8月21日から23日にかけて、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」が行われた。本記事では、23日に行われたセッション「ゲーム開発過去資料の保存の最前線を語ろう!」のレポートをお届けする。
本セッションは、モデレーターをスクウェア・エニックスの三宅 陽一郎氏が務め、株式会社カプコンの牧野 泰之氏、株式会社タイトーの外山 雄一氏、株式会社セガの奥成 洋輔氏とともに、それぞれの立場におけるゲーム開発過去資料の保存と活用について報告しディスカッションを行った。
セッション前半は、ゲーム開発資料の保存とその活用事例について各社の取り組みを紹介し、後半は共通のテーマをもとにパネルディスカッションをするという内容であった。
各企業が「過去のゲームタイトルをきちんと保存しよう」という認識に至るまでにどのような動きがあったのか、ゲーム開発会社にしか遺されていない過去のゲーム開発資料が現在どのように保管されているかが語れていた。
そして本講演では、そもそも開発資料の保存にどのような意義があるのかを、実際の活用方法を交えて紹介されている。
特にゲームの復刻やビデオゲームの展示、復刻グッズなどに関心がある方は、ぜひ最後まで読んで頂ければ幸いだ。
CEDEC2024 公式サイトはこちら三宅 陽一郎氏のXアカウントはこちら外山 雄一氏のXアカウントはこちら奥成 洋輔氏のXアカウントはこちら「 CAPCOM VS. 手塚治虫キャラクターズ -テヅカプファイティングユニバース2-」の公式サイトはこちら未来の開発に繋げるために過去の資料を整理する。各社でのゲーム開発資料保存活動が発足するまでの流れ・活用法
スクウェア・エニックスでは、研究に必要な資料を探すために旧エニックスのアナログ資料を調査していたところ、「貴重なゲーム開発資料のビデオテープ」「アニメーションのコンテ」など開発者にとって宝の山といえる資料が見つかった。
これを発端に、開発資料を保存するSAVEプロジェクトが2020年春に発足したという。
その際、ただ保存するのではなく“会社の財産”として遺すことで、ゲームタイトルのリマスターなどに活用できたり、新人に対する教育的資料に活用できたりすると三宅氏は語った。
いっぽう、カプコンは過去の資産を“デジタル化”し、未来へと繋いでいくために「CIAS」というシステムを作って保存活動を行っているという。
またこの活動は、ライセンスビジネスや移植タイトルのプロモーションを円滑に行うことが目的とされている。実際にブラウザで閲覧・検索ができ、使いたい画像などのアイテムをカートに入れる。カートにいれたアイテムを請求すると、その画像の許諾権利を持つ人物に連絡がされるという、まるで“お買い物”のように便利なシステムだ。
カプコンの牧野氏は、『ストリートファイター』キャラクターのドット絵を使いたいという連絡や、『逆転裁判』でよく見られる「待った!」「意義あり!」の画像を使ったグッズを作りたいといった連絡が多いと語った。
タイトーは、“復刻化ビジネス”というかたちで過去の資料を整理し、商品化している。この事業のきっかけとしては、2004年にアーケードゲームを収録したゲーム『タイトーメモリーズ』のために、過去資料を整理したことであるそうだ。
しかし、タイトーは今までの長い歴史の中で開発拠点が何度か変わっている。これによって開発資料の保存場所もあちこちに移動していた。タイトーの外山氏は、会社の体制変更や事業所の移転のタイミングで資料が廃棄されてしまう機会が生まれるほかに、ゲームの開発担当者が退職したことで資料が紛失してしまうというケースがあると語った。
セガでは、筐体・ハード・ゲームソフトなどを各部門または個人が個別で管理していたという。また、開発部門においてはタイトーと同じように会社の分割・統合による移動や引っ越しで廃棄された資料もあったとのこと。セガでは、これらの資料を少しずつ明確に管理をしようという想いの元、2023年に保存活動プロジェクトが始まった。
さらにセガの奥成氏は、開発資料の保管状態が非常に悪かったため、温度・湿度・ほこりなどの面でより保管に適している場所へ移動することも行ったと語っていた。
アナログ資料を写真に撮ってリスト化したりスキャンしてデジタル化したり……地道な作業で資産を遺す
