現在のブルガリア南西部にある古代都市遺跡「ヘラクレア・シンティカ」で、古代の下水道跡からほぼ完全なヘルメスの大理石像が発見された。
ヘルメスはギリシア神話に登場する青年神でオリュンポス十二神の一人。ゼウスとマイアの子で、神々の伝令使で、とりわけゼウスの使いとされている。
こうした像はほとんどがどこか破損した状態で見つかることが多く、今回のようにほぼ全身が発見されることは極めて珍しいという。
考古学者、リュドミル・ヴァガリンスキー教授率いる研究チームが、ヘラクレア・シンティカの古代都市の下水道遺跡クロアカ・マキシマで作業中にこの発見があった。
「高さが2mを超えるこの古代の大理石像は、ヘルメス神を表したものだと思われます。破損がほとんどなく、これまででもっとも完璧な状態で見つかりました」ヴァガリンスキー氏は語る。
ヘラクレア・シンティカで発見されたヘルメス像 / image credit:Archaeologia Bulgarica
発掘されたヘルメス像の頭部 / image credit:Archaeologia Bulgarica
重要な古代都市の過去を垣間見る
ヘラクレア・シンティカは、紀元前356年~339年の間にマケドニア王フィリッポス2世がミグドニア、ヘラクレア出身のマケドニア人移住者と共に建設した都市だ。
シンティアというトラキア人部族を追い出して建設された可能性が高いが、西暦425年の大地震で壊滅し、500年頃までは人は住んでいなかった。
この遺跡は、ラテン語の碑文が発見されてから2002年に初めて特定された。
ヴァガリンスキー氏の発掘調査は2007年から続けられていて、トンネルやアーチ、陶器の仮面を作る大きな作業場などが発掘されている。
ヘラクレア・シンティカの遺跡 photo by iStock
5世紀の大地震の後に意図的に埋められた可能性
このヘルメス像は保存状態がかなりいいことから、5世紀の大地震の後に意図的に埋められた可能性があることが推測できる。
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ヘルメス像の保存状態はとても良い / image credit:Archaeologia Bulgarica
この仮説は、歴史的背景によっても裏づけられる。キリスト教がローマ帝国の国教になったため、異教である像は隠されたり、ほかの用途に転用されることが多かった。
こうした動乱の宗教移行期に、保存のためにこのヘルメス像はわざと埋められたのではないかとヴァガリンスキー氏は推測する。
修復後に美術館で公開予定
発掘されたこのヘルメス像はペトリチ美術館に移され、一般公開のための修復と保存が行われる予定だ。
ヘラクレア・シンティカの発掘調査は、この地域の歴史と文化的な変遷に新たな知見を提供してくれることだろう。
References:Remarkable Discovery of Complete Hermes Statue in Heraclea Sintica | Ancient Origins / Archaeologists Find Remarkable Marble Statue of Greek God Hermes in Ancient Sewer / written by konohazuku / edited by / parumo
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