バーチャルタレント事務所・にじさんじによる人気企画『にじさんじ甲子園2024』が、2024年8月10日から12日にかけて開催された。

 本企画は、2024年7月に発売された『eBASEBALLパワフルプロ野球2024(以下、パワプロ)』内のゲームモード「栄冠ナイン」を3年間プレイし、にじさんじに所属するタレントを基にしたオリジナル選手を作成してチームづくりにはげみ、その後オリジナルチームとして戦わせようという大会である。

【画像】にじさんじ甲子園2024本戦各リーグの最終結果(ネタバレ注意)

 個人VTuberとして活動している天開司が2019年8月に開催した企画『Vtuber甲子園』を前身とした大会は、2020年に開始して今年で5回目を迎え、毎年大きな盛り上がりをみせてきた。今回は記録に残すという意味も込め、今大会についてまとめてみようと思う。

 まずは前段から振り返っていこう。2024年7月10日に『にじさんじ甲子園2024』がにじさんじ公式SNSから告知されると大きな反響を呼ぶことになった。理由としては、開催決定という事実だけではなく、発表された監督役になるタレントらの顔ぶれにあった。

 同企画に毎年参加していた椎名唯華を筆頭に、過去に出場していた小野町春香五十嵐梨花の3人が揃って出場することがアナウンスされた。だがその他の5人の出場メンバーは、叶、花畑チャイカエクス・アルビオ不破湊フレン・E・ルスタリオと、過去大会に出場した経験のない初参加の面々が並んだのだ。

 彼ら5人が人気タレントではあることはもちろん、ファンからすれば「まさか出場するとは」という意外すぎる選出に、まさに“サプライズ出場”といった格好となったのだ。

■個性の出るドラフト会議で大盛り上がり

 7月17日には、主催を務める舞元啓介天開司の2人とともにドラフト会議ならびにルール説明をおこなう配信がされた。約20万人もの視聴者が見守るなか、やはり注目されたのは150人以上の面々がどのチームへと割り振られるかが決まるドラフト会議であった。

 1~3巡目は入札制度(フリップを使って獲得希望選手を出し合い、かぶった場合はくじ引き)、4~7巡目はウェーバー制(順々に獲得希望選手をあげて獲得)、8巡目以降はルーレットにて決定する形で進んだ。

 事前に「うちの高校はこうしたい」と選手選びに一定の方針をもたせる高校もあった。昨年でいえば、ニュイ・ソシエールの勇者育成高校がわかりやすい例だろう。ニュイはファンタジー要素・RPG要素が強めのメンバーを選んだと話しており、英雄、魔王、悪魔、エルフ、女神など高校名に似合うメンバーをドラフト指名していた。

 そして今大会も各監督がさまざまな狙いを持ってドラフトを進めていったわけだが、ドラフト前の情報戦では社築の指名がささやかれる中、8チーム各々がそれぞれ1位を指名。その後2位、3位と順々に指名していくと、すこしずつ狙いがハッキリとしていくことになった。

 1位指名には、これまでの過去4回大会とおなじように人気のあるメンバーに集中した。誤解がないように補足しておくが、ここでいう「人気」というのは、見ているリスナー側の体感やチャンネル登録者数に依った人気というよりも、出場する監督陣たちからみての評価・期待の部分が大きい。端的に言えば、親しい仲でイジりやすいメンバーが選ばれやすいということだ。

 「仲が良くてイジりやすい」面々を選んでいったのは、椎名唯華花畑チャイカの2人。椎名が社、魔界ノりりむ卯月コウと指名すると、花畑はリゼ・ヘルエスタ加賀美ハヤト、石神のぞみと獲得していく。その後花畑は加賀美と同期である夜見れな葉加瀬冬雪を指名し、加賀美・夜見・葉加瀬の同期トリオ・SMC組をチームに組み込むことに成功。ファンの期待に応えた。

 また叶も仲が良い面々を選んでおり、葛葉、剣持刀也レオス・ヴィンセントと、これまでの活動で関係の深い3人をドラフトで指名した。さらにウェーバー指名では伏見ガクを指名したことで、叶&葛葉のChroNoiR、剣持&伏見の咎人、4人揃った「咎ノワール」がチームに集まることになったのだ。