ゲームの開発資料が保管された倉庫は、どの会社も大量のダンボールが詰まれていた。このダンボールの中には「原画」「ポスター」「手書きの企画書」「ラフスケッチ」などゲーム開発会社にしかない1点物のお宝たちが眠っているのだ。
このダンボールの中から貴重な資料を見つけ出すことは、まさに“お宝さがし”だ。しかし実際のゲーム開発資料の保存作業はとてもアナログで地道な作業ばかりだった。
スクウェア・エニックスでは、ダンボールから中身をすべて取り出して確認し、ひとつずつ写真に撮っていく。戻す際は、中身の全体写真を同梱する。その後“どこに何があるか”のリストを作成する。
タイトーでも同じようにどのダンボールに何が入っているかは分かる状態になっている。また、タイトーには店舗での稼働を終えたアーケードゲームの基板も保管されているという。
そのほか、古い資料にはマイクロフィルム化されている物もあり、ここから当時の資料を取り出したケースもあるとのこと。
カプコンでは、デジタル化する場合は、スキャンした後に色調補正等を行い、データとしてクリーンアップ作業もしているという。
なお、デジタル化に関しては、各社で保存されている資料が膨大であることなどを理由に達成しきれていない面もあるようだ。だが、どの会社も今後デジタル化を行っていきたいと語っていた。
セガに保管されていた紙のイラストやパッケージといった印刷物は、セガが家庭用ゲーム機を販売する会社であったことから、数百から数千にのぼるという。現在はこれらをスキャンし全てデジタル化する活動を進めているという。
そのほかセガでは、同社が販売していたハードや欧米版ソフトなども保管している。近年では『劇場版 龍が如く』の原版フィルムの保管依頼もあったと奥成氏は述べた。
保存した資料の活用例。グッズ化や展示、復刻におけるメリット
カプコンのように、このような開発資料をデジタル化して保存することで、アーケードゲームを移植する際にもロゴやキャラクター画像をサッと出せるようになる。企画書は雑誌の企画で特集がされたときに載せることができる。
カプコンでは、ユニクロと『ストリートファイター2』がコラボしたTシャツが販売され、『ストリートファイター2』の企画書をデザインするというユニークな商品が登場していた。
このほかの開発資料の実例として、2023年8月24日に行われたタイトー70周年イベントでは「レトロ筐体 AM機械 展示会」が実施された。このイベントでは1996年に稼働した『電車でGO!』、1972年に稼働した『スピードランナー』などの筐体が実際に並んでいた。
セガでもアーケードゲームの筐体展示や過去のゲームタイトルの復刻が行われているほか、オリジナルを忠実に再現した『メガ ドライブ ミニ』シリーズといったゲーム機の復刻が実施されている。
さらに、自社の歴史を財産として保存することでさまざまなイベントで展示を行うことが可能になっている。このような展示は日本国内のみならず、海外でも行われているという。スクウェア・エニックスが公開した論文などは英語に翻訳され、多くの人が読めるようになっている。
スクウェア・エニックスの三宅氏は最後に、過去のゲーム開発資料の保存活動は古くさい印象があるかもしれないが、過去を辿っていくと未来の開発につながっていき、現在の開発の位置を知ることができると語った。
ゲーム開発資料の保存活動は「捨てないでくれ」という執念を持った人間がいたから継続されてきた。現在生まれている金銭的・文化的利益とは
セッションも後半になり、各社はこの保存活動を「なぜ継続できているか」「会社の利益に貢献しているのか」「保存活動を行っていて良かったこと」をテーマにディスカッションを行った。
「なぜ継続できているか」について、カプコンの牧野氏は、社内で“いい物なのに”捨てられそうな物を「捨てないでくれ」という執念を持った人間がいることがひとつの理由だと述べた。
セガの奥成氏も、同じように過去の資料を捨てようとする会社に抵抗していた人間がいたと語った。また、現在ではこの執念が実を結び、グッズ展開や雑誌展開において“情報量の濃さ”につながっているという。
タイトーの外山氏も、過去の人間が自社IPを保存していたからこそ、現在グッズ展開などで利益を生むことができるとコメントした。
スクウェア・エニックスでは、まず保存活動をプロジェクト化することで社内認知を図ったという。三宅氏はこれにより、「社内で捨てられそうになった物を回収する」という流れがだんだん生まれていったそうだ。
