NHKだけが映らないTVがついに登場?

 引っ越しをすると、どこからともなく現れるのが"NHKの集金人"である。

 いまどきの日本で、TVを持っていない人など滅多にいない。そのうえ日本国内ではNHKの電波を受信可能な設備をもった人は、すべてNHKと受信契約を交わさなければならないというヘンな法律「放送法」がある。

"NHKの電波を受信可能な設備"というのは、なにも普通のTVに限らず、TVチューナーが内蔵されたPCも含まれる。だから新築や引越しで新たな家庭を持てば、そこにTVがあるのは当然だと考え、NHKの集金人が受信契約を結ぼうと現れるのだ。しかしTVを持っていたとしても、我々が必ずNHKの番組を見るとは限らない。ではなぜ、見もしないチャンネルの受信料を払わされるのか? 昔からNHK受信料の支払いに抵抗を続ける人はいたのだが、そんな受信料不払い運動をする人たちに大きな希望が生まれた。

 それは

"NHKだけが受信できなくなるアンテナフィルター"

 が開発されたからである。


NHKが映らないアンテナ? その正体とは?

 このフィルターは、筑波大システム情報工学研究科の視覚メディア研究室で、同研究室の掛谷英紀准教授の指導の下で開発された。すでにこのニュースを知っている人も多いかもしれないが、記事の多くは"NHKが映らないアンテナ"として紹介をしている。

 しかし実態はTVとTVアンテナの間に取り付け、NHKのTV電波帯をカットする「フィルター」なのである。このフィルターを付けると、NHKの電波はTVでは拾えなくなるので、当然NHKを見ることはできなくなる。だからこのフィルターを設置したTVは放送法64条でいう、

「(NHK)放送受信目的でない設備」

 に該当し、NHKとの受信契約を結ばなくてもいいとなるのだ。


フィルターだけではなく、ホントに"NHKが映らないアンテナ"も登場

 NHKのTV電波帯をカットするフィルターは、すでに2014年7月からAmazonでも発売されている。これについて、弁護士資格をもつ渡部氏に聞いてみた。

「確かに、このフィルターを付ければ、NHKの受信を目的としない受信設備という解釈ができますから、NHKと受信契約を締結する必要はないでしょう。ただ、フィルターの着脱が容易にできるような場合は『フィルター付きだからNHKの受信はできない』との主張の説得力が弱いと思われます。ですから『フィルターが初めから組み付けられている製品』を設置したなどの場合に、主張が意味を有してくるのではないでしょうか」

 ということである。

 つまり任意で着脱が容易にできる場合、その部品を外せばNHKが受信可能な設備になってしまう。「絶対にNHKの放送受信が目的でない設備」と主張したいのであれば、始めからその部品が付いており、それを取り外すとTV番組が全部見られなくなるようなモノが必要なのだ。

 ところが2015年4月に幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議2015」において、再び筑波大研究室がフィルター内臓のアンテナを発表したのだ。このアンテナを使用すればNHKは映らなくなるし、外せばTVそのものが映らなくなる。まさに"NHKの放送受信目的でない設備"になるのである。


NHKが映らないTVが商品化できないわけ

 なんだか、法の網の目をくぐるような話なのだが、いっそのことフィルター内臓のTV本体を商品化できないものだろうかと思う方もいるかもしれない。ところが報道によれば、特許の関係でNHKが映らないTVは商品化できないらしい。一体、どの特許がフィルター内臓TVの商品化を阻んでいるのか?

 そこで、フィルター開発者である筑波大の掛谷英紀准教授ご本人に聞いてみた。

デジタル放送に関してNHKが持っている特許は100以上あります。TVメーカーが特許を使っている以上、権利者であるNHKが映らないTVを商品化することはできません」

 ということだそうだ。

 つまり現在の地デジ放送システムで、NHKが持っている特許はひとつやふたつではなく、NHKの握っている特許に抵触しない地デジ対応TVなどの商品化は不可能ということだ。なぜなら、NHKの持っている特許技術を使用する以上、特許権利者であるNHKが、NHKの映らないTVの商品化など許すわけがないからだ。


■放送利権を握り続けるNHKの次なる戦略とは?

 ただ、特許というのは永遠に権利を持ち続けるわけはない。特許はいずれ期限が切れるわけで、そうなればNHKの支配が及ばないTVが開発できるはずだが、この件に関しても掛谷准教授は、

「たしかに、特許の時効は20年です。ですから、NHKは次の規格づくりを目指しています。4K放送推進もその一環です。20年以内ごとに放送の規格が変更されれば、NHKの知財権の呪縛からは逃れることはできません」

 と語ってくれた。

 つまりTV放送の技術革新に伴って、NHKは常に特許を取得し、その使用権を盾にNHKが映らないTVの製造を防ごうとしているのである。


NHK受信料は今後どうなる?

 NHK受信料不払い運動が一般に広がったのは2004年ごろからで、度重なるNHKの不祥事に受信料の支払いを拒否する人が激増した。そして最近では、何かと世間を騒がせている籾井勝人会長の言動や、『クローズアップ現代』での"やらせ疑惑"などさらなる不祥事が相次ぐ中、受信料支払いを求める裁判で、受信契約の締結は認められないとしてNHKが敗訴するという判決が下された。

 NHKとは別に「WOWWOW」や「スカパー!」など、有料放送がちゃんとビジネスとして成立している現在、ただTVを持っているだけで受信料を徴収するというシステムは、いよいよ見直す時に来ているかもしれない。
(文=ごとう さとき)

※画像は、Mary/TV EYE #128 in Explore. from Flickr CC BY 2.0

画像は、Mary/TV EYE #128 in Explore. from Flickr CC BY 2.0