ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。
前回、JASRAC広報部の岩根茉佑さんに印税には著作権印税、アーティスト印税(歌唱印税)、原盤印税の3つがあると教えてもらったんだ。その中でJASRACでは著作権を管理して著作権印税を音楽クリエイターに分配しているらしいんだけど、今回はどんなときに著作権使用料がかかるのかを具体的に聞いたよ! もし前回の記事を見てない人は、合わせてチェックしてみてね!
取材・文 / キニナル君 撮影 / 山崎玲士 イラスト / 柘植文
使用料が発生するケース①ライブでの演奏
──今回もよろしくお願いします! JASRACが著作権の管理をしているのはわかったんですが、具体的にどういうふうに使われたらお金が発生するのかを教えてほしいです!
前回、「著作権は権利の束である」とお伝えしたように、著作権にはさまざまな権利が含まれていて、手続きにも多くのパターンがあります。今回はその中からキニナル君の身近なケースを中心にいくつか説明しますね。まず音楽を演奏したり歌唱したりすることに関する権利として演奏権がありまして、例えば有料のコンサートや、ダンスや演劇などで音楽を利用したい場合に使用料が発生します。
──それってアーティストが自分の曲をコンサートホールで演奏する場合も使用料を払わなくちゃいけないの?
主催者に申請していただくのが一般的ですが、自分の曲であっても私たちに権利をお預けいただいているものに関しては、基本的にはそうですね。一度お支払いいただき、のちにJASRACから分配金としてお戻しする形になります。また、一定の範囲内での自己使用については、使用料をいただく必要がないように取り扱いを定めています(参照:ご自身の作品を自ら使用する場合について)。
──例えばたくさんのアーティストが出演するフェスの場合は、主催者が使用料を払っている?
そうですね。主催者やプロモーターが払っています。
──あ、ライブハウスはどうなんですか? 特にレーベルやマネジメントがいない駆け出しのアーティストの場合、自分たちでJASRACに申請しなきゃいけない?
いえ、基本的にはライブハウスの経営者がJASRACと利用許諾契約を結んでいます。そのライブをやって利益を得た方に手続きを取っていただくのが基本になるので。コンサートホールの場合、会場は場所を貸しているだけで、チケット代が高額だったからといってそれに比例して会場が儲かるわけではないですよね。一方でライブハウスはその箱の経営者がコントロールしているので、JASRACへの申請もライブハウスにお願いしています。実際には、多くのライブハウスに包括許諾契約を締結していただいているのが現状です。
──ストリートライブはどうなんですか?
もちろん道路使用許可を警察に取っていただく必要はありますが、著作権に関しては許諾の必要はありません。著作権法の第三十八条に「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に演奏することができる。ただし、実演家に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない」という規定があって、ストリートライブはこの要件を満たしているという認識です。
──でも、ギターケースに投げ銭をもらったら報酬にならないの……?
投げ銭が必須であれば、有料と言えますよね。ただ、投げ銭は任意で、結果としてお金を払ってくれた人がいたということであれば、営利性があると断定はできないと思います。
──ケースバイケースなんだね。
一方で、カラオケ店舗での歌唱にも演奏権がかかってきます。
──え? 僕は友達とよくカラオケに行くんだけど、著作権使用料を払わなきゃいけなかったの!?