 ChroNoiR、咎人、SMC組はファンにとっても非常に人気を集めるグループであり、これまでの数年にわたって「いつか1つのチームに集まるだろうか」と注目されていたわけだが、まさかこの1年で一気に集まるとは。これには女性ファンを中心にSNSで大きな反響があった。

 この流れで狙い通りと行かなくなったのがフレン。同期であるイブラヒムを指名するもくじ引きの末に外してしまい、自身の推し戌亥とこを1位で指名した。

 彼女の同期であるさんばか、4位指名した鷹宮リオンと自身が関わる▽▲TRiNITY▲▽の集結を狙うも、それぞれ別チームに取られたことで阻まれてしまった。

 だがその後に町田ちまを指名し、戌亥・町田によるボーカルユニット・Nornisをチームに集めることができた。

 レインボール高校の小野町は月ノ美兎樋口楓かえみとコンビを筆頭に、2人との関わりが深くなりつつある壱百満天原サロメ、『にじさんじフェス2023』でダンスを披露した神田笑一&ヤン ナリによるかみなりコンビ、「ふみ」という言葉繋がりでコラボしてきた文野環&フミによるふみのとふみを獲得。

 さらに神田とフミはビジュアルを手掛けているイラストレーター(ママ)が一緒であり、VTuber業界でいえば“兄妹関係”にあたる。結果を見れば、小野町のドラフトは関わりや繋がりを意識したドラフトになった。

 五十嵐もこの方向性にあわせ、自身にとってあこがれの先輩である本間ひまわりを1位に指名し、本間の同期である笹木を2番目に指名。3番目に指名したのが周央サンゴだったのだが、じつは五十嵐は「デビュー前からの友達だった」と初出し情報を明かし、集まった監督・視聴者を驚かせた。

 どのチームもかなり細かく同期組・ユニット・グループを意識していたなかで、直近で催されていた『にじさんじGTA』からの縁もかなり関わっていた。

 五十嵐は自身が同企画で共にギャングとして活動していたラトナ・プティミラン・ケストレル、星導ショウ、叢雲カゲツらギャング仲間を一気に指名。叶も同企画で気に入っていた魁星を“ぜってぇ助けてやるからな枠”として選び、遊び心を見せてくれた。

 今回のドラフトの中でも、特にコンセプトが前面に表われていたのが英雄高校を率いるエクスの選出だった。1位にはイブラヒム、2位にローレン・イロアス、3位にはアルス・アルマルと仲が良く関係の深い3人を選ぶと、「英雄アカデミー高校」という名前のとおり英雄(≒ヒーロー)として、「ヒーロー」をプロフィールにしている新人のOriens4人を順々に獲得していった。

 その後のルーレット選出では、佐伯イッテツ、北見遊征とVTAを中心にした2023年以降デビューの男性陣がズラリと並び、『にじさんじGTA』でエクスと繋がりが深かった警察組の多くが結集。

 それにくわえて、異世界RPG感の強いメンバーが偶然にも揃っていき、昨年のニュイに似た「ファンタジー系異世界」なメンバーも揃うことに。「長きに渡って仲が良い」「プロフィールでシナジーがある」「直近で親しくしていた」という3つの軸が揃ったのだ。

 ちなみにニュイは昨年エクスを英雄としてチームの核に据えていたが、ルーレットを通してニュイが選出され、昨年からの繋がりが偶然にも表現されることになった。

 このルーレットによる選手選出が今回は冴えに冴えており、エクスのチーム同様に叶のチームには『にじさんじGTA』で仲良くなった栞葉るりと鏑木ろこコンビが選出されつつ、鏑木と関係の深い海妹四葉、セラフ・ダズルガーデン、風楽奏斗とVTAのメンバーが大集合。

 フレンのチームには女性メンバーが大量に選ばれ、長尾景ましろ爻、浮奇・ヴィオレタ、クロードクローマーク以外のメンバー17人が女性という結果に。メンバーも星川、鷹宮、山神カルタ奈羅花天宮こころイ・ロハといった明るくてギャルな面々から、戌亥、町田、天ヶ瀬むゆ、物述有栖ドーラといった物腰柔らかで落ち着きある面々と、非常に色濃くバラエティ豊かなメンバーが揃った。

