2024年8月8日に日向灘で発生した地震において、真っ先に航空自衛隊の戦闘機などが飛び立ちました。ただ、戦闘機は本来、領空防衛を担う装備であるハズ。被災地救援できない戦闘機はどのような任務で出動したのでしょうか。
アラート待機の戦闘機が被災地へ
2024年8月8日午後4時43分頃、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発生しました。この地震では自衛隊に対する災害派遣要請は出ていませんが、防衛省・自衛隊は自主的に情報収集活動を開始しています。
そのようななか、地震発生から15分後に防衛省・自衛隊は公式Xにおいて情報収集を開始した旨を投稿(ポスト)するとともに、F-2戦闘機の写真をイメージとしてアップロードしていたのです。
これに対し、当該ポストには「なぜ戦闘機を発進させたのか」といった疑問を投げかけるリプライが多数ついたようです。戦闘機は本来、領空防衛を担う兵器であるはずです。なぜ、防衛省・自衛隊は戦闘機が災害現場に真っ先に駆けつけるような写真を掲載したのでしょうか。
航空自衛隊は、全国に8か所の戦闘機配備基地を持ちます。千歳基地(北海道)、三沢基地(青森県)、百里基地(茨城県)、小松基地(石川県)、築城基地(福岡県)、新田原基地(宮崎県)、那覇基地(沖縄県)において、それぞれ2機の戦闘機が5分以内に発進可能な状態を維持する「アラート待機」、または「5分待機」とよばれる状態を保っていることに理由があります。
このような戦闘機の待機は、防空識別圏(ADIZ)に接近ないし進入した所属不明航空機を迎撃するための、いわゆるスクランブル発進への準備ではありますが、副次的に地震が発生した場合にも戦闘機を緊急発進させ、自主的な情報収集を行うことになっています。
たまたま近く飛んでいて状況偵察するケースも
戦闘機は、その高い機動性と速度性能を活かして被災地上空へ一番乗りし、パイロットは目視による偵察飛行を実施して、第一報を送ります。戦闘機の飛行高度は高く、かつ高速であるため収集可能な情報量は多いとはいえないものの、「大規模な火災が発生している」「火災は確認できない」「市街地全域が見えない(停電が発生している)」といった、災害のおおよその規模を知ることができます。
なお、悪天候であった場合などは戦闘機では全く情報を得られません。また災害派遣で出動しなくてはならない事態が発生していた場合には、もっと具体的な映像情報が必要となります。
ただ、そのためのセンサーを搭載した能力の高いヘリコプターや救難機は「15分待機」にあり、戦闘機よりも遅く到着することになります。ゆえに、誰よりもいち早く被災地上空へと飛んでくることが可能な戦闘機が、いうなれば「先遣隊」として駆け付け、まずは第一報を防衛省本省や総理官邸などにあげるのです。
ちなみに、この任務は何よりも即応性が重要なので、実弾の空対空ミサイルなどは降ろさず、携行したまま被災地上空まで飛来します。
過去を振り返っても、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震をはじめ、記憶に新しいところでも2024年1月1日の能登地震など、大きな被害をもたらした震災時には必ず戦闘機が緊急発進しています。
また、かつては震度5弱以上の地震で緊急発進していましたが、頻度が多すぎてしまうことから現在では発進の目安は震度5強以上に引き上げられています。
今回の地震における自衛隊の活動情報は、まだ明らかとされていないため、あくまでも推測になりますが、おそらく震源に最も近かった宮崎県の新田原基地は滑走路などの被害状況を確認するため緊急発進を行わず、次に震源に近い戦闘機基地である築城基地のF-2が発進したのではないかと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は推測しています。
なお、たまたま近辺にいた航空自衛隊のC-2輸送機が、宮崎県の海岸沿いを飛行したことも明らかになっています。こちらは、おそらく津波の発生に備えた情報収集を行っていたのではないかと考えられます。
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