いえいえ、店舗にお支払いいただいているので、キニナル君は何も気にせず楽しんでいただいて大丈夫ですよ。
──よかったあ。でも僕はてっきり、第一興商とかエクシングのような通信カラオケの会社が払ってるんだと思ってたよ。
通信カラオケ事業者にもお支払いいただいていて、それは複製権と公衆送信権にかかる部分になります。複製権は著作物をコピーすることに関する権利、公衆送信権は有線・無線を問わず著作物を公衆向けに送信することに関する権利です。通信カラオケ事業者にはカラオケのデータを管理するサーバーや店舗の受信装置に楽曲をコピーする複製権の許諾と、楽曲データを各店舗の端末に送るときの公衆送信権の許諾を取ってもらっています。一方で店舗にはお店の中で楽曲を流すときの演奏権の許諾を取ってもらっています。
──あるアーティストがカラオケで歌われて毎年1200万円くらい印税が入ると言っている記事を昔読んだことがあって、いいなあって思ってたんだ。カラオケの印税だけじゃないかもしれないけど、カラオケの力も大きいんだろうなあ。
使用料が発生するケース②店舗BGM
ほかにも、演奏権にはCDなどの録音物を再生することも含まれていて、店舗BGMがこれにあたります。
──音楽が流れてないお店ってほとんどないですよね。レストランやカフェはもちろん、洋服屋さんとかスーパーマーケットとか。
そうですね。ただ使用料がかからないケースもありまして、1つ目が音源提供事業者から提供された音楽を流している場合。音源提供事業者が店舗の代わりに著作権使用料を支払ってくださっています。音源提供事業者というのは、USENがイメージしやすいかなと思います。2つ目は、テレビやAM・FMなどのラジオ放送をそのまま店内で流している場合です。著作権は著作者の死後70年が経過すると消滅するので、著作権が切れた音楽を流す場合も使用料がかかりません。
──CDの音源を店舗で流す場合、著作権のほかに原盤権の使用料もかかってくるんですか?
いえ、「実演家の著作隣接権」にしても「レコード製作者の著作隣接権」にしても、演奏権は存在しないので、原盤権使用料は不要で著作権の使用料だけがかかってきます。
──JASRACは店舗から使用料を徴収しているということだと思うんですけど、地方のスナックとか、新しくお店がオープンした情報ってどうやって入手してるの?
JASRACは全国各地に支部がありますので、それこそ新規店舗がないか足で探すこともありますし、タウン誌やネット検索、あとは保健所の営業許可を取ったお店の情報は申請すれば開示してくれるので、そういうものを駆使しながらコツコツとやっていますね。
──著作者のために地道な作業をやられているんですね。本当にお疲れ様です……! そうやって苦労されてるのに、店舗にJASRACの職員さんが著作権使用料の徴収に行ったら、お金の代わりにパンチをもらうこともあるって本当?
パンチをもらっていたかはわかりませんが(笑)、昔は今ほど著作権の知識が浸透していなかったので、なかなか話し合いがスムーズにいかなかったようですね。今はそんなことはないと思いますよ。
使用料が発生するケース③テレビ&ラジオ放送
──テレビやラジオ放送に関する使用料についても教えてください!
放送の場合、公衆送信権や複製権など複合した権利になるんですが、ドラマの主題歌や歌番組、あとバラエティ番組で流れるBGMなど、すべてに使用料がかかってきます。ただテレビ局やラジオ局とは包括許諾契約をしているので、JASRACで管理している楽曲すべてに許諾を出しています。
──眉村ちあきさんが「帯番組にテーマ曲を提供したら印税額がすごかった」と言っていたんですけど、やっぱり使われる回数が多いと分配額に影響を与えるんですか?
そうですね。テレビ局に使用実績を報告していただき、その比率に応じて権利者に分配金をお支払いしているので。放送の場合は回数もなんですけど時間も影響します。その曲が何秒間使われたか、あとは主題歌なのかBGMなのかという要素が加味されるので、確かに帯番組で毎日ある程度長い時間流れていたのであれば、それなりの収入になるんじゃないかと思います。あとは放送局の収入に応じて使用料が変わってくるので、キー局のように収入が多い局で流れるのとローカル局で流れるのとでも金額は変わってきますね。
──テレビCMにも音楽は使われますよね。それも包括許諾契約の範疇?
CMはちょっと特殊な扱いになります。というのも、商品とその曲がかなり密接に結び付きますよね。もしかしたら著作者が望まないイメージが付いてしまうかもしれないので、CMでの音楽利用では著作権以外に著作者人格権にも気を付ける必要があります。実は著作権には他人に譲渡できる著作財産権と譲渡できない著作者人格権がありまして、CM利用は著作者人格権の中の同一性保持権に関わってきます。
──ドウイツセイホジケン?