 エクスと同じく監督自身の狙いに沿った選出が特徴的だったのは、不破湊のギラギラホスト高校。不破自身がホストをバックグラウンドに持っているということで、ホストらしい美麗な男性陣を選んでいった。

 1位指名には主催かつアラサー舞元啓介を選んで和ませつつも、三枝明那、渡会雲雀、小柳ロウ、榊ネス、ルカ・カネシロ、甲斐田晴と女性人気の高い面々を次々と選出。

 ルーレットでは早瀬走、来栖夏芽魔使マオソフィアヴァレンタインらが選ばれたのだが、この面々は『にじさんじGTA』のキャバクラと何かと縁のあった面々でもあり、ルーレットのイタズラだったとしか言いようがない。

 こういったチームメンバー選び・色付けによって、二次創作イラストが非常に多く投稿されたことも、今大会の特徴的な出来事だった。ホストのようにギラついた男性陣、ファンタジー要素のつよい面々が一同に介した集合絵、「この人のこういう服装はピタリと合うのでは?」というモノまで、多彩なファンアートが生まれたのだった。

■抱腹絶倒待ったなし 見どころたっぷりの育成配信

 『にじさんじ甲子園』は今回含めて過去5回開催されているが、その盛り上がりのコアとなるのが、育成配信を通して徐々に選手たちが強化されていくチーム作りにある。

 3年縛りのあいだで各選手の育成を進め、勝利を目指してチーム作りしていく流れは、いわば一本道のすごろくといえるもの。練習カードに即した練習とマス毎に割り振られたイベントを通し、様々なステータスを増強させていくのだが、ここで各監督の「配信内容のエッジさ・面白さ」が光る。

 ひとコマひとコマに何かしらのイベントが行われるので、まいどまいど起こるイベントにタレントらが関われば、それだけで面白みが増してくる。「実況パワフルプロ野球」シリーズを知っていようがいまいが関係なく盛り上がれるという寸法だ。いくつかのエピソードを振り返っていこう。

■性格がコロコロと変化する北見遊征

 『パワプロ』の本モードでは各選手には性格が設定されており、ごくふつう、熱血漢、クール、お調子もの、内気など8つに分けられ、これが能力の成長そのものにも影響してくる。そのため育成方針やポジションに沿った性格であることが理想なのだが、この企画においては、「選手本人とタレント本人の性格が合っていないと違和感を覚える」という別個の悩みも生まれ、それがキッカケとなりいくつかの面白シーンを生み出していった。

 エクスが監督を務める英雄アカデミー高校に入った新人・北見遊征は、自己紹介で「クールガイ」と名乗っており、「なら性格はクールじゃないと」ということで選手名を「北見COOLGUY」に設定して育てていくことに。

 「性格がクールじゃなくなるってなったら面白いんだけどな」とエクスが話すなか、入部して1ヶ月ほどで「先輩の影響を受けて性格が変わる」イベントに2回連続で北見が出くわすことに。

 まさか話題にしてすぐにイベントが起こるとはと、おもわずエクスも視聴者も笑いに包まれる。最初は断ったものの、2度目のイベントでは「先輩の性格がクールだからクールになる」というコメントを読み、性格を変えることに。「ごくふつう」からまごうことなき「クールな北見」へと変わったのだ。

 しかし、この数日後には、チーム事情もあり三たび性格が変わることに。クールからお調子者へと変わり、ごくふつう→クール→お調子者と性格がコロコロと代わっていく北見に、エクスやリスナーは大笑い。本大会でもたびたび実況・解説のネタになるほどであった。

 ちなみに、じつはちょうど同じ時間帯に北見本人は誕生日配信の真っ最中だった。被り物にハッピーバースデーメガネを着用しており、まさに浮かれ気分のお調子者状態であったことは覚えておきたい。

