超高齢社会の日本では、長寿化にともなって60歳以降も働くことが当たり前となりつつあります。しかし、じつは「働けば働くほど年金が減る」可能性があることはご存じでしょうか。いったいどういうことか、詳しくみていきましょう。『定年までに知らないとヤバイお金の話【最新版】』(彩図社)著者でファイナンシャルプランナーの岡崎充輝氏が解説します。
60歳→65歳→70歳…「定年引き上げ」に潜む“落とし穴”
60歳で定年退職したからといって、その後働かないという選択はあまり現実的ではありません。
厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査」によると、定年制度のある会社は95.5%、その中で79.3%は定年年齢を60歳と定めています。まだまだ、多くの会社の定年は60歳だということがわかります。
しかし、2012(平成24)年に高年齢者雇用安定法が改正され、「定年を60歳未満とすることの禁止」と同時に「65歳までの雇用確保措置」の2つを企業に義務づけました。「65歳までの雇用確保措置」とは、次の3つのいずれかの措置を講じる義務を企業に課すものです。
・定年を65歳に引き上げ
・65歳までの継続雇用制度の導入
・定年制の廃止
つまり、希望すれば誰でも65歳までは継続して働くことができるようになったというわけです。しかもこの動きは70歳まで拡大される方向になります※。
※ 2020(令和2)年の高年齢者雇用安定法の改正( 令和3年4月1日施行)では、「65歳から70歳まで」の就業機会を確保するため、企業に対し措置を講じる努力義務が課せられました。
60歳以降も働くと「年金」が減る?
「在職老齢年金制度」…年金+給与が一定額を超えると、年金の一部or全額がカット
しかし、働きながら年金をもらうことはできるのでしょうか?
「在職老齢年金制度」とは、60歳以降働きながら年金を受け取る場合、給料と年金月額の合計額が一定額を超えると、年金の全部または一部がカットされる制度です(国民年金から支給される老齢基礎年金は在職老齢年金制度の対象外)。
具体的には、給料と年金12分の1の合計額が、60~64歳で28万円、65歳以上で47万円を超えると年金がカットされるというものでした。
65歳以降の47万円はまだしも、60歳から64歳の28万円はなかなか厳しい金額ですよね。せっかく、繰上げ受給で年金を受給したとしても、毎月の給与が28万円以上あれば年金は受け取ることができないということになります。結果、年金を受け取れるように、働き方を調整することを考える人が出てきます。
そこで、この制度は見直され、2022(令和4)年4月以降は65歳以上の方と同じように、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「47万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「47万円」を上回る場合は年金額の全部または一部について支給停止される計算方法に緩和されます。
繰上げ・繰下げ受給の改正に、そしてこの在職老齢年金制度の改正も併せて、60歳以降も働きやすい制度改正となったわけです。
60歳以降、年収が下がったら…国からもらえる給付金
働きやすい環境になってきたといっても、まだまだ60歳で定年という会社は多く、65歳まで働けることは保証されたといっても、60歳以前と同じ給料を保証する……という法律ではないので、お給料が減ってしまう可能性はあります。
「年金は65歳からだというのに、年収まで減ったら生活できない」という方に、国は、次のような「高年齢雇用継続給付」という制度を設けています。
[受給要件]
・雇用保険の加入期間が5年以上あること
・60歳以降も継続雇用され雇用保険の被保険者(加入者)であること
・60歳以降の賃金額が60歳到達時の賃金月額の75%未満で、賃金額が36万0584円未満であること(令和3年8月1日以後・金額は毎年変更される)
・受給期間は、60歳から65歳未満の最大5年間であること
・60歳到達時の賃金月額は、次の計算式により算出される(60歳到達時前6ヵ月の賃金総額÷180)×30
・60歳到達時の賃金月額の限度額は47万3100円であること
[受給額]
60歳以降の賃金額の15%相当額を限度に60歳以降の賃金額の低下率に応じる
低下率が61%以下の場合…60歳以降の賃金額×15%
低下率が61~75%未満の場合…60歳以降の賃金額×低下率に応じて15%より逓減した率
うーん、ややこしいですね。ざっくり言えば、60歳を超えて働く場合、給料が60%未満になれば15%分補填されるという制度です。
大きな会社であれば、こういった手続きも会社から教えてもらえるのですが、小さな会社では見落とされてしまうケースもあります。ですので、こういう制度があることをまず覚えておいてください。
岡崎 充輝 ファイナンシャルプランナー 株式会社ヘルプライフオカヤ 代表取締役
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