真夏のエンタメと言えば、お化け屋敷。常設のお化け屋敷は、遊園地に付属しているものが多いが、夏になると期間限定のものが増える。そんな、お化け屋敷の企画制作を生業とし、怪談本を書き、事故物件に住み続ける京都在住のCoco(ココ)さん(@coco_horror)。
いただいた真っ黒い名刺には、「ホラーの総合商社 京都オカルト商会 創業令和元年」とある。前回の記事では、主にその職業のあらましをうかがった。後編となる今回は、趣味と実益を兼ねた心霊スポット巡りについて話を聞いた。
◆500か所以上の心霊スポットを探訪
――これまで、何か所くらいの心霊スポットに行ったのですか?
Coco:北は北海道から南は九州まで500か所は超えていて、今年中には600か所行くかなっていうくらい行ってます。お気に入りのスポットは二度三度行くので、回数で言えば1000を超えています。
住んでいる京都から近い場所なら、1人で行きます。関西圏外への遠征だと、見知らぬ土地で何かあった場合、助けてくれる人がいないのは危険なので、2人で行くことが多いです。そのとき付き添うのは、お化け屋敷制作集団の京都オカルト商会のメンバーです。どこででも活動できる方なので、運転もお願いしたりとか助かっています。
◆なぜか何台もの警察車両が停まっていた
――ご著書の『おかるとらべる 365日ホラー旅』には、私の郷里である函館の心霊スポットも2か所紹介されていますね。立待(たちまち)岬は、昔から飛び降り自殺が多くて有名なのは知っています。心霊スポットでもあるのですね。
Coco:女性の霊が出没するとか、心霊写真が撮れるといった話は、たくさんあります。近くに大きな墓地があって、霊道もあるのではといわれます。
私が行ったときは、幽霊は見えませんでしたが、何台かの警察車両が停まっていました。通行禁止になっている崖の方から警察官たちが深刻な顔で降りてきて、何か話し合っていました。もしかすると自殺があったのではないかと思いました。
◆真夜中に行って祟る岩に触る
――もう1つのビビリ神社は初耳です。私もかなり前、地元の心霊スポット巡りをしましたが、この神社の存在は知りませんでした。
Coco:ビビリ神社は、最近になって心霊スポットとなったところかもしれません。正式な名称は、正一位石倉稲荷神社 奥の院です。奥の院というだけあって、住宅街から離れた寂しい場所にあります。
鳥居のそばに首が浮かんでいるとか、老婆や犬の霊が出没するなど、いろいろな怪奇現象が起こる場所のようです。また、本殿の傍らには大きな岩があって、触ると祟りがあるともいわれています。帰り道で事故に遭う、車窓に大量の手形がつくといったものです。
私は、冬の終わりの深夜にここを訪ねました。幽霊よりも恐ろしい、冬眠から目覚めたヒグマ対策として、熊避け鈴、おもちゃの火薬銃、熊撃退スプレーを持参しながらの探訪です。真っ暗な中で、真っ赤な鳥居と本殿が懐中電灯に照らされるさまは、いかにも恐そうでした。祟る岩に触ってきましたが、特に異変はありませんでした。
◆今でも祟るといわれる山城跡を深夜に…
――心霊スポット探訪は今年中に600か所目指されるとのことで、直近でどのエリアを訪ねましたか?
Coco:先日、お化け屋敷の仕事で熊本へ行きました。それが終わって、九州各地の心霊スポットを20か所近く訪ねました。例えば、佐賀県の「岸岳城跡」。豊臣秀吉に嵌められ、領地を取り上げられて滅亡した、波多家の山城跡です。この一番奥には、姫落としの岩があります。お姫様に辱めを受けさせまいと、一族が姫様を落として集団自刃したとか。
そのことがあって、ここへ来ると末孫(ばっそん)様の祟りがあると言われているそうです。この地域には、鬼子嶽(きしたけ)末孫之碑がちょこちょこあるのですが、今でも祟ると地元の人に恐れられているとか。
岸岳城は、以前は鬼子嶽城と呼ばれており、鬼が棲むとされるいわくつきの場所だったそうです。平安時代に、酒呑童子や茨木童子など妖怪を退治しまくっていた渡辺綱(わたなべのつな)の息子が、鬼子嶽城の鬼を退治したそうです。そして、その綱の息子の血縁が後の波多家だそうです。
鬼を退治した一族の末裔が、今度は幽鬼となってしまうというのは因果を感じて面白いかなと思います。ちなみに、城跡にあるおまん塚には皿屋敷のお話にそっくりな伝説も伝わっています。
私は城マニアでもあって、日本百名城や続日本百名城を巡っているので、山城にも慣れているのですけど……。日没後に登り始めて、戻ったのが深夜という、かなり過酷な場所でした。真っ暗ななか、一歩踏み外したら大怪我か死ぬかという場所ばかりなので、一瞬も油断できませんでした。鬼子嶽末孫之碑付近で重量感のある足音がこちらへ走ってくる足音が、数秒聞こえました。大きめなイノシシだったかもしれませんが……。
◆場所が場所だけに幽霊と間違われることも
――心霊スポットに行って、心霊体験をする以外のハプニングはありましたか?
