海外派遣のハードルを下げようとする安倍首相

今後、同盟国アメリカの意向による自衛隊の派遣要請が増えてくるだろう。かつてのイラク・サマワよりも危険でハードな任務を自衛隊はこなせるのか? Q&Aで検証してみよう。

Q)自衛隊に想定される後方支援はどんなこと?

A)補給、輸送、復興支援など。

イラク派遣時のような多国籍軍への後方支援が想定される。海自は9・11テロ後に始まった「不朽の自由作戦」に従事する米軍艦船などにテロ対策特措法によりインド洋上で給油(2001~10年)。陸自は人道復興支援としてイラク・サマワに派遣され(03~06年)、空自はイラク特措法で物資や人員を運んだ(04~08年)。

対ISとしては、米国タンパにある米中央軍司令部の中に「有志連合」の事務局がある。日本も参加しているが、今のところ軍事的な後方支援や攻撃には加わっていない。

Q)自衛隊のどんな部隊が出動するのか?

A)あらゆる部隊に可能性はある。

「主要部隊は、最新鋭の普通科部隊や特戦群、空挺レンジャーでしょう。それに伴いヘリ部隊が出ることになります。空自の輸送部隊も忙しくなるでしょう。日本人人質が殺されたのですから、空自からF-2戦闘機が出ていって有志連合の空爆に参加するような議論があってもいいと思います」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)




Q)自衛隊に期待される“ハードな支援”はどんなこと?

A)治安維持活動なら戦闘もあり得る。

後方支援以外にまず思い浮かぶのは、IS勢力を排除した後の治安維持や警備任務だ。

「いずれは治安維持活動や戦闘を前提とした活動を求められるでしょう。国連のPKF活動よりもハードな有志連合の活動となる可能性があります。今までは『日本は武力行使はしない』ということで後方支援専門でしたが、今後は安倍政権がどこまで踏み込むか次第。おそらくアフガニスタンにおけるISAF(国際治安支援部隊)に参加したドイツデンマークみたいな立場になるのではないでしょうか」(前出・黒井氏)

黒井氏は、自衛隊はいずれ有志連合に参加して任務の一部を担う形になると予測する。だが、安倍政権もまだ「武力行使を伴う多国籍軍への参加」は考えていないようだ。

「確かに今の法律の下では難しいし、自衛隊内部からの反発もあるでしょう。しかし、これまでと同じような自衛隊のPKO活動やイラクに派遣した土木作業を行なう施設科だけではなく、戦闘をする普通科の部隊が中心となって世界の紛争解決に貢献するのが、これからの国際的なスタンダードだと思います」(黒井氏)

一方で、このような意見もある。

「現実的なのは基地警備、車列警護くらいでは。米軍の戦闘部隊とサイド・バイ・サイドはないと思います。自衛隊は、まだ米軍と最前線でコミュニケーションとれるほどのレベルにはないですから」(軍事フォトジャーナリスト・柿谷哲也氏)

“ハードな支援”を行なうには、ハードルも高いのだ。




Q)他の有志連合との関係は?

A)同格ならば守ってはもらえない。

イラク派遣では、周辺の治安維持はオランダ軍や豪軍が担い、自衛隊を守ってくれた。逆に、陸自の拠点付近で豪軍が暴徒に襲われたときは傍観するしかなかった。

自衛隊の武器使用基準を説明しても、どの国の部隊にも理解されず、白い目で見られました」(元イラク派遣隊員)

今後、政府は法改正して、このような事態に対応できるようにする予定だ。つまりは他国の軍と同じ立場になる。

Q)法的・政治的には可能なのか?

A)安倍内閣は可能な方向へかじを切る。

与党がこの3月に合意した安全保障法制の基本方針では、自衛隊の派遣活動が米軍や他国軍への後方支援からシーレーンでの機雷掃海を含む集団的自衛権への行使にまで広がっている。5月にもこの関連法案が国会に提出され、成立を目指す。

「安倍政権が目指している集団的自衛権憲法改正自衛隊法改正が認められ、相手国の了解が得られるならば、外国に自衛隊が駐留することに問題はありません。しかし、なんの目的で駐留するのかという明確な理由がない限り、国民は納得しないし、国会でも問題になるでしょう」(法務を担当していた元陸自1佐)

海外任務の多様化に伴い、自衛隊の中にも困惑する声があるようだ。

(取材・文/本誌軍事班[取材協力/世良光弘 小峯隆生])

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安倍政権が舵を切る自衛隊の海外派遣、後方支援どころか戦闘も?