理由は人それぞれですが、長寿化が進むなか、働く高齢者が増えています。できれば長いキャリアの中で培ってきた経験を生かしたものですが、なかには、プライドもズタボロになるケースもあるようです。
50代までは順調だった…片道切符を渡された「金融マン」の辿り着く先
サラリーマンの給与。高卒・大卒・院卒という「学歴」、正社員・非正規社員という「雇用形態」、大企業・中企業・小企業といった「企業規模」と、個人や勤務先によって給与水準は大きく変わります。同じく、業種によっても大きく変わるのは、誰もが実感するところ。
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、全業種平均(平均年齢44.6歳)は月収で35.0万円、年収で569.8万円。業種別にみていくと、最も平均が高いのは「金融業・保険業」で、39.3万円(平均年齢43.7歳)。一方で最も平均が低いのは「宿泊、飲食サービス業」で25.9万円(平均年齢43.0歳)。「金融・保険」は平均勤続年数が14.3年、一方、「宿泊・飲食」は9.9年と、4年強の差があることも多少関係しているかもしれませんが、そもそも業界の給与水準が違うことが考えられます。
【年齢別「宿泊・飲食」/「金融・保険」サラリーマンの平均月収】
20~24歳:18.8万円/17.4万円
25~29歳:21.1万円/23.9万円
30~34歳:23.9万円/31.4万円
35~39歳:26.1万円/40.7万円
40~44歳:29.7万円/50.2万円
45~49歳:31.5万円/59.1万円
50~54歳:32.6万円/64.2万円
55~59歳:34.0万円/62.4万円
60~64歳:32.9万円/59.5万円
そんな勝ち組といえる「金融業」に身をおいていたとしても格差は大きいようです。
――50代手前までは順調にいっていた
そう投稿したのは、大手金融にいたという60歳のサラリーマン。順調にキャリアを重ねても、40~50代で出向対象となる人とそうでない人に分けられます。出向は片道切符といわれ、戻ってこられないケースのほうが多いといわれています。出向先で今までのキャリアを活かして活躍できればいいのですが、たいてい、出向先の企業のニーズと一致していないことが多く、「出向してきたXXさん、ほんと、役に立たない」とささやかれ、単なるお飾りになるのがお決まりのパターンだといわれています。
――私もきっと役立たずの烙印を押されていたでしょうね
男性の場合、1年ほどは出向社員として働いたものの、出向先企業に転籍。出向前の月収は60万円で、そこから給与は3割減。転職という選択肢も考えましたが、50代でそんなリスクを犯したくないと、結局、60歳の定年までしがみついたといいます。60歳の定年を機に、関連会社で再雇用。65歳まで非正規社員として勤務し退職となったといいます。
「キャリア」と「企業のニーズ」が一致しない…働きたい高齢者の実情
65歳。年金をもらえるタイミングなので、ここで多くのサラリーマンは、さらに働くか、それとも年金生活に入るかの二択に迫られます。昨今は、将来不安も大きく、「元気なうちは働きたい」「生活費の足しにしたい」などと、年金をもらいながら働くケースも増えているようです。
男性も「家にいても邪魔者扱いされるだけなんで」と、再就職をのぞんでいるといいます。65歳、仕事をやめる直近の月収は35万円ほど。「ここまで稼げなくてもいいから」と、だいぶ条件を下げて職探しをスタート。まずはシニア向けの人材紹介サイトを通して仕事を探してみましたが、なかなか書類選考を通らず。通ったとしても面接を突破できない日々が続いたといいます。
インターネットで仕事を探していては再就職ではダメかもしれないと、ハローワークへ。「ここなら何かしら仕事が見つかるだろ」と高をくくっていたといいます。デスクワークを希望していた男性(というよりも、それ以外経験がない)。しかしハローワークで言われたのは、
――厳しいですね
――交通整理とか、工場のラインとか……色々と申し込んでみませんか?
高齢者のデスクワークがないわけではない、ただ競争率が高過ぎる、だからもっと選択肢を増やしましょう、ということのよう。ただ元金融マンで、最高月収は60万円、世の中でいうエリート街道を歩いていたというプライドもあり、「何でもいいから仕事を……」とは言えません。
――銀行でも「お前は役に立たないから」と出向させられ、出向先でも「役に立たない」と烙印を押され、定年後はそのまま再就職はできず関連会社に飛ばされ、さらにハローワークでも……もうメンタルが崩壊しそうです
来年から65歳までの雇用確保は義務化となり、さらに70歳まで働ける環境整備が進んでいます。しかし高齢者の働きたいというニーズと企業側の思いが一致しているとは限らず、多くの人が希望するデスクワークの競争率はかなりの高倍率となっています。
――せっかくのキャリアを活かすことができない
働く高齢者が増えるなか、ニーズと実情をいかに一致させていくか、難しい問題です。
[参照]
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