日本最難関と誰もが疑わない、東京大学。そこに合格した後、起業を経て「芸術界の東大」とも呼ばれる東京藝術大学や慶応の大学院にも進学するという、異色すぎるキャリアを歩む「クレイジー東大生」がいる。「しももん」の愛称で知られる下山明彦さんだ。

そんな下山氏から、自身の半生や勉強論、今まで出会ってきた天才たちにまつわるエピソードなどについて、あますことなく話を聞いた。

◆生活費のためにコンペで賞金稼ぎ。投資コンテスト日本一に

東京大学文科一類に合格した下山氏は、出身地・広島県から2015年に上京。東大では都内の進学高出身で激しい受験戦争を勝ち抜いてきた天才たちと邂逅する。地元・広島にはいないタイプの天才たちと接し、層の厚さを感じつつも、切磋琢磨する日々を送ったという。

1年生の時は、ハーバード大学と学生会議を共催する団体『HCAP』に入るなど、意識高めなゼミやサークルにひと通り参加。僕の手柄ではありませんが、HCAPは東大総長賞も受賞しています。そこには、のちに官僚や研究者になるような天才たちが集結していて。僕も当初は『いっちょ事務次官でも目指すか』と意気込んでいました。

しかし、次第に『将来、彼らと同じような働き方はできない』と思うようになり、通っていた中高一貫校がカトリック系だったこともあって、宗教学者になろうと思ったんです」

東大には、2年進級時に「進振り」と呼ばれる学部選択があるが、下山さんはそこで休学の道を選ぶ。

「天才たちの選択に興味があって様子見したかったことと、宗教実践の時間を確保したかったことから休学を決意。樹海で山篭りしたり、インドで瞑想修行したりしました。しかし、今まで進路に一切口出ししてこなかった両親もさすがに呆れ果て、仕送りを止められてしまい……(笑)。生活費を稼ぐため、インドからでも応募できるコンペで賞金稼ぎをはじめました。結果、3つのコンペで日本一になり、賞金総額は200万円超。その中のひとつに、投資コンテストがありました」

投資コンテストは、収益率を競う勝負だった。このとき、下山さんはまだ怪しいものと見られがちだった「仮想通貨」に勝機を見出した。

「2か月間という短期決戦だったので、ライバルと同じようなポートフォリオを組んでいては差がつかない。そこで、目を付けたのが仮想通貨でした。運よくビットコインのハードフォークという大きなイベントが起こるタイミングと重なったため、ビットコインETFの指標をポートフォリオの限界値まで増やしたんです。

すると、目論見通り1か月で70%近く上昇し、2位と圧倒的な差をつけて日本一になりました」

仮想通貨メディア「コインオタク」設立。6億円で売却へ

東大に復学した下山さんは宗教学を専攻。あくまで宗教学者を目指しつつ、同時に仮想通貨の将来性にも惚れ込み、仮想通貨メディア「コインオタク」を設立・起業する。設立に至るまでの経緯は、極めてマンガ的だ。

「当時、怪しい情報商材にあふれていた仮想通貨の“四季報”を作りたいと思いました。しかし、ウェブメディアをマネタイズさせるには、記事の量産といった馬力が必要不可欠です。さらに、仮想通貨はただでさえ変化が激しいし、一次資料も英語。僕ひとりでは到底回せないので、能力的にも東大生の仲間を集めるのが最適だと判断しました。そこで、東大の全クラスラインでメンバーを募集。ひと学年3000人×4の1万2000人に声を掛け、応募があった中から30人を厳選して事業を開始しました」

東大生の精鋭30人ではじめた事業は、たった半年で200万PVを達成。1億円でM&Aのオファーが来るまでに急成長した。しかし、思いもよらぬ困難が下山氏を直撃することになる。

「僕は家を解約し、会社に泊まり込みでコミット。詐欺団体から殺害予告を受けるなど大変なこともありましたが、事業は順調でした。しかし、2018年に起こったコインチェックのハッキング事件でビットコインバブルが崩壊。突然、メンバーの半分が会社を去るという危機的状況に陥ってしまったんです。

仮想通貨一本ではなく柱がもうひとつ必要だと考えた僕は、こんな悪状況でも仮想通貨を信じて情熱を持ち続けていた文字通り“コインオタク”なインターン生に事業を託し、新たに『Senjinホールディングス』というマーケティング企業を設立。この判断は大正解で、コインオタクは新代表のもと1年間かけて大幅にバリューアップ。結果的に、6億円で上場企業へと売却するに至りました」

◆「1万年後の生き物を驚かせる作品を」藝大に進学した動機

コインオタクの売却に成功し、Senjinホールディングスの事業も好調。そんな中でも、誰もが予想しないような挑戦を続けるのが下山氏のクレイジーな点だ。東京大学を卒業したのち、なんと今度は「芸術界の東大」とも呼ばれる東京藝術大学大学院への進学を決心する。

「コインオタク売却後、いい家に住んだり、恋愛バラエティーショーに出演したり、ぼんやりと憧れていたことをして過ごしていました。でも、後輩から『オフィスに泊まり込みで仕事をしていた下山さんがかっこよかった』と言われ、我に返ったんです。

そんな時、偶然仲間たちと無人島に行く機会がありました。どうせならと釣竿と水だけ持って2泊3日のサバイバルに。極限状態に陥った時、ふと砂浜に絵を描いている自分がいることに気付きました。事業とアート作品を作りながら未来を考えられたら絶対面白いし、藝大での経験はきっと事業にもプラスになる。そうして、藝大大学院の受験を決意しました」

藝大の試験では、仮想通貨や広告をテーマにするなど、これまでの経験をフルに活かした作品を提出し見事合格。事業にもアートな側面が大いに役立っている。

「僕の夢は、1万年後の生き物がびっくりするような作品を作ること。そのために、コインオタクの売却資金で山を購入し、そこでオブジェの製作を進めています。また、太陽の塔のように後世に残る作品を作るには大きな組織とのコラボが必要不可欠です。

そこで、Senjinホールディングスの事業の一環として『ALT.』というアート部門も設けました。上場企業や省庁と共同で作品制作を行い、芸術と経営を結びつけるワークショップを実施。現在は、経済産業省大臣室に作品を献呈したり、ASEANサミットでアートのプログラムを提供したりさせていただいています」

藝大を卒業後、今度は慶應の博士課程に進学。アート×経営について新たに学び直すなど抜かりがない。「デジタルマーケティング、人材、地方創生、アート事業の4つを柱とした活動を通して、世界の進化を早めていきたい」。そう語る下山氏の次なるチャレンジに、ひと時も目が離せない。

取材・文/桜井カズキ 撮影/ヤナガワゴーッ!

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