日本の公的年金制度には、一家の大黒柱に万一のことがあった際に頼れる「遺族年金」が準備されている。しかし、子どもを抱えた専業主婦が、それだけを頼りにその後の人生を過ごせるのかというと、かなり心もとない金額を言わざるを得ない。実情を見ていく。
快活だった40代の大黒柱が急逝
学生時代はスポーツマンとして鳴らし、中堅企業に就職後は、営業部でバリバリ仕事をしていたサラリーマン。持病もなく、健康診断でも大きな問題がなかったにもかかわらず、ある日帰らぬ人に――。
頼りにしていた大黒柱、しかもまだ40代。人生100年時代といわれるいま、まさか亡くなるなんて誰が想像しただろうか。家族が受けたショックは計り知れない。
このような事態に陥った際、残された家族を守る公的なサポートのひとつが「遺族年金」だ。実際、どれほどの金額を受け取れるのだろうか?
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者や、過去に被保険者だった人が亡くなったとき、その人と生計を維持されていた遺族が受けることができる年金である。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった人の年金の加入状況などにより支給される。
厚生労働省『令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、遺族基礎年金の受給者は約4万人、遺族厚生年金の受給者は573万人。
「遺族基礎年金」の受給要件は、以下の通りだ。
①国民年金の被保険者である間に死亡したとき
②国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
③老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
④老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
要件を充たしていれば、「子どものいる配偶者」または「子ども」が遺族基礎年金を受け取ることができる。
「遺族厚生年金」の受給要件は以下の通りだ。
①厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
②厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
③1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
④老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
⑤老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
要件を充たしていれば「妻」「夫」「子ども」「孫」「両親」「祖父母」が順次的に遺族厚生年金を受け取ることができるが、細かい決まりごとがあるため、まずは自身が対象者かどうか、年金事務所などで確認をすることが大切だ。
手にできる「遺族年金」は?
実際の受給額だが、遺族基礎年金の場合、子どもがいる配偶者が受け取れるのは「77万7,800円+子の加算額」、子どもが受け取るときは、「77万7,800円+2人目以降の子の加算額」。加算額は、2人目までが各22万3,800円、3人目以降が各7万4,600円。
一方、遺族厚生年金は、老齢厚生年金の4分の3だ。厚生年金であれば、加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算できる。
たとえば、大卒の46歳サラリーマンが亡くなった場合を考えてみよう。大学卒業後、大卒男性の平均的な給与を手にしてきたとすると、その時点で平均標準報酬額は47万円。簡易的に上記②で計算すると、年77.2万円ほど、1ヵ月あたり6.4万円ほどの遺族厚生年金が支払われる。
子どもが1人いる場合、妻が受け取れる遺族年金合計額は、年間およそ177万円。1ヵ月で14.7万円ほどが、当面の間、残された妻と子どもの生活費となる。
だが、1ヵ月当たり14万円では、とてもではないが親子2人の生活は立ち行かない。もちろん、働きに出るという選択肢はあっても、このご時世、そう簡単ではないだろう。
東京23区在住の41~59歳の妻と、小学生の子どもという母子家庭のケースでは、最低生活費は21万4,960円(生活補扶助基準額12万1,970円、母子加算1万8,800円、児童養育加算1万0,190円、住宅扶助基準額6万4,000円。だだし家賃がこれよりも少ない場合は、その額を支給)。
生活保護を申請すれば、遺族年金との差額である月7万円程度の支給が受けられる可能性もある。もっともその場合、就労の可否や貯金額についても詳しく調査されるため、「申請=受給」というわけではない。
「万一のセーフティーネット」という意味では安心だが、やはり厳しい状況に置かれることは覚悟しなければならない。万一を考え、周到な準備が必要だといえる。
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