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 今回試乗したクルマは、Mercedes-AMGの「C63 S Eパフォーマンス」。

 「ヤバイ、やりすぎだ」。アクセルを踏んだ瞬間、微塵の躊躇もなくクルマが加速する。体がシートに張り付いて離れない。顔は強張り、ハンドルを握る手に力がこもる。こんな体験は「NISSAN GT-R NISMO」以来のこと。おそろしいのは見た目が普通のコンパクトセダンであるということ。

 ただ1点、フロントグリルにスリーポインテッドスターのエンブレムとAMGのバッジがついていることを除いては……。

 そんなクルマをタレントでモデルの「あらた唯」さん(最近改名)と見ていきましょう。

普通の車もMercedes-AMGにかかると
ハイパフォーマンスカーに!

 Mercedes-AMG。その誕生は1967年にさかのぼります。レーシングエンジンの設計会社として産声をあげたAMGは、メルセデス・ベンツをベースにしたレーシングカーで名を馳せると、メルセデスの市販車チューニングを開始。2005年にメルセデス・ベンツ・グループの傘下となり、完全子会社となりました。

 現在はMercedes-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チームをはじめとするモータースポーツ活動と、スポーツ系車両の企画・設計・生産を担当しています。体制としては、BMWとBMW M社、ルノーとアルピーヌに近いといえるでしょう。

 そんな同社の特徴はエンジン至上主義。長年にわたりCクラスに4L V8ツインターボエンジンを搭載したモデルを販売し続けたほか、そのエンジンも“One man-one engine”という義のもと、AMGファクトリーの熟練工(マイスター)が専任でエンジンを組み上げるというコダワリっぷり。

 AMGのファクトリーで組み上げられたエンジンには、担当したマイスターのサインが描かれたプレートが特別に貼り付けられます。

 そんな同社最新のCクラスセダンが「C63 S Eパフォーマンス」。元のCクラスセダンの倍以上の1600万円というプライスがつけられ、パフォーマンスという名の通り、とんでもない1台です。

 ちなみにMercedes-AMGのCクラスモデルとして、C43 4MATIC(1171万円~)も用意されています。

 ボディーサイズは全長4835×全幅1900×全高1455mm。ホイールベースは2875mmで、車重は2160kg。サイズだけで言えばBMW M3やM4あたりがライバルとなりそうです。

 ボディーのあちこちにエアーアウトレットがあるのがスポーツモデルの証。それはMercedes-AMGも同じ。なのですが、エレガントながらもスゴみを覚えるのが、ラグジュアリーブランドのもてる技なのでしょうか。

エンジンは2Lにダウンサイジング
しかし476馬力というパワーを絞り出す!

 エンジンは2L 直列4気筒シングルターボ。先代が4L V8ツインターボだったので、ちょうど半分にダウンサイジングしました。ですが、エンジン単体の最高出力は476馬力、最大トルクは575N・mと、世界最強4気筒と言われた同社の「A45 S/CLA45 S」の421馬力、500N・m超えを達成。とはいえ、4L V8ツインターボ(510馬力、700N・m)と比較すると、ちょっと物足りない……。

 しかし本機には、リアアクスル部に10秒間、最高出力204馬力/最大トルク320N・mを発するモーターと2段変速機、電子制御LSDを内蔵。結果、システム最高出力680馬力、最大トルクは1020N・mと先代越えを達成。結果、0-100km/h加速は3.4秒と、先代より0.6秒、BMW M3やM4より0.1秒速いというからとんでもない。

 つまりハイブリッド化によって、ダウンサイズターボでも前モデルを超えたというわけです。ハイブリッド+ダウンサイズターボというと近年のF1テクノロジーで、本機にはF1で培われたテクノロジーが数多く使われています。

 そのひとつが400Vのリチウムイオンバッテリー。容量は6.1kWhと小容量ながら、急速な充放電性能や小型軽量化、冷却性能などがF1譲りの様子。電気だけでも15kmは走行できるのですが、あくまでもパフォーマンスに全振り。相応の走りをすれば、あっという間に電池は空っぽになるのですが、スポーツモード以上で走行していたら、いつの間にかフル充電状態に。

 一応ACインレットはあるのですが、バッテリー容量が少なく、またF1由来の回生効率ゆえ「駐車場にACコンセントがないから」は敬遠する理由にはなりません。

 モーターやバッテリーを搭載する都合、ラゲッジスペースはかなり小さい印象。容量は320LとCクラスより130Lも少なかったりしますし、床面もフラットではありません。パワーゲートに対応しているので使い勝手は良好といえそうです。ちなみにアクセサリーソケットなどの用意はないようです。

クルマ好きのツボを刺激するインテリア

 カーボン加飾でスポーツ感を演出しつつも、レザーをふんだんに使ってラグジュアリーさを忘れない。これは最近のスポーツモデルのお作法で、Mercedes-AMGもその手法を採ります。

 すごいのがイルミネーションで、とにかく派手の一言。もともとドイツの工業製品って、クローム加飾を多用するなど派手めなのですが、さらにイルミネーションでキラキラ。しかもデフォルトと思われるイルミネーションの色が紫という点。

 室内を見た唯さんは「紫とかピンクはちょっと……」と言葉を失い、「これってほかの色にできませんか?」と懇願するほど……。ちなみに色は任意に変更可能です。

 もっとギョッとするのがディスレイとステアリングホイールまわり。フル液晶ゆえ表示方法は多彩。そしてステアリングホイールのボタンの多さに閉口。筆者は結構この手のモノは慣れていると思っていたのですが、触る度に「ここが動くの?」と驚くことばかり。

 トドメなのが、ホーンボタンのかたわらにある走行モードセレクターとサスペンションなどの設定スイッチ。なんと操作する度に色やアイコンが変わるというマニアっぷり。クルマ好きのツボをグリグリと刺激します!

