海の底は地球最後のフロンティア。宇宙と同じくらい謎とロマンに満ち溢れた空間だ。

 世界的な海洋探査の非営利団体OceanXは、西インド諸島のケープ・エリューセラ研究所と協力し、史上初めて水深500mの深海で、潜水艇からカグラザメに衛星タグをつけるミッションに挑戦した。

 そのミッションの最中に、探査艇に巨大なサメが急速接近。巨大な口が近づいてくるシーンがYouTubeで公開され、見た人を震え上がらせている。

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海底で巨大なサメと第一種接近遭遇

Massive Deep-Sea Shark Checking Out Our Submarine

 2019年6月29日バハマ沖の水深500mの海底で、Ocean Xのチームは餌を用意してカグラザメの登場を待った。

 なんとこの時、45kgものカツオが、サメをおびき寄せるために投入された。

 海底の砂の中から、突然姿を現すカグラザメ。どうやら若いメスらしい。サメは大きな口を見せつけるように、潜水艇のすぐそばを通り過ぎていく。

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恐竜よりも古い古代のサメ

 カグラザメは2,500mまでの深海に生息しているサメの一種で、日本近海でも捕獲されることがある。体長最大8mにも達する大型のサメだ。

 現生の多くのサメは鰓孔が5対なのに対し、カグラザメは6対あるのが特徴で、最も原始的なサメの一種とされている。

 夜間には海面近くまで上がってくることもあるらしいが、基本的には深い海の底で暮らしているため、その生態はまだ謎に包まれている点も多い。

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 潜水艇の窓の中を覗き込むカグラザメ。深海で、こんなに間近でサメと目が合ってしまう経験なんて、滅多にできるもんじゃない。

 Ocean Xではカグラザメについてこう説明している。

この古代の種はほとんどの恐竜よりも古く、深海生態系の支配的な捕食者です。

今回のミッションの主任科学者であるFSU海洋研究所のディーン・グラブス博士は、この捕まえにくいサメの1匹に初めて衛星タグをつけた人物ですが、これまではサメを水面に引き上げることによってのみ可能だったんです

深海で衛星タグをつけることで生物のリアルな生態が明らかに

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 これまで深海の生き物の生態や生息域を研究したくても、ほとんどの場合、彼らが海面近くまで浮き上がって来るのを待つか、長い釣り糸で深海から釣り上げるしかなかった。

 だが多くの場合、深海の生き物は水面近くまで浮上すると弱ってしまい、正常な行動がとれなくなる。そうなると、彼らのリアルな日常生活を追うことは難しくなる。

 せっかく深海魚を釣り上げて、衛星タグ(発信機)をつけることに成功しても、長期間にわたるデータをとるのは至難の業だったのだ。

 そこでOcean Xとバハマ諸島のケープ・エリューセラ研究所は、潜水艇ナディール号を海底に下ろし、カグラザメの身体に衛星タグをとりつけるミッションに挑んだ。

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 この映像はそのミッションの最中に、探査艇に近づいてきたカグラザメを撮影したもの。 参加した科学者たちの興奮が伝わってくる映像だ。

 この動画は現在までに約2,580万回再生され、海外掲示板redditではOcean Xが直接質問に答えるスレッドも立てられた。

  • サメの大きさはどのくらいですか?
    • たくさんのサメを見ましたが、おそらく4mかもっと大きな個体が1匹いました
    • 私が見たのは、潜水艇よりも大きかったです
  • 海にはまだ発見されていないサメがどのくらいいると思いますか?
    • 世界のサメの50%がまだ発見されていない可能性は十分にあります
  • この衛星タグは、どのようなデータを収集するのですか?
    • 深度と温度を記録します。さらに光のレベルも収集することで、その個体がどこにいるかを知ることもできますが、深海にいるサメの場合はあまり有効ではないでしょうね
  • タグはどのくらいの頻度で衛星と通信するのでしょうか。通信するためには一定の深さまで浮上する必要がありますか?
    • 私たちはアーカイブタグを使用しています。これは大量のデータをタグに保存しておいて、タグが外れた後でまとめて衛星に送信します。タグをつけてから一定時間が経過すると、電流が発生して金属面が腐食し、タグが外れて浮かび上がる仕組みです。
  • 閉所恐怖症にはならないのですか?
    • 面白いことに、潜水艇の中では自分が狭い空間にいるということさえわからないんです。まるで水族館で泳いでいるような気分になりますよ

 最初の動画のフルバージョンがこちら。残念ながらタグを打ち込む瞬間は写っていないが、9:20あたりで「オスのサメにタグを打ち込むことに成功した」というメッセージが読み上げられている。

Submarine Diving with Giant Deep-Sea Sharks (Bigger on Average than Great Whites)

自動的に外れるタグで、深海生物のデータを収集

 今回カグラザメに装着した衛星タグは「ポップアップ衛星アーカイブタグ」と呼ばれるもので、約3か月が経過すると、サメから外れるようになっている。

 タグはその後海面まで浮かび上がり、これまでタグに保存されていたデータを衛星に送信するのだ。

 そのデータを解析することで、カグラザメの行動範囲や生態の解明につながることが期待されている。

 Ocean Xでは世界中のさまざまな海で、同様のミッションに取り組んでいる。たくさんのデータが収集されることで、深海の生態系の謎が解き明かされる日は近いのかもしれない。

 ちなみに、衛星タグを打つと言っても、どういう状況かわからない人が多いと思う。カジキの身体に衛星タグを打ち込む動画があったので、深海でのミッションではないけれど参考までに貼っておこう。

カジキのヒット。そして衛星タグを打つ

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