■前回王者が見せた絶望からの大躍進

 選手ドラフト時には「親しい仲でイジりやすいメンバーが選ばれやすい」と先に書いたが、その理由としては、親しい選手を選んでおくと何かと話題やネタにしやすく配信を盛り上げやすいという一面がある。配信者・ストリーマーである監督陣にとって、「配信を盛り上げる」ことは「チームを強くする」のと同じくらいに必須となってくる。

 だからこそ、仲の良いタレントを揃えつつ、適度に選手(タレント)をイジって笑わそうとする。これはこれまでの過去企画でも行われてきた、いわば本企画におけるスタンダードなスタイルだ。

 椎名と花畑は、この流れを一番に汲んだ典型であったのはいうまでもない。昨年優勝を果たした椎名は、今回8人の監督の中で先陣を切って配信を始めたひとりだが、本育成ではかなり苦戦を強いられることになってしまった。

 初年度から社・りりむ・卯月を新入生として育成し、育成の進捗一つ一つに「おぉー!伸びたぁー!」と喜ぶ椎名だが、1年目の練習試合・夏大会からとんでもない乱打戦に巻き込まれ「なんやねんこれぇ!?」と悲鳴をあげる。止まらぬ相手の攻撃に「え? どうすればええのこれ?」と困惑した表情を浮かべていた。

 思い通りに進まぬ展開に「おぉい! おまえぇ!?」などと例年以上に掠れ気味な叫び声をあげ、「このカロリー消費量はヤバイ! 本戦のとき、ガリガリになってる!」と語る椎名。前作までのCPUではしてこなかったであろう攻撃・打撃に「そっちがするんじゃないよ!(相手バッターのホームランシーンを見て)」と名言を吐いた。

 今回大きく仕様が変わった「栄冠ナイン」に四苦八苦し、2年目の秋大会まですべて1回戦敗退という状態に。それでもなお彼女が明るく配信をできたのは、先にも書いたようにイジりやすい面々をメンバーに加えていたからだ。

 ここ1年ほどにわたってイジっている「やししぃ」ネタをつかいながら、気心知れたりりむ&卯月のおりコウを指名し、ドラフト直前・途中には「社への愛情」「私たちには子供がいる」と、ギア全開でコントをしていた。

 1年目・秋大会時に前評判(勝利期待度)Dとなった相手チームを見て、思わず「無理だよ、無理すぎる無理」と思わず口走ってしまうほどの状況で彼女が見出したのは、「青特殊能力を選手にたくさんつける」という育成法だった。

 育成を通じて本屋(特殊能力を獲得できるアイテムを持ってきてくれるOB)が3人も生まれるという幸運に恵まれ、本屋から次々と特殊能力をもらえる本を入手。本を読むためには選手個々人の学力を高める必要があるため、折を見て学力があげられそうなタイミングで勉強をするようになり、「いやうちはやっぱ、頭良くないとぉ~」とイジるようになった。

 こういった経緯もあり、チーム全員がにじさんじの面々となる2年目7月以降、特殊能力がゲットできる合宿期間や特訓マスを踏んだときには、「頼むぅ! ここ、ここで! お願いしやす!」とまさしく声が裏返る勢いで願ってみせ、これが功を奏したのかかなりの確率で特殊能力をゲットしていった。

 3年目・夏大会を迎える直前には、貯めに貯めていた本を一気に中心選手らに読ませて強化し、前年まで地方大会1回戦で敗退し続けていたチームを大躍進させたのだった。

 ステータスが高ければもちろん出来上がる選手は強いわけだが、特殊能力をたくさん積んで尖った選手を育成するのも「栄冠ナイン」の醍醐味のひとつ。椎名は今回の育成を通して、「それができれば苦労しないよ!」と思えてしまうほどの育成を体現してみせたと言えよう。

エッジの効きすぎたエンタメで実況解説にすら突っ込まれる花畑チャイカ

 「にじさんじレジスタンス」として椎名と長く付き合いのある花畑チャイカが本企画に参加するというのは、長くにじさんじを追いかけているファンであればあるほど驚きであったろう。

 茶目っ気と本音を交わらせる独特なトークに根強い支持があつまる花畑。そんな彼の出場に不安の声をあげていたのは、彼の先輩であり「にじさんじ甲子園」で何度も監督を経験していた樋口楓であった。

