国や一般企業が副業を奨励する方向性にあるなか、サラリーマンの副業が増えています。しかし、売上が上がり所得が増えると、税金も高くなります。そこで、考えられる有効な対策の一つが、「会社」を設立することです。では、どんなメリットがあり、具体的にどのくらい節税できるのでしょうか。本記事では、シミュレーションをまじえ解説します。

副業を法人化する4つのメリットとは?

副業について会社を設立する最大のメリットは、個人事業主よりも、所得にかかる税の負担が抑えられる可能性が高いことです。

詳しくは、以下の5つです。

1. 所得を家族に分散できる

2. 家族への給与を会社の経費(損金)に算入できる

3. 経費計上できる費目が増える

4. 赤字が出たら他の年度の利益から差し引ける(青色申告法人)

5. 法人の方が所得にかかる税率が低い

◆メリット1|所得を家族に分散し税負担を下げられる

第一に、配偶者等の家族を役員・従業員にして給与を支払えば、所得を分散できるという効果があります。

これにより、自分だけの所得として申告するのと比べ、所得税の累進税率の適用を回避することができます。

◆メリット2|家族への給与を会社の経費(損金)に算入できる

家族を役員・従業員にして給与を支払うことには、もう1つのメリットがあります。それは、会社の経費(損金)になることです。

なお、給与の額が「扶養」の範囲内であれば、社会保険料の負担は「不要」です。

◆メリット3|経費計上できる費目が増える

また、法人は個人と比べ、経費計上できる費目が多くなっています。典型的なものは以下の通りです。

・「役員社宅」の賃料

・社有車のガソリン代・維持費(本体購入代金は減価償却費)

・出張手当

・法人契約で加入した生命保険や医療保険の保険料

たとえば、「役員社宅」は、会社が家を借りて賃料を払い、役員を割安な賃料(転貸料)で住まわせるスキームです。

会社は、貸主に支払う賃料(損金)と、役員個人から受け取る転貸料(益金)の差額について、税負担を免れることになります。

また、役員個人は、賃料の一部を会社に肩代わりしてもらうことにより、個人の実質的な手取りを増やすことができます。

◆メリット4|赤字が出たら他の年度の利益から差し引ける(青色申告法人)

次に、青色申告法人であれば、赤字が出た場合に、その赤字分を他の年度の会社の黒字分から差し引くことができます。

これには「繰越控除」「繰戻還付」の2パターンがあります。

「繰越控除」は、次年度以降の黒字から差し引くもので、10年後まで使えます。

これに対し、「繰戻還付」は前年度の黒字から差し引くことができるというものです。こちらは前年度に限られます。

◆メリット5|法人の方が税率の上限が低い

さらに、法人の所得にかかる税金の税率の上限は、個人よりも低く設定されています。したがって、法人で納税申告する方が有利になる可能性があります。

「45歳・副業収入300万円」のシミュレーション

たとえば、45歳の独身サラリーマンで、給与収入(総支給額)が1,200万円、副業の収入が300万円(事業所得扱い)・所得が200万円というケースで試算してみましょう。

なお、設立した会社からは給与は受け取らないものとします。また、所得税国税庁HPの速算表を使用し、住民税は税率10%とし、1,000円単位を四捨五入します)。

◆副業について所得税(事業所得)の申告をした場合

サラリーマンとしての給与1,200万円については、給与所得控除195万円を受けられる結果、給与所得の額が1,005万円となります。これに副業の所得200万円を加えると1,205万円となります。

さらに、基礎控除48万円、社会保険料控除142万円が受けられるので、課税所得は1,015万円ということになります。

これにかかる所得税181万円、住民税は102万円なので、税金の額は総額283万円です。

◆副業を法人化して申告した場合

個人所得はサラリーマンとしての給与所得のみです。給与所得控除の結果、上記の例と同様、給与所得の額は1,005万円となります。ここから基礎控除48万円、社会保険料控除142万円を差し引くと、課税所得は815万円です。

これにかかる所得税126万円、住民税は82万円なので、税金の額は総額208万円です。

次に、法人所得の200万円については、課税所得400万円以下については法人実効税率が約21%なので、法人税額は42万円です。

したがって、所得税法人税の合計は253万円となり、税金の額は、副業を法人化しない場合と比べて30万円安くなります。

10年続ければ、税負担を300万円抑えることができるということです。

なお、副業を法人化した場合、会社の所得は税金を支払ったあと会社の「内部留保」としてプールされていくことになります。これは、最終的に「退職金」として受け取るケースが多いと想定されます。個人が退職金を受け取った場合、退職所得として「退職所得控除」を受けられ、しかも、「2分の1課税」の対象となるので、税負担が大きく抑えられることになります。

また、「経営セーフティ共済」やごく一部の「法人保険」を利用すれば、法人の税負担を抑えながら退職金等の資金を効率よく積み立てられる可能性があります。

さらに、上記の例は独身ですが、たとえば扶養の配偶者がいる場合は、給与を支払うことにより所得を分散でき、かつ、会社の損金に算入できるので、その意味でも税負担が抑えられます。

しかも、前述の通り、法人は個人と比べ必要経費として計上できる費目が多くなっています。

以上の試算はあくまでも税負担に着目したにすぎません。初年度は法人設立のための費用がかかります。また、法人に利益が発生しない年度でも、「法人住民税」は必ず支払わなければなりません。

しかし、事業をある程度長く続ける意思があり、かつ、コンスタントに売上が上がっていく見通しがあるのであれば、副業を法人化することにより大きなメリットを得られる可能性が高いといえます。