はい。これは著作物の内容や題号を、著作者の意に反して無断で改変されない権利になります。CMでの楽曲利用はアレンジされることが多く、特定の商品やサービス、企業のイメージが結び付くため、著作者の意向に反した利用をしないよう配慮することが不可欠です。利用希望者からJASRACへお問い合わせいただいた場合は、そもそも使っていいかどうかも含めて利用を希望する方から直接著作権者にお尋ねいただく必要がありますので、連絡先をご案内しています。使用料は作品の著作権者が直接指定する金額(指し値)になります。
使用料が発生するケース④楽曲の複製
──ほかにどんな場合に著作権の使用料がかかってくるんですか?
JASRACの管理楽曲を映像ソフトや録音物、出版物などで利用する場合に複製権の使用料がかかってきます。例えばライブのパッケージ化、CDやオルゴールの制作、楽譜や歌詞を掲載した出版物の発行などですね。著作物の多くは複製することによって収益を上げています。英語では著作権のことを「コピーライト」=「複製する権利」と言うくらい、複製権は重要な権利なんですよ。
──映像ソフトっていうのは例えばテレビドラマや映画をBlu-rayやDVDにしたものも該当しますか?
はい。それがBlu-rayなのかUSBなのか、今後出てくるかもしれない新しい記録媒体でも、音楽を含む映像を有形物に固定する場合は該当します。なのでライブはもちろん、ドラマや映画をBlu-ray化する場合もそうですし、個人の方であっても例えばBGMが流れる結婚式のプロフィールムービーや吹奏楽のコンサートなどをメディアに記録する際も使用料が発生します。
──吹奏楽のコンサートなどは、あくまで個人で楽しむ分には問題ないですよね?
個人で楽しむ分には問題ありませんが、それを超える場合は手続きが必要になります。例えばダビングしたものを友達に配ったり、レンタルショップでCDを借りてきてコピーしたりする場合も同様です。ご自身や家族の範囲なら大丈夫ですが、それ以上は使用料がかかってきます。
──レンタルCDって、お店が払ってるんだと思ってました。
レンタルショップ側に払っていただくのは貸与権にかかってくる使用料となっております。
──あと歌詞の掲載についてなんですけど、僕、大学のゼミで教授から引用なら問題ないって聞いたことがあります!
確かに、著作権法第三十二条に「公表された著作物は、引用して利用することができる。(略)その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」とあって、この条件に当てはまれば使用料はかかりません。それに関しては文化庁発行の「著作権テキスト」でも確認ができます。
使用料が発生するケース⑤サンプリング
──僕、最近ヒップホップが好きでよく聴いてまして。ヒップホップカルチャーってサンプリングがキモだと思うんですけど、サンプリングする場合ってもちろん使用料はかかるんですよね?
著作権的には、著作物に創作性を加えて別の著作物を作成する翻案権や著作者人格権の中の同一性保持権に考慮する必要があります。それとは別に、原盤権の許諾も必要になってきますね。ただ、店舗BGMの説明で触れた通り、著作権には保護期間が決まっていまして、著作権が消滅した著作物のことをパブリックドメインと呼ぶのですが、P.D.に関しては許諾は必要ありません。
──へえ。どのくらいで著作権は消滅するんですか?
著作者が実名であれば死後70年、無名であったり団体名義の場合は公表後70年ですね。一方著作隣接権にも保護期間がありまして、「実演家の著作隣接権」はその楽曲が実演されてから70年、レコード製作者の著作隣接権は音源が発行(発売)されてから70年です(※)。
※発行されなかったときは固定(録音)後70年。
──平原綾香さんの「Jupiter」はホルストが作曲した組曲「惑星」の中の「木星」の一部を使ってるけど、それはP.D.だったっていうこと?
ホルストが亡くなったのが1934年、「Jupiter」が発売されたのが2003年で70年未満なのですが、当時の著作権法では死後50年だったので問題なかったということですね。
──サンプリングに関してもう1つ気になることがあって。ちょっと前にNovelbrightの竹中雄大さんが、Lil Diva feat. Minto「Remember」という曲が自身の楽曲「ツキミソウ」を盗作したものだとX(Twitter)にポストして、それに対して作曲者のMintoさんが「YouTubeのフリービートから独占権とビートを購入し、制作しました」と言っていて。最近ヒップホップシーンではフリービートやタイプビートが普及しているんですが、これの問題点ってどこにあるんでしょう?