チャイちゃん野球じゃん! 頑張ってね。病んだら連絡してね? わたしは去年夜見に3回くらい泣きついたよ」

 会話の中で「周りがうまくいき過ぎると絶望しちゃうんだよ」「(ゲーム進行上)運要素が強い。だからしょうがないって割り切れる人が強い」と自身の経験を踏まえて振り返りつつ、花畑へのエールとして言葉を寄せていた。

 「チャイちゃん、ゲロ吐くほど泣くでしょ?」「いやそれは椎名だよ」と2人は冗談を言い合っていたが、ドラフトでは先述したように、リゼや加賀美、石神、夜見、葉加瀬、シスター・クレア北小路ヒスイと、花畑も話題に上げやすい面々をドラフトしていた。

 「俺が野球だ!」「このグラウンドを侵略するぅ!」とビッグマウスをたたいてから、すこし後にはブツブツと小言を吐くようにして話をすすめるいつものスタイルに加え、ドラフトした面々を使って1人コントをするという花畑らしい流れが生まれた。

 特に加賀美ハヤトを雑にモノマネしながら進行していく流れは、想像以上にリスナーに受け、花畑本人にとっても好ましかったようで、1度の配信内で何度も何度も擦っていくことに。

 しまいにはデビューしたばかりの動物系タレント・ルンルンをモチーフにした「ダークルンルン」というオリジナルキャラクターをマネージャーに据え、そのキャラメイクに数時間以上かけて育成が一切進まないなど、もはややりたい放題の様相であった。

 その様子をみた舞元・天開は、『にじさんじ甲子園2024』まとめ配信の中で「おまえもうそれをやりてぇだけじゃないか!」とツッコんでいたが、無理もない。花畑はこの企画には初参加であり、樋口から告げられたような強圧なプレッシャーを多少なりとも感じていたのかもしれない。

 花畑は育成自体8チームのなかでもかなり低調に終わってしまい、ゲーム内の勝敗や育成進捗だけでみれば気が滅入りそうになったはず。そういったなかで話題に上げやすい面々を選び、1年目から選手を育成しつつイジり、配信を盛り上げていったのだ。彼の配信者力の高さ・強さが詰まっていたといえよう。

■敵CPUが強すぎる? ゲーム自体の仕様変更も大きな影響を及ぼす

 例年からのドラフトと育成配信にくわえて、今年はいくつかの要素も本企画を盛り上げ、大きな影響を与えることになった。まずはオリジナル変化球である。

 今作の「栄冠ナイン」において初めて導入されたオリジナル変化球は、ベースとなる球種を選び、角度・変化・球速・ノビ・ブレーキ・キレ・重さ・エフェクトをうまく合わせることで、ユニークなオリジナル球種を作り出すことができるというものだ。

 この企画においては、「第一ストレートをオリジナル変化球にするのは禁止」「第二ストレートのオリジナル変化球はオッケー」とし、「盛り上がりを意識してエフェクトは必ずつけること」というお達しが各監督になされたよう。

 実際に使用できたのはあくまでゲーム進行中に偶然にも専用アイテムをゲットしたチームのみだったが、最終的には5チームがオリジナル変化球をゲット。剣持刀也が投げる「虚空ボール」、イブラヒムの「確 変」、月ノ美兎は「洗濯機スクリュー」(実際はフォーク)、笹木咲は「じゅぼぼぼール」、四季凪アキラは「BL×腐ォーク」と、個々人のバイオグラフィに沿ったボールが生み出されたのだった。

 また今回「栄冠ナイン」モードで避けて通れないのが、前作に比べて強化された敵CPUとの対戦であった。この件に関しては深く記すことはしないが、『eBASEBALLパワフルプロ野球2024』では敵CPUがかなり強くなったようで、あまりの変化に『にじさんじ甲子園』企画がスタートする前から同作ファンのなかで一気に話題となっていた。

 そんななかでまず先に動いたのは、今大会の監督ではなく、過去大会を経験した歴代の監督陣……イブラヒム、葛葉、レオス・ヴィンセント笹木咲の4人。以前の大会を経験していて今作にゲームとしてもかなり期待を寄せていた4人は、ファンの間で「『栄冠ナイン』の敵CPUが強すぎる」と話題になっていることを聞きつけ、早速プレイすることに。

