中華圏のAVプラットフォーム「麻豆」。主要な視聴者は中国国内の地方に住む男性たちとみられている
中華圏のAVプラットフォーム「麻豆」。主要な視聴者は中国国内の地方に住む男性たちとみられている

日本の女性たちに影を落とす中国の"エロ産業"ネットワーク。その実態を追う短期連載、第2回のテーマは「動画」だ。

日本人女性をモデルにAVを撮影、それを自国向けのエロ動画サイトに投稿して商売にする中国人たちは、果たしてどんな手口を使うのか? 日本人が出演する中華系AVの中身とは? 徹底取材!【日本に侵食する中国「エロ産業ネットワーク」の闇 第2回】

【写真】中国人マニア向けのグループで流れている迷姦動画ほか

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■演技中、思わず噴き出しそうに

近年、日本人女性による海外の風俗店への出稼ぎ現象が盛んだ。【日本に侵食する中国「エロ産業ネットワーク」の闇 第1回】で報じたとおり、現地の店舗の経営者の多くは中国人。出稼ぎブームの背景には、世界を覆う中国人による〝欲望のネットワーク〟が存在している。

そして、このネットワークは、日本国内でさらに奇妙な産業と結びついている。中国人男性と日本人女性がプレイする自主制作ポルノ動画が、ひそかに大量に作られているのだ。今回はその実態について伝えたい。

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「過去に数回、中国人男優とカラむ中華系AVに出たことがあります」

そう語るのは、ベテラン出稼ぎ風俗嬢のエリカさん(48歳)だ。出演料は1本当たり10万円で、中国向けにネット配信すると説明されたという。作品は局部にモザイクが入らない完全な無修正(仮に日本国内の拠点から配信すれば違法)だ。

中国人は親孝行を重視する儒教文化ゆえか、近親相姦モノのポルノに背徳感を覚える人が多い。そのため、熟女のエリカさんは撮影でそうした演技を指示された。

「私が母親役、男優がその子供役という設定でした。なんと台本も準備されていたのですが、日本のその手のAV以上に、配役にものすごくムリがありました(笑)」

中華系のアダルト動画サイトで実際の作品を見てみる。

「勉強はもうイヤだ~!」と中国語でダダをこねる少年役のゴツい男性に、「あらあら、タマっているのね?」とエリカさんが色っぽい日本語で話しかけていた。シュールすぎる映像だ。

「撮影中、噴き出さないよう我慢するのが大変でした。中華系AVはプレイが淡泊なので、肉体的にはラクでしたが、別の意味でキツい現場でしたねえ......」

出演の経緯はこうだった。

2022年初頭、オセアニア某国の風俗店に出稼ぎに行った彼女は、税関をスルーして売上金を日本国内に送るため、現地風俗店の中国人オーナーに紹介された地下送金業者を利用した。

これは、カネをまず中国国内に送っていったん人民元に両替し、それを日本に向けて再度のヤミ送金を行なうという仕組みらしく、東京・池袋の中国人業者が受け取り手になっていた。この業者が、エリカさんにAV撮影を持ちかけたという。

ちなみに池袋は、西口を中心に中国人が多い。この業者が当時入居していた雑居ビルに行ってみると、1階が中国物産店で、入居者もほとんど中国人という「プチ中国」だった。

池袋駅西口。駅を出て右手に曲がると、今世紀に入り拡大したニュー・チャイナタウンが広がる
池袋駅西口。駅を出て右手に曲がると、今世紀に入り拡大したニュー・チャイナタウンが広がる

■欲望だだ漏れの「抗日AV」の世界

エリカさんの作品を配信したレーベルは「T」といった。中華圏では比較的知名度が高いAVレーベルである。

「近年、こうした中華圏のグループが、日本人女性が出演するAVを多く作っています。スタッフが日本に来て撮る場合と、女性を台湾などに行かせて撮る場合と、どちらもありますね」

日本で中華系AVの制作に携わった経験を持つ、30代の日中ハーフの男性・田中氏(仮名)はそう説明する。

「ウチの場合は、過去に日本でAVの制作技術を学んだ台湾人のスタッフが、都内のスタジオで撮影していました」

中国と台湾は政治的に対立しているが、AVの世界は別である。2010年代後半に台湾でAV撮影が合法になり、大量のメーカーが出現。対して中国でも、表向きはAVがご禁制とはいえ、地下で複数のメーカーが生まれた。

