アンジェリーナ・ジョリーの最新監督作『Without Blood』が、トロント映画祭で世界初上映された。

熱心な慈善活動で知られ、紛争の残酷さを訴えてきたジョリーは、過去の監督作『最愛の大地』『不屈の男 アンブロークン』『最初に父が殺された』でも戦争を扱ってきた。唯一の例外は、当時の夫だったブラッド・ピットと共演した『白い帽子の女』だ。

『Without Blood』も、戦争の悲劇を語るもの。ただし、アレッサンドロ・バリッコの小説を映画化した今作は、どの国のどの戦争なのかをあえて特定しない。映画は、一軒家に銃を持った男たちがやってくるところからスタート。男たちは、この家の主と息子を殺し、家に火をつける。しかし、隠れていた幼い娘は、逃げ切ることができていた。

それから長い時間が経ったある日、スタンドで宝くじや新聞を売っているティトデミアン・ビチル)の前に、ニーナという女性(サルマ・ハエック=ピノー)が現れる。彼女を見た途端、ティトには、それがあの時の少女であるとわかった。ニーナに言われ、ティトは彼女と一緒に近くの店に入り、テーブルを挟んで向かい合う。そしてふたりは、そこまでに起きたことを、それぞれに振り返っていく。

映画は、ビチルとハエック=ピノーが語る様子をクローズアップで見せつつ、フラッシュバックを織り込みながら展開。会話が進む中、ティトは若い頃の自分はより良い世の中を目指していたのだと主張。しかしニーナは争いを正当化することを否定する。ジョリーの持つ意図は伝わってくるものの、漠然としていて、ややパワフルさに欠ける感じ。ラストもいまひとつ満足できない。

言語は英語。ロケはイタリアで行われた。アメリカでもまだ配給は決まっていない。

文=猿渡由紀