 当初各々別々に配信を開いてプレイしており、イブラヒムと葛葉がソロ配信で、レオスと笹木が対戦企画ということでプレイしたのだが、その内容はなんともえげつないもの。あまりにも強くなった敵CPUに4人は戸惑いの表情を隠せず、配信中にもかかわらず急遽集まって「お前のところどうだった?」「どう打ってどう守った? 対策はあるのか?」と情報交換するほどであった。

 特にイブラヒムに関してはそのあとも数日にわたって『栄冠ナイン』をプレイしつづけた。結果、配信内では「呪い」「呪力」「呪術の核心」などのオリジナルワードが飛び出し、「イブラヒムの『栄冠ナイン』は呪術高専の座学」とまでSNSで言われるほどとなった。

 今年の大会参加者に初参加メンバーが5人もいたこともあり、決してゲームに慣れているわけではない。そのため、「育成配信や大会そのものがひどいものになるのではないか?」「そもそも今作自体がひどい評価になってしまうんじゃないのか?」という不安感、加えて彼自身のなかにある「強者を打ち倒したい」というゲーマー魂をも煽ったことで、彼は『栄冠ナイン』に“呪われた”かのようにプレイしたのだ。

 そんな彼らの企画開始前の先行プレイもあり、今回の大会参加者は育成配信をすぐには始めず、「まずはどのような内容か?」と配信外で何度となくプレイして勘を掴んでから実際の育成配信に臨むことになった。加えてこの先行プレイの内容がにじさんじファンの間である程度共有されたこともあり、「打たれても今作の敵CPU相手ならばしょうがない」という気持ちが生まれたのも、大きなポイントではないだろうか。

 ちなみに、今作をプレイしたプレイヤーから多数の声が多数寄せられたことをうけ、コナミは『栄冠ナイン』内のCPUレベルを下げることを含めた様々なアップデートをおこなうとを発表。7月25日にはお詫び文が発表される事態に発展することとなった。

 だがアップデートで弱くなったとしても、忘れることのできない強烈すぎるCPUの強さとそれによるゲーム展開。制作スタッフも意図したわけではないはずだが、衝撃的なまでの強さだったと記しておくべきだろう。

■育成配信の時点で白熱するシーンの連続 各校の育成配信振り返り

 『にじさんじ甲子園』は育成した自チームを率いて8人で対戦し合う企画であるが、こと育成配信において主眼に置かれるのは「相手チームをいかに打ち倒すか?」ということ。特に今回は凶悪すぎるCPUを相手にするということもあり、前回大会のような大会連覇など華々しい戦い・戦績を残すことが非常に困難なのは明らかだった。

「打たれても今作の敵CPU相手ならばしょうがない」

 先に筆者はこのように書いたわけだが、一言で言ってしまえば、これは「諦め」である。たしかに本作「栄冠ナイン」の敵CPUは、現実の野球ではありえないような打棒で自チームを脅かしてくる。

 だがいかなる相手であっても、なすすべなく敗着するのはどうしたって悔しいもの。なによりにじさんじといえば、ゲームに一家言あるような生粋のゲーマーばかり。先行していた4人からの灯火を受けとるようにして、8人の監督が「打倒・凶悪CPU」という名のミッションに果敢に挑戦していった。

 まず1年目となる初年度夏大会において、フレン五十嵐が先輩選手を含めた新チームで準決勝まで勝ち上がった。特にフレンに関して言えば、準々決勝で総合戦力Aという格上チームを相手取って勝ちきり、初参加とは思えない手腕を見せた。

 前回大会に参加していた五十嵐も、打者・投手へ冷静に指示を飛ばしつづけ、CPUからの反撃を退け続けて準決勝へと駒を進めた。しかも五十嵐の場合、3試合とも先制を許してリードされた展開からの逆転勝利であり、喜びもひとしおであった。