ビート販売業者がどういう条件で販売したのかわからないのでなんとも言えないんですが、著作者の許諾を得ずに販売してしまったということであればシンプルにサンプリングするときはちゃんと手続きを踏んでねという話に尽きると思います。
使用料が発生するケース⑥楽曲のカバー
──アーティストが誰か別の人の楽曲をカバーする際も、たぶん著作者に使用料の支払いが必要ですよね?
前回お話した通り、YouTubeなどのSNSに上げる分には、プラットフォーム側とJASRACが著作権の包括契約を結んでいるので不要です。ライブで披露する場合には冒頭にお伝えした通り演奏権のお手続きが必要となります。またカバー曲を自身のCD作品などに収録したり、配信リリースしたりするような場合は、複製権にかかってきます。ただ1つ注意点がありまして、これはあくまで原曲をそのままカバーする際の話でして、歌詞を変えたりアレンジを加えたりする場合にはJASRACにご申請いただく前に権利者──作詞者や作曲者、音楽出版社──の同意が必要になります。
──またまた難しい話が出てきた……! 僕、もう頭がパンクしそう……!
難しいですよね。著作権法第二十七条では「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と定められていて、譲渡や相続することはできないんです。著作物のアレンジをしてもいいか悪いかは、作った本人しか判断できないということですね。
──さすがに自分で作詞作曲して誰かに提供していた曲をセルフカバーする場合はアレンジとか気にしなくて大丈夫ですよね? 自分が著作者になるわけだから。
そうですね。ほかのアーティストに提供したものであれば、業界慣習的に事前にセルフカバーしますとお伝えしたほうがいいと思いますが、それは権利関係というよりは、マナーの問題かなと思いますので。
──その場合も著作権使用料の支払いは必要になるんですか?
コンサートで自分の曲を演奏するときと同じで、結局は戻ってくるけれども、私たちがお預かりしている楽曲に関しては、やはり一度お支払いいただいて、その後分配するという流れになります。
今、著作権使用料が多い分野は?
──いやー、JASRACが本当にいろいろなシーンで著作権の使用料を徴収して、著作者に分配しているのかがよくわかりました! それで、よかったらこっそり教えてほしいんですけど、今ってどの分野の分配率が高いんですか?
ここ数年は動画投稿をはじめSNSでの利用がずっと右肩上がりで、分配額も増えていますね。
──2024年のJASRAC賞ではYOASOBI「アイドル」、HoneyWorks「可愛くてごめん」、[Alexandros]「閃光」がそれぞれ金・銀・銅賞を獲得してましたけど、どれもSNSでの利用が大きかった?(参照:YOASOBI「アイドル」が金賞!JASRAC賞でAyase、ハニワshito、アレキ川上が喜びの声)
そうですね。JASRACでは動画配信、音楽サブスクリプション、ダウンロードなどをインタラクティブ配信として扱っているんですが、「アイドル」は分配金のうち71%、「可愛くてごめん」は88%、「閃光」は96%がインタラクティブ配信による収益となっています。2023年時の分配額をもとに2024年に発表しているので少し前の数字にはなりますが、やはりTikTokをはじめとするSNSの力は著作権使用料においても大きいようです。
──僕が夢の印税生活を送るには、やっぱりそのへんを狙っていくのがよさそうですかね……?
TikTokでは短ければ短いほど再生が回るということもあるので、アーティストの方も短い時間の中にいかにキャッチーな音楽を入れ込むかを考えたりもしているみたいですね。そうやって工夫してバズる音楽を作るといいかもしれないですね。
──がんばります! 今日はいろいろと教えていただいてありがとうございました!
※本記事で言及しているのは一部のケースで、著作権の手続きが必要なすべてのケースを網羅しているわけではありません。
プロフィール
岩根茉佑
2018年に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に入職。仙台支部を経て2022年より広報部に在籍。
一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC
コメント