Coco:自分が、他の人から幽霊だと思われたことはありますね。愛知県と静岡県の県境にまたがる旧本坂(きゅうほんざか)トンネルに、2人で行ったときのことです。そこは、トンネルの天井に逆さまにぶら下がる女の霊が出るなど、噂が尽きないところです。時間は、明け方近い午前4時すぎでした。他の人とすれ違ったくらいで、特に何も起こらず帰ったのですが、その人に幽霊と間違えられたようです。
というのも後日、Google検索でこのトンネルを調べたときに、夜明け前に2人の女の霊を見た。1人は髪が長かったという内容が書かれていたのです。私たちが行った日時を照らし合わせると、どうもその可能性が高いのですね。
似た例が、京都の厨子奥トンネルに行ったときのことです。住宅街の中ですが、墓地がそばにあって、京都の幽霊トンネルのなかでも有名なところです。そこで、TikTokの配信をしていました。おそらく、いたずらでつけた白いペンキの手形が壁にあって、その様子を実況していました。すると、背後で「ぎゃっ」という声が聞こえ、振り返ったのです。そうしたら、そこで男の人が尻餅ついて座っているのです。
その人は「すいません」と言って、ぱっと立ち上がって去って行かれたのですけど、自分の服装が白いロングコートで長い髪なので、後ろ姿を見て、幽霊だと勘違いされたのだと思います。こういう話をすると、心霊スポットでの恐怖体験は、どれも見間違いだろうと思われるかもしれませんね。でも、古い資料などあたって下調べして、実際に現地へ行くと、ただの噂がそうでないことも結構あったりします。
◆心霊スポットが密集する京都最恐の場所
――ご自身のホームフィールドである京都でイチオシの心霊スポット教えてください。
Coco:私が推すのは、首塚大明神という名の小さな神社です。首塚大明神は、有名な酒呑童子の別名でもあります。そこは、平安時代に暴れた鬼の総大将・酒呑童子の首が眠っているという場所です。源頼光らが、酒呑童子をだまして酒で眠らせ、首をはねたのですが、それを持ち帰る途中で、お地蔵様が、「こんな禍々しいものは京に入れてはいけません。ここに置いていきなさい」って言ったのです。それと同時に、首が重くなって動かせなくなったのですね。
仕方なくその地に埋めて、酒呑童子を祀ろうということになりました。酒呑童子の首もまだ生きていて、「もう悪いことはしません」と言うので、とりあえず一件落着したという伝説が残る場所です。やがてここは、首から上の病をいやすご利益があると、信仰されるようになりました。
そこは、京都のはずれの山を越えた辺りにあるのですが、近くには新老ノ坂トンネルや、かつてはモーテルであった廃墟など心霊スポットが集まっています。特に廃モーテルは、管理棟の2階から女の人の霊が、こちらを覗いてくるそうで、お気に入りです。
首塚大明神自体も、鳥居をくぐると呪われるといわれ、場所自体が禍々しい雰囲気が出ていて、京都の中ではナンバーワンの恐いスポットです。私は、こうした深い歴史的な背景をもった場所が好きで、聖地巡礼ではないですが、何回も訪れています。
◆トラックの車輪に足を踏まれて…
――首塚大明神やその界隈で恐い体験はされましたか?
Coco:私は特にないのですが、首塚大明神に肝試しに行った若者数名の話があります。現地の近くまで来たところで、1人の女の子が「足が痛い」と言い始め、仕方なくその女の子はそこで休んでもらい、残りの人たちが首塚大明神まで行きました。
結局なにも起きず、足が痛いという女の子と合流して、ひとまず参加者の1人の家にいきました。そこでも足の痛みはおさまらないので、タクシーを呼ぶことになりました。
家の前にタクシーが到着したので乗り込もうとしたときに、後ろからトラックがタクシーにぶつかってきて、その女の子がトラックの車輪に足を踏まれてしまい、病院に行ったのですが、足を失ってしまうというエピソードです。これに首塚大明神の影響がどこまで関わっているのかわかりませんが、ゾッとする話だと思いました。
<取材・文/鈴木拓也>
【Coco(ココ)】
京都市出身のホラークリエイター(お化け屋敷プロデューサー)。SNSの総フォロワー数は50万人超の「ホラー界のインフルエンサー」として活躍。最近は怪談作家としても活動の幅を広げ、著書(共著含む)に『京都怪談 猿の聲』『怪談怨霊館』『投稿 瞬殺怪談 怨速』『おかるとらべる 365日ホラー旅』(いずれも竹書房)がある。
公式サイト:「怪談専門のお店 京都怪談商店」
YouTube:「オカトラTV」
X:@coco_horror
Instagram:@coco_horror
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki
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