愛知県蒲郡市愛知学院大学、明治による産学官共同の「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」の最終報告会が、2015年5月19日に東京・有楽町で開催された。同研究は、「蒲郡市ヘルスケア研究」に基づく取り組みで、蒲郡市内外の347人が参加するという日本初の大規模研究。中間報告でチョコレートの摂取前後で「血圧が低下する」、「HDLコルステロール(善玉)が上昇する」など報告されたが、新たに、「うつ病アルツハイマー型認知症、記憶・学習などの認知機能との関連性が報告されているBNDF(脳由来神経栄養因子)が上昇する」ということが報告された。同研究を指導した愛知学院大学心身科学部教授の大澤俊彦氏(写真)は、「近年の脳神経の研究で世界中の関心を集めるBNDFの上昇が確認されたことは画期的な成果」と語った。写真は愛知学院大学心身科学部教授の大澤俊彦氏。

 BNDFは、脳の中で記憶を司っている海馬と呼ばれる部分に多く含まれ、海馬にある記憶を司る神経細胞の活動を促進させていると考えられている。これまでの研究で、「BDNFはニューロンの産生や神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進などに関与し、脳にとって重要な栄養分」、「うつ病アルツハイマー型認知症などの精神疾患で脳内のBDNFが減少」、「血中にも存在し、血液脳関門を通過する」、「65歳以上の高齢者では加齢とともに減少」、「運動によってBDNFは上昇する」などが報告されている。

 今回の実証研究では、45歳~69歳の参加者347人(男性は35%)に、カカオ分72%の高カカオポリフェノールチョコレートを1日25g(カカオポリフェノールが約635mg)を毎日欠かさず4週間にわたって食べてもらい、摂取開始の前後で被験者の体重、血圧、脈拍を図り、採血と尿検査、問診と自覚アンケートを実施した。BNDFの上昇は、血液サンプルを分析した結果、明らかになったという。

 BDNFの測定結果は、全体(347人)の平均で、チョコレート摂取前が6.07ng/mlだったものが、4週間後には7.39ng/mlに上昇した。愛知学院大学の大澤教授は、「チョコレートという身近な食べものでBDNFが上昇することがわかったことは、高ストレス社会、あるいは、超高齢化社会にあって非常に画期的なこと」と、この発見を高く評価している。

 また、最終報告では、動脈硬化などの検査で指標として使われる炎症指標(hs-CRP)と酸化ストレス指標(8-OHdG)も測定。被験者全員では有意差は確認されなかったが、第3四分位以上の人(被験者のうち同指標の値が大きい順に上から4分の1までの人)についてみると、チョコレートの摂取前後で、いずれも有意に低下することが確認された。血管内皮機能の低下リスクが高いと思われる第3四分位以上の人で炎症指標や酸化ストレス指標が低下したことについて、チョコレートに含まれる抗酸化物質、カカオポリフェノール動脈硬化のリスクを低減させる効果があることが示唆された。大澤教授は、この結果に対して、「チョコレートは血管をしなやかにする効果があるのではないか」と語っている。

 蒲郡市の協力を得て日本で初めて実施された大規模な実証研究を振り返って大澤教授は、「ヨーロッパではカカオポリフェノールが含まれないホワイトチョコレートと、通常のチョコレートを使った調査が行われ、カカオポリフェノールのメリットが実証されているが、1日当たり100g、約500kcalのチョコレートを被験者は食べなければならず、食べ続けることで体重が増加するデメリットがあった。蒲郡市の調査では、1日当たり25g、約150kcalの摂取で検証し、高血圧の人の血圧が下がるなどの数値を確認するとともに、同時に調査した体重やBMIなどの数値には影響がでなかった。さらに、アジア系の人種を対象とした世界初の試みで、欧米人だけに認められてきたチョコレートの健康効果が、日本人にも認められるという画期的な結果が得られた」と締めくくった。

 蒲郡市の企画部次長兼企画政策課長の尾崎弘章氏は、実証研究への参加を通じて「市民の健康への関心が一段と高まった」とアナウンスメント効果を強調し、「蒲郡市の将来都市像として掲げる健康で豊かな暮らしを育む知的創造推進のまち“次世代型ヘルスケアシティ”に向けて、引き続き市民の健康意識の向上につながる取り組みに力を入れていきたい」と語った。(編集担当:風間浩)