中台いずれの制作者も、主に中国国内向けに配信主体の動画を作るビジネスモデルだ。中国資本のAVプラットフォーム「麻豆」などに作品の提供を行なっている。

ゆえに、日本国内で撮影される動画についても、制作者が中国系か台湾系かを問わず、中国大陸の人々の好みに合わせた内容が多い。

「日本のオンナを犯しまくって、中国の国威を見せつけてやるぜ!」

中には、こんなセリフが登場するAVもある。中国系レーベルの「精東影業」が制作する『抗日奇侠』シリーズだ。

「抗日奇侠」シリーズ第1作。女優の演技を含めたクオリティは、日本の国産AVよりもやや落ちる印象
「抗日奇侠」シリーズ第1作。女優の演技を含めたクオリティは、日本の国産AVよりもやや落ちる印象

中国の有名な抗日ドラマと同じ名前の同シリーズは、一昨年11月に第1作がリリースされて以来、現在までの約1年半で34本の作品が作られている。

ただし、愛国を掲げた勇ましい看板に反して、内容は決してハードな〝陵辱モノ〟などではなく、意外と平和的だ。在日中国人が自宅に日本人の風俗嬢を呼び、サービスを受ける設定が多い。「国威を発揚」するはずの男優が、片言の日本語で「キモチイイデス!」と声を上げている姿はけっこう情けない。

一戦終えた後、「日本のオンナとヤッて国威発揚」を主張する『抗日奇侠』シリーズの主演男優
一戦終えた後、「日本のオンナとヤッて国威発揚」を主張する『抗日奇侠』シリーズの主演男優

ほか、同僚の日本人女性とセックスする、中国語を勉強中の女のコに手を出すなど、日本で暮らす中国人男性の願望が垣間見える内容が目立つのが特徴だ。

抗日シリーズのほかにも、日本人が出演する中華系AVは、『麻豆』を確認するだけでも100本近く作られているとみられる。ただ、こちらも内容の多くがソフトかつノーマルで、日本のAVと比べると刺激は弱い。女性側の演技力も、あまり高くない人が多い。

「出演する女性は、日本の風俗で指名が取れないコや、売れないフリーのAV女優が多いですね」

都内でフリーのデリヘルドライバーとして働き、業界を手広く知る広沢氏(仮名、26歳)はそう話す。

「中国系の人が経営する風俗店の場合、人気がない女のコに海外の風俗店での出稼ぎや、国内での中華系AVの出演をオーナー側が斡旋しているケースも少なくありません」

コロナ不況と円安が進行した2020年代以降、こうした流れが強まったという。

■使われるのは医療用の全身麻酔薬

もっとも、曲がりなりにもプロが手がけている中華系AVは、前述のように内容がソフトで、出演する女性の安全も比較的保たれている。

危険なのは、特殊な性癖を持つ中国人の個人撮影だ。昨年3月頃、広沢氏はそうした動画に出演経験がある若い風俗嬢から直接話を聞いている。

チップをはずむと説得され、謎の麻酔薬をかがされたそうです。ただ、気絶後に彼女が失禁したことで、相手の好みに合わず撮影を途中でやめたらしい。お金はちゃんともらえたとのことです」

多少の解説が必要だろう。

中国では表向きAVが禁止であるためか、日本以上に個人撮影が多い。そうしたアングラポルノの中で、なぜか根強い人気があるのが、意識を失った女性に性的な行為をする(「迷姦」)動画だ。

そして近年、一部の中国人マニアが札ビラを切って、日本国内でリアルな迷姦動画を撮影するようになった。

彼らにはインバウンド客も多く、日本語ができないため、在日中国人の仲介業者が女性を紹介することになる。

撮影の価格について、広沢氏はこう話す。

「まず、性行為自体の対価が5万円で、動画を撮りたい場合は30万~40万円のチップを上乗せ。麻酔薬を含めた薬物を使用したい場合は、さらにプラス10万円が相場だと聞いています。相手のカネ払いがいいので、進んで応じる日本人女性もいるようです」

撮影済みの動画は、マニア向けに販売も行なわれる。『テレグラム』(秘匿性の高い情報アプリ)の迷姦コミュニティに短いサンプル動画が投稿され、購入希望者が投稿者に連絡、仮想通貨などで支払うケースが多いという。