 3年目の夏大会。フレンは1回戦敗退、五十嵐甲子園出場。明暗はキッパリと分かれてしまったが、個々の選手ステータスが一回りも二回りも格上相手に、ひとつの手札を切ることに数分以上の思考をかけ、細すぎる勝利への線を手繰り寄せていった。1試合に1時間以上かけて一進一退の攻防を制し、奇跡のような昂ぶりを生み出したのだった。

 また初参加した叶は、自身のTwitchチャンネルで「試走配信」をこなしつづけた。「他の監督と違って『練習配信』と銘打って栄冠ナインをバシバシやっているのが新鮮です」とコメントが流れると、彼は「なんか『にじ甲』の伝統を壊してないか心配だね」「でも、試走しちゃいけないっていうルールないしね」と彼らしい言葉を続けていたのが印象的だった。

 昨年大会でもあったが、配信外で練習を兼ねてプレイする監督が増えたりなどして、いち企画のためとはいえ配信する時間が削られるというと、見る側であるファンとしてはすこく複雑な心境になるだろう。

 そんなファンの心境を見越しつつ、練習する姿すらも配信に載せるというあたりに、彼独特の配信者らしさ、矜持を見ることができた。事実「たくさん試走がみれてうれしい」というファンの書き込みが多くあったほどだ。

 そうして彼が試走を繰り返したのは約1週間、ゲーム内の時間に換算してじつに20年ものプレイを経て育成配信に臨んだのだが、育成する選手の引きが悪く序盤はかなり苦しんだものの、3年目の夏大会には決勝へと進出した。甲子園大会出場までとはならなかったが、試走配信から育成配信までの実に2週間近くをやりきった彼は一言、悔しさをにじませつつ「楽しかったぁ~!」と終えたのだった。

 さて、ここまで「オリジナル変化球」「凶悪すぎる敵CPU」について記してきたが、もっとも大きな新要素を書いていない。それは「転生選手の大幅な増加」である。

 現役プロ・引退OBが転生選手として登場するのはこれまでのシリーズにもあった要素だが、今回はなんと引退OBが400人を超えるということが既報としてあった。つまり「栄冠ナイン」でも彼ら転生選手を獲得できるチャンスはおのずと高まり、育成する自チームが強くなりやすい傾向になる。

 しかも以前からあった「入学前スカウト」(有力な選手を自チームに入学させやすくなる)において、今回からは転生選手を見つけることができるという新要素も含まれたことで、俄然転生選手を見つけやすくなったのだ。

 『にじさんじ甲子園2024』でもその傾向はかなり強く出ており、3回ある新入生の入学に転生選手を引くチームがいくつも現れた。特に顕著だったのは、不破とエクスのチームだ。

 エクスは3世代つづけて転生選手を引き、自チームに3人の転生選手を所属させることに成功。不破にいたってはエクスと同じく3世代つづいて転生選手を、しかも3年目には2人の転生選手を引き当てるという奇跡のような引きの良さをみせ、一気にチームを強化することに成功した。

 その影響もあり、これまで大会参加こそしていなかったものの自身の配信で何度も「栄冠ナイン」をプレイしていたエクスは、今作の凶悪なCPU相手にもうまく立ち回り、なんと2年目秋の地区大会を優勝。神宮大会ならびに春の甲子園に出場を決め、正念場となる3年目の夏大会でも県大会を優勝し、甲子園ベスト8まで勝ち進めたのだった。

 転生選手を4人揃えた不破も、3年夏の都道府県大会を優勝し、甲子園に進めると全参加チーム中最高順位準決勝まで進出。大会を最後まで勝ち抜いたこともあり、育成期間最終日のギリギリまで育成配信が延び、最後まで育成配信を続けた監督となったこともあり、6万人を超えるリスナーが不破の試合を観戦する大賑わいとなった。

 相手を見極めて選手の性格や固有戦術などをつかい丁寧に采配を振るう、学力をあげて本屋から特殊能力をゲットして育成を進める、強い転生選手を探し出すor引けるよう祈るなど、さまざまな育成・戦い方を見せながら敵CPUチームに勝利していった各校。

