過去5万本の記事より反響の大きかった傑作選。今回はレアな職業から転職した人に注目する。(初公開2022年9月10日「元セクシー女優の昼職転職記」全12回中の第1回 記事は取材時の状況)
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フリーライターのたかなし亜妖と申します。WEBコラムや映画・漫画レビュー、時にシナリオなどジャンル問わず文章を書く日々です。2016年に「ほかにやることがなかったから」という理由でセクシー女優デビュー。なんとなく入った業界で気づけば2年半が経過したところで、引退を決意しました。
その後は何事もなかったかのようにシレッと昼の世界へ出戻り。ライターになり早4年が経とうとしています。
◆蕁麻疹が出たことが女優引退のきっかけに
私がセクシー女優だった4年前のある日。突然全身に蕁麻疹が出た。それも頭皮からつま先まで、私の体は余すところなくブツブツまみれに。まるで自分が草間彌生の作品になったように思えた。
いや、それは完全にウソなのだけど、何の前触れもなしにこの状態になったのだから笑えない。皮膚科で鎮静化させる注射を打っても、薬を服用してもすぐに引かず、しばらくの間は水玉模様の肌と付き合わねばならなかった。
見るも無残な姿を鏡で再度確認し、ふと考える。
「もうこれは“女優をやめろ”という、神様からのお告げではないか?」
痒さに耐えつつ薬を塗り、一向に引かない蕁麻疹を眺めながら絶望する日々。おかげで一本撮影をキャンセルしてしまった。知人から当時、現場でヤバイ病気でも貰ったんじゃ、と心無い言葉を投げられ、激しくキレたのを今でも覚えている。AVの撮影現場は性病対策を徹底しているのだ。“お土産”を貰うことはまずないだろう。
他に仕事をしていなかったため、働けない間は無職同然。いざ収入が途絶えてからようやく、私は自分の将来について真剣に考えることとなった。
◆業界から離れようと思った本当の理由
実は蕁麻疹騒動が起こる数か月前から、セクシー女優を引退するか悩んでいた。2018年の年明け、つまり自分が業界入りを果たしてから丸2年が経過しようとしていた時である。
私はこれといった理由もなく、ヌルリとアダルト業界に飛び込んだ。仕事をたくさん抱えているわけでも、かといって毎月激ヒマなわけでもなく……。言わば「知名度がないけどなんとか生きられる系の人間」でしかない。YouTuberで例えるなら登録者数3~5万人くらいの微妙な立ち位置で、生ぬるい状態をズルズル続ける日々。
適当にオファーがあったために生活はできてしまう。未来を特に考えることなく、目先の撮影だけを追ってなんとなく暮らしていた。
基本は朝方に就寝。昼過ぎに起床。何もない日は夜21時ごろ出掛けて、フリーターの友達と朝まで飲み明かすのがデフォだった。
行きつけの飲み屋のおっちゃんに「ねーちゃん!毎回朝まで飲んで大丈夫? 一体何の仕事してるんだい」と聞かれて、ドキリとしたけど。当時はまだハタチそこそこだったから、自由奔放な毎日に危機感さえ覚えなかったものだ。
時が進むにつれて環境は変わっていく。同級生がインターンだ!就活だ!学生結婚だ!と騒いでいるのに対し、私はどうだろう。働いてはいるけど心はいつでも半ニート状態なので、はたから見れば完全にヤベー奴でしかない。
高校時代のクラスメイトと会った時、自分自身の持つ世界と、一般の世界のズレを大きく感じた。彼女たちと会うのは楽しかったけど、社会にとっての“普通”を目にするたびに、引退の二文字が頻繁に脳裏をチラつくようになっていた。
◆プロダクション退所にかかった時間は……
アダルト業界は高収入で、短期間しか働かずともあっという間にOLの月収くらいは稼げてしまう。引退を考えてはいたものの、すぐに踏ん切りをつけるのは難しかった。
だから酷い蕁麻疹が出たのは、ある意味人生を考え直すいいきっかけになったと言える。働けなくなり、冷静に考える時間が作れた結果、ようやく決意が固まったということだ。
決意をしてからの行動は早く、蕁麻疹とお友達状態のまま所属していたプロダクションの社長へ引退の旨を告げた。
すると数時間後に返信がきて、「分かりました! 今までありがとうございました」と一言。
事務所の中心メンバーではなかったので引き留めに遭うことなく、速攻でセクシー女優を引退することに……。
“辞めますLINE”から数時間後、無職へ真っ逆さま……。今考えると笑えない話だが、当時は本当に頭が悪かったので蕁麻疹を治すこと以外はあまり考えていなかった。むしろスッキリした気分で昼寝に勤しんだのは、今でも忘れない。
◆「元セクシー女優で現・無職」からの再出発
プロダクションを退所した瞬間に蕁麻疹は引いていき、いつもの自分を取り戻せた。一体あれは何だったのか……。セクシー女優の続行と引退の間。揺れ動いたがためのストレスだと思いたい。
一瞬にして映像の向こう側の人間から、ただの病み上がりニートへの転落。資格なし、学歴ほぼなし、昼の仕事の経験はアパレル店員のみ(しかもすぐ辞めてる)という最悪すぎる状況の中、新たに職を探さねばならない。
スペック的に無理ゲーでしかないのに、アホに磨きがかかった私は「どうにかなるやろ精神」で動き始めた。
ただ、今思い返すと蕁麻疹が出たことは不幸中の幸いだったと言えよう。事務所のメインポジションにも立てないままセクシー女優をダラダラ続けていたら、ただの飲んだくれ以外の何者にもなれなかっただろうから。
目の前のことしか見えていなかった、脳内花畑な無職の私。ぐうぐうと昼寝をし、余裕をかましているものの、引退後にさっそく社会の洗礼を受けることになる……。
文/たかなし亜妖
【たかなし亜妖】
元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。
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