さらにディスカッションは、ゲーム開発資料の保存活動は文化的事業の側面もあるという話題になった。
スクウェア・エニックスの三宅氏は、論文の発表をしたりプレゼンをおこなったりと、“利益”というのは必ずしも金銭的な理由だけではなく、さまざまな形の成果でもあるとコメントしていた。また、この活動が続いているのは「他社がやっているから」という理由もあるという。
三宅氏は、自分と同じ保存活動を他社が行っていて、自分と同じような問題を抱えていることを知ると勇気づけられると語る。本セッションを行うことで、ゲーム産業全体にこの活動が広がり、ゲーム開発会社が持つ“それぞれのお宝”が遺されるべきだと考えを述べた。
その後、ゲーム開発資料の保存活動について社内での反応はどういったものか、という話題になった。
セガの奥成氏は、自分が表に出て活動を続けてきたことで社内から「資料を引き取ってほしい」と声がかかるようになったと述べた。
カプコンでは、小さくても一歩ずつ結果を出してきたことで、「見たよ」「あのTシャツ買ったよ」などの声に繋がっているとコメントしていた。また、牧野氏は「自分が幼き頃に遊んでいたゲームの原点が捨てられるなんてありえない!」「このお宝を自分と同じような他の人たちにも見てもらいたい!」という気持ちに社内外の方々も賛同してくれるようになったという。
これに続いてスクウェア・エニックスの三宅氏も、ゲーム開発資料の保存・公開をすることは「ファンの方々を大切にする」ということでもあると述べた。
セガでは、80年代から90年代にかけて「シリーズを続けるよりも新しいタイトルを出していこう」という流れがあったそうだ。のちに、外部からセガに入社してきたメンバーが増えてきたことで「もっと過去のコンテンツを大事にしていこう」という考えが広まったと奥成氏は語っていた。
タイトーでは、ゲーム開発資料の保存活動を行う中で、過去の開発者に話を聞くことが多いという。また、「このタイトルはこの人が担当していたんだ」と謎が解明されることもあるそうだ。
さらに外山氏は、開発資料は人が作っているもので、人間関係が一番大事であると述べた。過去の資料を調べる中で、“連絡が取れない”とまず資料の保存もできないからだ。
セガの奥成氏も、「このゲームについて調べたいけど誰に聞いたらいいか分からない」という連絡が20年ほど前から来るとコメントしていた。それから各社では、ゲームの担当者などの情報を「リスト化」するなど社内で分かるように整理されているのが理想だと意見を出し合っていた。
セッションの最後にはカプコンの牧野氏から面白いエピソードが聞けた。牧野氏の大先輩が、カプコンが2025年に開催する「大カプコン展」に向けてカプコンが所持する倉庫に向かった際『玻璃ノ薔薇』(ガラスのばら)というゲームの資料が入ったダンボールを発見した。そのダンボールを持ち帰って開けてみると、『モンスターハンター』初期の開発資料が大量に入っていたという。
牧野氏は当時『玻璃ノ薔薇』を知らなかったといい、大先輩の方が同作を知っていたことで今まで手付かずだったダンボールから思わぬ掘り出し物を発見したのだと語った。また、このような体験はまさに日常でお宝探しをする感覚とのことだった。
以上が「ゲーム開発過去資料の保存の最前線を語ろう!」講演のレポートとなる。現在に至るまでのゲーム開発資料は膨大な数であり、それを全て整理して保管しようとする動きがあることが分かっていただけたと思う。各社では将来的にこれらの資料をデジタル化し、未来のゲーム開発へ繋げようとしている。
皆さんも自分が小さかった頃に遊んだゲームについて思いを馳せ、「あのゲームをもう一度プレイしたいな〜」と考えたことはあるだろう。あわよくば「今持ってるハードに移植して発売されないかな……」と願ったこともあるのではないだろうか。
本講演を通して、こうした過去のゲームタイトルが復刻したり、企画書が展示されたりするのは、「ゲーム開発過去資料の保存」を各社が行ってくれているからだと再確認できたはずだ。
一ファンとしても、引き続き保存活動が実施され、過去作の復刻や技術・文化の継承が行われる未来に期待したい。
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