イタリア海軍が掲げる軍艦旗は、トリコロールカラーで構成されているため、国旗と同じように見えますが、実は中央に紋章が描かれています。盾のデザインで、内部はさらに4つの紋章が分割して配置されていますが、意味はあるのでしょうか。

かつて存在した海洋都市国家の紋章?

2024年8月、空母「カヴール」を始めとして、イタリア海軍のフリゲートや練習帆船が相次いで来日しました。同国海軍が掲げる軍艦旗は、トリコロールカラーのため一見すると国旗と同じもののように思えますが、よく見ると旗の白いストライプの中央部分に、王冠と盾がデザインされており、盾はさらにライオン十字架からなる4つの紋章が分割して描かれています。なぜ、国旗とは異なり紋章があるのか、またどのような意味があるのでしょうか。

そもそも軍艦は、船籍を示すために軍艦旗を掲げます。国旗と同じ旗を掲げる国も多いですが、日本やイギリスのように国旗とは別に、専用の軍艦旗を持つ海軍もあります。イタリア海軍もそのひとつです。

イタリア海軍の軍艦旗に描かれた紋章の意味についてですが、同国国防省のホームページによると、中央の紋章は左上がヴェネツィア共和国の国章に描かれた「聖マルコの獅子」の紋章で、ほかの3つに関しては、右上がジェノヴァ共和国(白地に赤十字)、左下がアマルフィ公国(青地に白のマルタ十字)、右下がピサ共和国(赤地に12使徒を示す珠の付いた白十字)の紋章であるとのことです。どの国も中世に、ヨーロッパ域内で大きな影響力を持ったイタリア半島の海洋都市国家であり、今日のイタリアイタリア共和国)の源流となった国々だといえるでしょう。

国旗が軍艦旗だと不都合が

この軍艦旗は1947年に定められたそうです。それ以前のイタリア王国の国旗では、王族のサヴォイア家の紋章が三色旗の中央に描かれており、軍艦旗も同じものを使用していました。しかし、第二次世界大戦後、国民投票によって王政が廃止された際に、国旗に関しては中央の紋章が削除されています。

当初は軍艦旗も、中央になにもない国旗と同じものが使用されていましたが、国旗のままだとメキシコの商船旗とデザインで混同する恐れがあったことから、イタリアの海洋都市国家の紋章を合わせた意匠を中央に配置した現用のデザインになったと、イタリア国防省は説明しています。

ヨーロッパでは古代のローマ帝国が滅亡した後、常備海軍が消滅しており、ローマ亡き後の中世で王侯貴族が遠征しようと大量の兵員や物資の海上輸送を行う場合は、海運で国が成り立っている海洋都市国家か、その船を襲うことで利益を得ている海賊に頼むしかありませんでした。

全盛期の時期はそれぞれ異なりますが、その常備海軍を持つ強国が少なかった時代に、栄華を誇ったのが、旗に描かれた4つの都市国家でした。イタリアが昔から海に強い国家であったことを示すにはこれ以上ない紋章といえるのかもしれません。

風にはためくイタリア海軍の軍艦旗(画像:イタリア海軍)。