テレグラムの中国人マニア向けのグループで流れている迷姦動画。昏睡した日本人女性に性器を突きつける様子が映っている。日本国内で撮影されたもよう
テレグラムの中国人マニア向けのグループで流れている迷姦動画。昏睡した日本人女性に性器を突きつける様子が映っている。日本国内で撮影されたもよう

実際に、テレグラム内で探してみると、明らかに日本人らしき女性に謎の気体を吸わせ、失神させて性的な行為におよぶ中国系の迷姦動画がすぐに見つかった。

ウェブ上で同様の動画をよく見かけるという、日本の同人AV業界の関係者は話す。

「最近の迷姦動画では、セボフルラン(七氟醚)という吸入麻酔薬が人気です。一応は合意の上ながら、意識がない女性の身体に中国語で落書きするなど、やりたい放題ですよ」

セボフルランは本来、医療用の全身麻酔薬だ。医師の厳重な管理の下での使用が定められ、患者が窒息しないための気道確保が必要となる。当然、素人が勝手に扱えば医師法違反。何より非常に危険だ。 

事実、最近の中国では病院から横流しされるなどしたセボフルランの乱用が社会問題化している。一昨年の2月には、南部の広東省佛山市で、迷姦の被害に遭ったとみられる23歳の女性の死亡事故も起きた。

中国国内から危ない薬物が持ち込まれ、日本人の女性を使ったマニアの動画撮影に使われているのだ。

■大量の「痴漢動画」を日本で撮影

日本を拠点にした、中国人によるアブノーマルな動画制作の例はほかにもある。それは痴漢動画だ。

「2021年初頭から、中国人留学生らのグループが、日本や中国などで行なった痴漢を自ら撮影して、その動画をネットで販売するようになりました」

そう話すのは、過去にこのグループと近い関係にあった中国人男性・李氏(仮名、20代)だ。

グループの中心は、福建省出身の臧新宇(31歳)という人物だった。当時、臧は日本で音楽活動をしており、バンドの資金難と本人の趣味から、仲間と動画の販売を始めたという。これにIT技術者の湯卓然(27歳)らが加わり、グループが結成された。李氏は言う。

「当初はテレグラムの痴漢愛好者のコミュニティで販売して、1日2万円程度の稼ぎ。しかし、やがて湯の技術で『痴漢倶楽部』など3つの中国語サイトを開設し、最盛期には1年間で約8000万円の売り上げがありました。年5000円ほどの会費で、万単位の会員がいたんです。会員はほぼ中国人でした」

カネができたことで、さらなる「投資」が行なわれた。中国国内でアルバイトを10人ほど雇って大量の痴漢動画を撮影させ、1本当たり数千円で買い取ることで配信動画の本数を増やしたのだ。

『痴漢倶楽部』のウェブサイト。現在も定期的に更新が行なわれている
『痴漢倶楽部』のウェブサイト。現在も定期的に更新が行なわれている

一方、痴漢の摘発が厳しい日本での撮影は、サクラの女性が多く使われた。彼女らの調達の経緯は、日本国内における迷姦動画の出演者の調達とよく似ている。

「臧や湯の友人に、池袋で在日中国人向けのデリヘルを経営するチャイニーズマフィアがいます。彼がひとり当たり数万円の報酬で、日本人や中国人の若い女性をスカウトしました。池袋駅や都内のデパートのエレベーター内などで、何度も撮影が実施されています」(李氏)

ただ、被写体の全員がサクラだったわけではなく、〝素人〟の日本人女性を痴漢・盗撮した例もあったという。

最終的にサイトにアップされた動画の本数は5000本を超えた。その内訳は7割ほどが中国、残り3割が日本国内で撮影されたものだという(ほかに韓国やタイなど第三国のものが少数)。

ちなみに、この痴漢動画グループの主要メンバーは刑事罰を受けておらず、BBCの報道が出た後で身を隠したという。ただ、サイトは現在も残っており、今日も「新作」が活発にアップロードされ続けている。

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まさにやりたい放題。中国人の欲望ネットワークは、ここまで日本に食い込んでいる。次回は日本国内に拠点を置く、中国人向け風俗店と日本人の従業員について深く伝えていきたい。

取材・文/安田峰俊

中華圏のAVプラットフォーム「麻豆」。主要な視聴者は中国国内の地方に住む男性たちとみられている