 結果、3年夏には5チームが甲子園に出場するほどとなり、リスナーたちや本人たちが想像していたような一方的な展開にはなりづらく、どこも強いチームができあがったと言えよう。もちろんこういった育成を「栄冠ナイン」モードで実際にできるかどうかは、プレイヤーの運勢が大きく関わってくるわけだが。

■昨年の雪辱を晴らし、みごとリベンジ達成 優勝を決めた私立梨海高校

 こうして迎えた8月10日・11日・12日と催された本大会は接戦かつ熱戦で、例年にも負けず劣らずのもりあがりをみせた。最終結果はこのような結果だ。

 Aリーグは、チームとして仕上がっていたエクスの英雄アカデミーに対してほか3チームが挑むような形になった。開幕戦となった五十嵐の私立梨海高校と叶の私立願ヶ丘高校の試合は、初回から私立梨海高校が6点を奪う猛攻で派手にスタート、7回コールドで試合を終えるという展開で本大会の幕を開けた。

 その後も1点差を競る接戦、打撃陣が畳み掛けてのコールドゲーム、逆転のサヨナラゲームと熱戦が続き、Aリーグ首位がかかった英雄アカデミーと私立梨海高校との試合も1点を競る好ゲームに。最終試合では五十嵐が育て上げた本間&笹木の投手リレーで抑えきり、私立梨海高校がみごとAリーグ首位突破を飾った。

 翌日に開催されたBリーグは、育成配信中で甲子園大会まで進出した3校と、地方大会でほとんど勝ち上がれなかった花畑チャイカの銀河立超チャイカ高校という3強1弱の構図と予想されていたが、開幕戦の結果がその後のリーグ結果を大きく左右することとなった。

 Bリーグの開幕戦となった椎名のにじさんじ高校と銀河立超チャイカ高校の2校の対戦は、なんと超チャイカ高校が4対3で勝利を収めて下剋上を達成。コラボユニット「にじさんじレジスタンス」として5年以上にわたって活動をともにしてきたこと、なにより盛り上げ上手な2人ということもあっての開幕戦だったのだが、ここで椎名が敗北したことで、その後に首位通過をするための得失点に大きく関わることに。

 最終的には、不破湊のギラギラホスト高校とにじさんじ高校が勝ち点差で並ぶも、得失点差1点の差でギラギラホスト高校が首位通過を決めたのだった。

 そして最終日に迎えた順位決定戦&決勝戦。

 フレンの帝国立ふれんず学園高校がチャイカ高校に勝利したことで、大会中全チームが1勝以上を収めるという結果となり、応援するファンの中には一安心したファンもいるだろう。

 スタミナ切れでも無理矢理に投げ続けさせられていた剣持刀也が、この順位決定戦で無四球完封完投勝利という大会唯一の記録を達成したり、5点差ビハインドの敗北目前の状況から9回表に一気に点差をつめる英雄アカデミーの猛攻、フレンチャイカによる新人タレント・ルンルンの奪い合い(?)など、見どころがさまざまにあった順位決定戦。

 決勝戦となった私立梨海高校とギラギラホスト高校は、序盤に3点をもぎとった私立梨海高校が、自慢の本間―笹木の“ござやよ”リレーでギラギラホスト高校の反撃をピシャリと抑えきって、初優勝を飾った。

 昨年初参加した際には10チーム中9位、リーグ戦未勝利という悔しい結果に終わっており、雪辱を期するために並々ならぬ気持ちで今大会を迎えていた五十嵐。育成配信スタート直前に自身のチャンネルで「リベンジゲーム」の歌動画が公開されたのが何よりもの証拠。文字通りの「リベンジ達成」を果たしたのだった。

 ゲーム内では熾烈な対戦が進んでいるなかで、舞元・天開コンビに実況の田中アナウンサーにゲストによる実況解説、対戦監督同士での煽りあい、さらに後ろで対戦を見守っている他チームの監督同士と、さまざまなトークが展開され、とにかくガヤガヤとゲームを一緒に見て楽しむというのが本大会のムードで、途切れず進む濃密な内容は非常に楽しめた。

 原稿執筆時点では、8月25日エキシビションマッチが残るのみ。最後まで『にじさんじ甲子園2024』を楽しみたいところだ。

(文=草野虹)

動画サムネイルより