ニュースで各地の台風被害を耳にすると、自分たちの対策を見直すかもしれません。
近所で誰かの悲鳴が上がると、それを聞く私たちはとっさに身構えます。
こうした傾向は、人間だけでなく植物にもあるようです。
最近、スイスのヌーシャテル大学(University of Neuchatel)に所属するパトリック・グロフティザ氏ら研究チームは、メキシコの混作(2種類以上の作物を同じ畑で同時に栽培する)にて、トウモロコシの悲鳴をマメが聞いていることを報告しました。
マメ科植物は、トウモロコシが害虫に襲われる時に放出する揮発性物質を感知し、それに応じて、害虫から自分たちを守るアリやスズメバチを引き寄せていると判明したのです。
研究の詳細は、アメリカ生態学会の年次総会「2024 ESA Annual Meeting」にて発表され、今後論文にも掲載される予定です。
メキシコの伝統農法「ミルパ」の秘密
メキシコや中央アメリカの一部の農家は、何千もの間、「ミルパ(Milpa)」と呼ばれる伝統農法を行ってきました。
これは、トウモロコシ、マメ(インゲン豆)、カボチャの3つを同じ畑で栽培することであり、そうすることで収穫量が増えると考えられてきました。
この農法で収穫量が上がるメカニズムが全て解明されたわけではありませんが、これまでの研究により、様々なメリットが明らかになっています。
例えば、トウモロコシの生育には窒素を多く必要としますが、連作すると土壌の窒素が少なくなり収穫量が落ちます。
しかし、近くにマメを植えると、マメが空気中の窒素分子を変換し、土壌に窒素を固定するため、トウモロコシの需要を満たしてくれます。
またカボチャのつると葉が地面を覆うことで、光を遮って雑草の成長をいくらか抑制したり、厚くて広い葉によって土壌を湿らすための水分を保持しやすくなったりします。
さらにマメは、背の高いトウモロコシの茎を登って、太陽を浴びる機会を得ています。
このように、既に判明している要素だけでも、伝統農法「ミルパ」が効果的であることが分かります。
そして今回、グロフティザ氏らの新しい研究では、この3種の相互関係のうち、トウモロコシとマメにおける新たなメリットを発見することができました。
トウモロコシは悲鳴を上げて助けを呼んでいる
研究チームは最初、実験用の畑で、「ミルパ農法」と「3種類の作物を別々に栽培すること」を比較しました。
その結果、ミルパ農法の方が、害虫からの被害が少ないことが明らかになりました。
この点をさらに詳しく調べるため、研究チームは、実験室でトウモロコシを栽培し、穀物を食べる害虫「アワヨトウ(学名:Mythimna unipuncta)」の幼虫に襲わせました。
そして、その際にトウモロコシから放出される揮発性物質を収集しました。
この揮発性物質の存在は昔から知られており、30種類の物質が含まれているようです。
これらの成分には、害虫アワヨトウに寄生するハチ「カリヤコマユバチ」を引き寄せる効果があります。
この寄生バチに卵を産み付けられたアワヨトウは、孵化した幼虫たちに内部から食べられてしまいます。
つまり、トウモロコシは自分が害虫に襲われると悲鳴を上げ、自分を守るための兵士を呼ぶことができるのです。
このことは以前から知られていましたが、研究チームは、このトウモロコシの悲鳴が近くに植えられているマメにも影響を与えることを新しく発見しました。
マメはトウモロコシの悲鳴を聞いている
研究チームは、実験室で収集したトウモロコシの揮発性物質をマメに与えると、マメが自分の防御を増強することを発見しました。
この反応は、実験室だけでなく、実際の畑でも同様でした。
具体的には、トウモロコシの揮発性物質を感知したマメが、自分の「花外蜜腺」の働きを増大させると分かりました。
花外蜜腺とは、花以外にある甘い蜜を出す腺のことで、この蜜でアリなどを誘引し、他の昆虫による食害を防ぐ役割を持っています。
マメの場合は、葉の下に小さな花外蜜腺を持っており、これで自分を守る兵士(アリやスズメバチ)を引き寄せることができます。
そして、トウモロコシの揮発性物質を感知したマメは、通常よりも蜜の量と糖分濃度を増すことで、一層多くの兵士を引き寄せます。
しかも引き寄せられたアリやスズメバチは、マメだけでなくトウモロコシを襲う害虫を食べることで、両方を守ります。
ちなみに、マメの花外蜜腺は、トウモロコシの悲鳴で引き寄せられる「寄生バチ」にも良い影響を及ぼすことも分かっています。
栄養豊富な蜜を食べた寄生バチは、通常の2倍近く長生きし、より多くの害虫たちを駆除していたのです。
今回の実験では、トウモロコシの悲鳴を聞いたマメが、いつも以上に多くの兵士を雇い、自分とトウモロコシを守らせると分かりました。
これが伝統農法「ミルパ」のメリットの1つであることを考えると、この農法の奥深さは計り知れません。
研究チームは、全ての植物の組み合わせが、同じようなメリットを産むわけでもないことも指摘しており、植物と昆虫にはまだまだ複雑な関係が隠されているようです。
そして彼らは、こうした謎の解明が「化学農薬の使用削減に役立つかもしれない」と述べています。
How the Three Sisters shrug off pests
https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.ads7686
The Three Sisters of Indigenous American Agriculture
https://www.nal.usda.gov/collections/stories/three-sisters
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
ナゾロジー 編集部
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