 さらにクルマ好きのツボを刺激するのが、車両設定画面。まず走行モードが豊富! さらにドライブ、サスペンションのほかに「AMGダイナミクス」という、コーナーリング中にブレーキをつまんで曲がりやすくするベクタリング機能の設定まで変更可能! これが確かに変わるのです。

エアホッケーも遊べる!?
UIはスマホライクで操作しやすい

 インフォテインメント・ディスプレイは実にスマホライクで、階層は結構深め。洗車モードは最近のクルマでよく見かける機能で、ボタン1つでオートワイパーオフ&ドアミラーをたたむというもの。逆にオンにした状態で洗車機にクルマを預けるとワイパーが壊れるというおそろしい展開が待っています。

 IWCって鯨が関係しているのかな? と思ったら時計表示で、ストップウォッチ機能付き。さらにエアーホッケーのアプリもあり、運転席と助手席で遊ぶことができます。

 スマホ対応もチェック。スマホトレイは横置きで、かなり奥にあるので入れづらいです。車内のUSB端子は全てUSB Type-Cで使い勝手は良好。AppleもGoogleも両方使うことができ、AppleはワイヤレスCarPlayに対応していました。

 天井にはSOSボタンやルーフの開閉ボタンを配置。エアコンの送風口は中央に3つ、左右に1つづつ。この送風口もライトアップされます。

 後席はちょっと足元が狭い印象。エアコンの送風口はありますが、USB端子はありませんので、運転席側のアームレストからケーブルを引っ張ってくることになります。

コンフォートモードから足周りが固い!
AMG仕込みのチューンで高速道路も快適!

 まずはコンフォートモードで街乗りからスタート。いわゆるスポーツグレードらしい硬めの足回りと、やや野太いエキゾーストが車内に響く以外、平和そのものといったところ。唯さんも「ちょっと硬めということ以外、特に変わったことはないですね」と街を走ります。

 しかしスポーツ、スポーツプラスになると話は一転。ドライバーに牙を向けてきます。特にスポーツプラスはエキゾースト音が変わるほか、ブリッピング音(空ぶかし)が加わりテンションアップ。それ以上に、ちょっと踏んだだけで怒涛の加速。

 「これは……」と顔をこわばらせる唯さん。いや、これは誰もが言葉を失います。最近のクルマは「シャーシの方が速い」ことが多いのですが、このクルマは明らかに「エンジンがシャーシに勝っている」パターン。決してハンドリングが悪いクルマではありません。素晴らしいハンドリングを上回る、バケモノ級のパワートレインが載っているのです。

 ライバルのBMW M3/M4と違うのはハンドリングの軽快さで、あちらは地に足がついたような重厚さを感じるのに対し、C63 S Eパフォーマンスの方が350kg以上重たいハズなのに、まるで宙に浮いているかのようなフィール。クルマの質量を感じさせません。ちょっと頭が混乱します。

 浮遊感を覚えるライドフィールだから、高速道路は無双状態。気づいたら、とんでもない速度が出てしまうのです。しかも120km/h巡行しているのに、9段ATのギアはいまだ7段目と、上に2つギアが残している余裕っぷり。BMW M4だって120km/hを出していればトップギアに入っていたのに……。

 誰もが追い越し車線を走行中、後ろからとんでもない速度のメルセデスが近づいてきたという経験があると思います。今回、AMGに乗って理解しました。運転している本人は、速く走っているつもりはなくても、クルマが速く走ってしまうのです。

 ハイブリッド車で気になるのは、アクセルを抜いた際の回生ブレーキの動き。これが実に見事で、メーターを見ると回生しているにも関わらず、回生感が皆無でエンジン車のフィールそのもの。ブレーキを踏めば、踏力の分だけ減速し、過剰な動きをしません。メルセデスのEVも、回生ブレーキが自然でしたが、さらに驚いた次第。なるほど、これがF1テクノロジーなのか!?

 「これはすごいクルマですね。とにかく速すぎます。あとメルセデスではあるものの、普通のメルセデスとは大違いですね」と唯さん。

 以前、A PIT オートバックス東雲で行なわれたメルセデスのオフ会を取材した際、硬派な走りに取りつかれている人の意見をいくつも耳にしたのですが、実際に触れてみて納得した次第。ここまで硬派なスポーツセダンはほかにありません。

 そして慣れたら最後、普通のメルセデスに戻ることはできないでしょう。というのも、BMWのM3やM4などは、3シリーズや4シリーズのフィーリングを残しながら、とんでもないパフォーマンスカーであるのに対し、メルセデスのCクラスとMercedes-AMGのC63は、まったくの別物だから……(早朝のオートバックスに両極端なメルセデス・ベンツオーナーが大集合)。

 「羊の皮を被った狼」という言葉があります。そんなオオカミですらMercedes-AMGの前には子犬になることでしょう。そう、Mercedes-AMGは「公道の帝王」といっても過言ではないのです。高速道路の追い越し車線でルームミラーにAMGの姿を見かけたら、すぐに道を譲ることを心に決めました。

AMG「C63 S E パフォーマンス」は普通のセダンなのに中身は凶暴なモンスターだった!