶器はすべてそのニセモノの「安南焼」。展示品の脇のモニタには、それらの焼き物を発掘している模様が映し出されている。この映像は、そのニセモノを本物らしく見せるため、購入者向けに作られたデマ映像だ。わざわざ一旦埋めたものを掘り返している模様らしく、神妙な面持ちで土の中からニセモノを取り出している人々のいかにも神妙な顔つきが面白い。犯人は行方をくらまし、真相は分かっていないという。

これだけ見るとニセモノをつかまされた人が可哀想になってくるが、例えば、古くから代々続く名家などではその家の格を示すために積極的にニセモノを利用したケースがあったという。本展には、とある地方の旧家のニセモノだらけの宴会場を再現しているフロアがあって笑ってしまった。宴会場に掲げられたニセの屏風や掛け軸で「さすが由緒あるお家だ……」という雰囲気を醸し出すのである。

また、縄文時代の装飾品の中に、貝で作った腕輪を粘土や石で模したものがあったという。これは、海辺に住む人しか採れなかった貝の美しさに憧れた山間部の人々が作ったもの。「海の方に住んでるやつらのあのカッコいい貝のアクセサリー欲しい……仕方ないから土で作ろう」と発想した当時の人々の気持ちがいじらしい。高校の頃の自分のようである。

ニセモノにはその時代の人々の欲望や切実な思いが託され、それが文化全体を発展させる推進力にもなってきたことが展示を通じて体感できる。

どうしてこの様な珍しい展示イベントが生まれたのか、本展示をプロデュースされた西谷大教授にお話を伺った。

「ニセモノというと、日常生活では、お金をもうけるためだけの『食品偽装』や『ニセブランド』など、他人を騙す『ニセモノ』の話題に事欠きません。『ニセモノ=悪いイメージ』という方が多いと思います。しかし本来、『ニセモノ』と『ホンモノ』は非常に微妙な関係にあり、『明と暗』『黒と白』といった単純なわけ方ができない場合もたくさんあります」

「ニセモノは、暮らしのなかで重要な役割をもち、さまざまな歴史をもっています。また、『ニセモノ』が『ホンモノ』を乗り越え、文化的な創造性を発揮することもあります。さらに、博物館で作られる研究目的の『ニセモノ』は、『ホンモノ』よりもむしろ研究価値が高い場合さえあるのです。そういった、ニセモノの多様な姿を知ってもらうと同時に、それを生み出した人間の面白さを知ってもらいたいと、当展を企画しました」

確かに、時にニセモノに翻弄され、時にしぶとく利用してきた人間の歴史には生々しい魅力がある。また、展示を通じて強く感じたのが、研究者の方々は真贋を見抜くために大変な苦労をしているのだろうな、ということ。なんせ、本物をしのぐ巧妙なニセモノが存在するのだから、その判断の難しさは想像を絶する。国立歴史民俗博物館に携わる教授は、真贋の判断についてどのような思いを持っているのだろうか。

「今回の展示は、真贋を見極めることを目的とはしていません。むしろ、ニセモノにも意味があるということを、どのように展示したら理解していただけるのか、知恵を絞りました。しかし、やはり見に来られる方は、『真贋を見極める』ことにも興味があるかと思います。そこで、キャプションに『教授のつぶやき』という、どこかニセモノなのか、ホンモノなのか、わかりやすい解説をつけました」

この「教授のつぶやき」が非常に面白い。ニセモノと判断したポイントの明確な解説もあれば、ニセモノか本物か判断しかねるという素直なつぶやきも。研究者の内情がリアルに伝わってくるのである。

「人を騙す目的で作られた『ニセモノ』は、もちろん良くありません。しかし、なぜニセモノが生まれるのかとういうことを、よくよく考えると、結局は、私たち自身が生み出しているのではないでしょうか。人々のささやかな欲望や見栄、それに自分たちの生活を少しでも良くしたいがために、歴史的にさまざまなニセモノが生みされてきました。今回の展示には、約300点のモノが展示されていますが、とても『人間くさい』展示です。ニセモノは、人間の本質と、もしかすると深く関わっているのかもしれません」

そう西谷教授がおっしゃる通り、ふふっと笑いながら見ているうちにふと人間の不思議さを目の当たりにする、そんな展示になっている。展示の会期は5月6日までなのでお見逃しなく!

ちなみに国立歴史民俗博物館は、企画展のチケットで見ることができる常設展のボリュームがとんでもなく、しかも大変面白い。ぜひたっぷりと時間をとっての来館をおすすめしたい。
スズキナオ)

「大ニセモノ博覧会―贋造と模倣の文化史―」(2015年3月10日5月6日
会場:国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市城内町117番地)

人魚のミイラ(国立歴史民俗博物館蔵)